12星座全体の運勢

「闇への畏敬を取り戻す」 

今年も残すところあと約一か月。占星術的には太陽がいて座に移ると、冬も深まり冷え込み厳しくなる仲冬に入ったのだと感じますが、そんな中、12月4日にいて座12度(数えで13度)で新月を迎えていきます。 

今回の新月のテーマは「新しいサイクルの到来と過去のカルマの噴出」。これはヒット作に恵まれて一躍売れっ子になったスターが、若い頃の苦労話や子供の頃のエピソードを掘り起こされて、波乱万丈ストーリーが作りあげられていくのに似ています。そうして、後者が前者に取り込まれるようなかたちで、壮大な叙事詩を織りなしていこうとするのです。 

例えば、詩人の高橋睦郎はかつて21世紀の第二年を迎える年頭に際して書いたエッセイの中で、「前世紀への反省をこめての今世紀の第一の課題は、光への過信に対する闇への畏敬ではないだろうか」と書いていました。 

ここで「光」と言っているのは、人類の進歩への無邪気な信頼であると同時に、尽きることのない人類の傲慢な欲望のこと。そして、「闇」とは人間がどうしたって暴くことのできないこの世界の不可解さであり、そういう不可解さや、簡単には説明のできないことも、この世にはあるのだと受け入れ、判断を保留にしておくだけの余白を残しておくことこそ、先に述べたような叙事詩的な感性の要となるのではないでしょうか。 

今季のあなたもまた、華やかに賑わい始める街の光景のかたわらで、冬ならではの鮮やかさで心に浮かび上がってくる数々の思い出とともに、闇の感覚を研ぎ澄ませてみるといいでしょう。 
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蟹座(かに座)

今期のかに座のキーワードは、「水平」。

蟹座のイラスト
日本もそのど真ん中を行く家父長制的な社会では、結婚して家庭を持って家を買うべきとか、女は貞淑でエロスを持たない良妻賢母となるべきとか、「正統」とされていることから逸脱するセクシュアリティや生き方をしていると、これでもかと言うくらいに蔑まれたり、下に見られたり、時になかったことにさえされたりしますが、そうした「言葉の暴力」に抗していくには、やはりもう一つの現実を浮かび上がらせるだけの想像力と言葉とが必要となってくるように思います。 
 
例えば、多和田葉子の小説『星に仄めかされて』では、北欧に留学中に日本とおぼしき母国を失ったHirukoが同郷人のSusanooに会うために国境を越え、彼女を慕うクヌート、ナヌーク、ノラ、アカッシュら言語も性的志向もばらばらの面子とともにコペンハーゲンに集結します。 
 
彼らはそれぞれが周囲の無理解や自身の抑圧と葛藤しているのですが、例えばHirukoは「いつもクヌートとくっついているのに恋人関係にはならない。他に恋人がいるわけではないし家族も一人もいない。それなのに飄々として生きている」し、一方のクヌートは「母親に性欲があることがどうしても許せない」ことを誰にも話せないでいたりする。しかしそれでも、彼らは「正統」なセクシュアリティや生き方からの逸脱をめぐって対話しながら、何らかの解決を模索していこうとする態度では共通しており、それはHirukoとクヌートの次のような会話に象徴的に表れています。 
 
深い、は違う。深い、は垂直。奥は水平。」 
「そうか。水平か。地面に穴を掘って入っていくんじゃなくて、遠くに歩いていけばいいんだ。僕らは一緒に遠くに歩いて行こう。」 
 
多様性を排除する家族愛ではなく、友情で「水平」に繋がっていくふたりの関係性は、小説内で重要なモチーフである因幡の白兎の神話とも重層的に響きあっていくのですが、クィアで異質な人間がこの異性愛中心のこの社会で生きていく上で、「一緒に遠くに歩いて行こう」という言葉は一つの光明ともなるのではないでしょうか。 
 
かに座から数えて「ケア」を意味する6番目のいて座で新月を迎える今期のあなたもまた、他者への関わりを通して、自分なりの「水平」を広げていけるといいのですが。 
 
 
参考:多和田葉子『星に仄めかされて』(講談社) 
12星座占い<11/28~12/11>まとめはこちら
<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ