12星座全体の運勢

「記憶の「虫だし」」 

土の中にあたたかい気配が届き、それを感じた虫たちが穴の中から這い出してくる「啓蟄」直前である3月3日に、うお座12度(数えで13度)で新月を迎えていきます。 

「非現実的で、過度な理想主義」や「既存世界の<外部>への遁走」を意味する木星と海王星の組み合わせのすぐそばで形成される今回の新月のテーマは、「負の記憶の解消」。 

桃の花がほころびはじめ、青虫が蝶に変身して夢見るように見え始める3月はじめの新月は、新しいサイクルの本格的な始まりというよりは、これまでのサイクルのなかに取り残されたままのわだかまりや怨念をきちんと鎮めていくことにあります。 

昔の人は、蛇やカエルやトカゲなど、小さな生物はみな「虫」と呼び、この時期になる雷の音におどろいて虫たちが這い出してくるものと考えて、春の雷を「虫だし」と名付けていましたが、逆に言えば、寒さに耐えて地中でちぢこまっている虫が残っている限りは、まだすべての生命が喜びとともに祝う春ではなかった訳です。 

その意味で、今回のうお座新月は、きたる春分(新しい一年の始まり)に向けて、自分だけでなく周囲のみなが忘れかけている記憶や歴史の業を解消していく霊的な働きに、いかに自分を一致させていくことができるかどうかが問われていくことになるでしょう。 
>>星座別の運勢を見る

蟹座(かに座)

今期のかに座のキーワードは、「滅亡」。

蟹座のイラスト
作家の武田泰淳は、日本が戦争に負けて数日たった頃、周りがロシア人や中国人ばかりの上海のフランス租界にドイツ系ユダヤ人の女性と同棲していた友人宅を訪ねた先でしたある体験について、次のように書き残しています。 
 
神経質に部屋を歩きまわっていたドイツ女は「悪い月よ、早く去れ」と英語でいう。私と友人は気まずそうに顔見合わすばかりである。(略)何故ならば、今や我々は罪人であるからだ。世界によって裁かれる罪人であるからだ。その意識に反芻するため、私たちは苦笑し、から元気をつける。そして、歓喜の祝典からのけものにされたどうしが、冷たいしずけさ、すべての日常的な正しさを見失った自分たちだけのしずけさの裡に、何とかすがりつく観念を考えている。するとポカリと浮かび上がってきたのは「滅亡」という言葉であった。」 
 
とはいえ、武田自身も言及しているように、滅亡を考えるとは、みじめったらしい舌打ちにも似た「ひねくれであり、羨望であり、嫉妬」に他ならなかった訳ですが、それでも「日本の国土にアトム弾がただ二発だけしか落とされなかったこと、そのために生き残っていること、それが日本人の出発の条件なのである」と言い切ってみせたのです。 
 
歴史的にも全的滅亡の体験がずっと深い中国に比べれば、日本のそれは「ごく部分的な滅亡」であった訳ですが、それでもすべての文化、とりわけ宗教的な救いを含んだそれの母となって、それまで自分たちとは無縁のものであった「巨大な時間と空間」とを瞬間的にとりもどさせたのです。 
 
人類レベルの危機がもはやこれ以上無視できないレベルで増大している今、日本社会に必要なのは、そうした歴史的な、大なる眼で見たときの「自分たちは滅亡するかも知れない」という意識の深さや鋭さなのかも知れません。 
 
今期のかに座もまた、そうした60年以上前に提起された問題意識を、いかに自分なりに受け止め、継承していけるかということが問われていくでしょう。 
 
 
参考:武田泰淳『滅亡について』(岩波文庫)
12星座占い<2/20~3/5>まとめはこちら
<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ