12星座全体の運勢

「記憶の「虫だし」」 

土の中にあたたかい気配が届き、それを感じた虫たちが穴の中から這い出してくる「啓蟄」直前である3月3日に、うお座12度(数えで13度)で新月を迎えていきます。 

「非現実的で、過度な理想主義」や「既存世界の<外部>への遁走」を意味する木星と海王星の組み合わせのすぐそばで形成される今回の新月のテーマは、「負の記憶の解消」。 

桃の花がほころびはじめ、青虫が蝶に変身して夢見るように見え始める3月はじめの新月は、新しいサイクルの本格的な始まりというよりは、これまでのサイクルのなかに取り残されたままのわだかまりや怨念をきちんと鎮めていくことにあります。 

昔の人は、蛇やカエルやトカゲなど、小さな生物はみな「虫」と呼び、この時期になる雷の音におどろいて虫たちが這い出してくるものと考えて、春の雷を「虫だし」と名付けていましたが、逆に言えば、寒さに耐えて地中でちぢこまっている虫が残っている限りは、まだすべての生命が喜びとともに祝う春ではなかった訳です。 

その意味で、今回のうお座新月は、きたる春分(新しい一年の始まり)に向けて、自分だけでなく周囲のみなが忘れかけている記憶や歴史の業を解消していく霊的な働きに、いかに自分を一致させていくことができるかどうかが問われていくことになるでしょう。 
>>星座別の運勢を見る

獅子座(しし座)

今期のしし座のキーワードは、「ヌミノーゼ」。

獅子座のイラスト
いつの時代にあっても、自分をやさしく包み込んでくれる対象に対して、人びとは惹かれ、信仰心を生ずるものであり、その事例が欧米におけるマリア信仰や、日本における観音信仰であったりする訳ですが、人びとを強く魅了する要素は決してそればかりではありません。 
 
周囲を寄せつけず、こちらを圧倒するようなものに対して、人びとがそれと相反する魅惑を感じたときにもまた、そこに信仰が芽生えてしまうものであり、おそらく、そうした存在として日本で古来より人びとを惹きつけてきた最大の存在が「お不動さま」、すなわち不動明王なのではないでしょうか。 
 
仏教学者の渡辺照宏は『不動明王』において、不動明王を観想していく上での特徴は要するに「奮迅、忿怒、威猛」に尽きるのだとした上で、次のような斬新な表現で説明を加えています。 
 
明王は如来の教令を実行するために忿怒身を示現するのである。近代ヨーロッパの宗教学者の用語を借りればヌミノーゼ―恐怖=畏敬の念をおこさせることによって信仰に導く―という。不動尊は外に向かっては魔障を脅威し、内においては煩悩を滅ぼすのである。」 
 
大乗仏教の代表的な菩薩であり、仏になるという究極目標を脇において衆生救済に専念している観音菩薩がどれも均整のとれた美しい容貌をしているのに対し、密教を代表する仏格である不動明王は、確かに眼も歯もふぞろいで、唇を歪ませ、髪はばらばら、皮膚は青黒いという奇怪な容貌をもっています。 
 
しかし、渡辺によれば不動明王の本質にある願いは、すでに自身はすでに仏になっているにも関わらず卑しい姿をとって他の仏たちに奉仕し、自分に祈りを捧げる人びとの願いを聞き届けるという「奴僕行」であり、信仰者にも自分と同じく奴僕となって世のため人のために尽力せよと要請するのだそうです。 
 
つまり、不動明王は「奇怪」にして「崇高」であるという「ヌミノーゼ(言葉では言い難い非合理的で、さまざまな宗教的要素を包含したもの)」の体現者であり、それゆえに人びとはそこに「畏怖」を感じてひれ伏すと同時に、どうしようもなく「魅惑」を感じて引きつけられるのだと言うのです。 
 
今期のしし座もまた、そうした「ヌミノーゼ」と自分がいつどこで感じたのか、そしてどうしたら自身もまた「お不動さま」に近づけるのか、考えてみるといいでしょう。 
 
 
参考:渡辺照宏『不動明王』(岩波現代文庫) 
12星座占い<2/20~3/5>まとめはこちら
<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ