セックスレスは悪いこと? レスになる原因やきっかけを専門家がアンサー【モア・リポート】
1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、2017年までに延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。
コロナ禍を経て、恋愛・セックスはどう変化したのでしょうか?
今回は、産婦人科専門医の宋美玄先生に、コロナ禍で変化したセックス事情や、20~30代が抱えるセックスレスのお悩みについて、伺いました。
教えてくれたのは……
1976年兵庫県神戸市生まれ、大阪大学医学部医学科卒。2010年に出版した『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社刊)がシリーズ累計70万部突破の大ヒットとなり、各メディアから大きな注目を集め、以後妊娠・出産に関わる多くの著書を出版。“カリスマ産婦人科医”としてメディア出演、医療監修等、女性のカラダの悩み、妊娠・出産、セックスや女性の性など積極的な啓蒙活動を行っている。2児の母。
- 「する人」「しない人」二極化するセックスライフ
- コロナで「気のすすまないセックスは断りやすくなった」
- コロナ禍でセックスレスは増えた?
- セックスで大切なのは「相手がしたいかどうか」
- セックスレスは悪いこと?
- セックスレスは永遠のテーマ
「する人」「しない人」二極化するセックスライフ
――コロナ禍を経て、セックスはどう変化したのでしょうか。
コロナ禍以前からセックスは「する人」と「しない人」で二極化していました。それがコロナの影響でより顕著になった可能性はあると思います。
セックスレス以前に20~30代で「一度もセックス経験がない人」の割合も、5~15%と一定数います。さまざまな調査がありますが、どのデータもおよそ同じです。(宋先生、以下同)
500人中86.6%の女性が「セックスの経験がある」と回答。2017年の調査と比べると、80.2%から約6%増。
※全国の20〜34歳女性500名(平均27.3歳)に、インターネットによるアンケート調査、またはオンラインでの直接取材を実施。性に関する意識や実際の性体験など、択一式および記述式で回答
――取材の中で、20~30代の女性が恋愛・セックスについてネガティブなイメージを抱いていたり、セックスレスに悩んでいたりする声も多いです。
今の20~30代は、日本経済全体の不景気によって、恋愛やセックスに消極的になっていると言われていますよね。好景気だったバブル期(1986~1991年)の若者は、今よりずっとセクシャルアクティビティが高く、セックスの回数やパートナーが多い場合に発症リスクが高まる「子宮頚がん」になる女性が今より多い傾向にありました。
それだけ恋愛やセックスに積極的な方が多かったということです。
その頃と比べると、今の20~30代は、デートやセックスを楽しむ経済的な余裕がなかったり、そもそもコロナ禍で自然な出会いが難しかったり、“恋愛に発展しない”状況もあります。一方で、マッチングアプリなどを使って自分から積極的に出会いを求める人たちがいて、その人たちにとっては時代やコロナは関係ないことが多い。
だから、コロナ禍で恋愛はますます二極化し、恋愛・セックスにハイパーアクティブな人たち以外、“レス化”していると考えられます。
――この恋愛やセックスの二極化現象、今後どうなっていくのでしょうか。
マスクが恋愛に与えた影響も大きいですよね。やっぱりマスクをしていると距離ができてしまうし、お互いの感情も読み取りにくい。今はマスクを外してデートに出かけることができるようになったし、夜間の外出を制限されていた頃に比べれば、自然な出会いが増えて、二極化は緩やかになっていくのではないかなと思います。
コロナで「気のすすまないセックスは断りやすくなった」
――お話を聞いていると、コロナが恋愛やセックスに与えた悪い影響は大きいですね。
でも、悪いことばかりじゃないですよ!
たとえばコロナ禍で「気のすすまないセックスは断りやすくなった」ということがあります。自分はしたくないのに、相手にあわせてしなくちゃいけないのかな……といった場面。そんな時「コロナだから」と、断りやすくなったという声も。
――たしかにコロナが理由であれば、相手を傷つけることなく、断ることができますね。
特に女性の中には、相手に合わせたセックスを渋々受け入れているという人も多いので、この点は良かったかもしれませんね。
コロナ禍でセックスレスは増えた?
――その一方で、取材をした女性の中には、コロナ禍でセックスレスになって悩んでいるという声もありました。
コロナ禍のセックスレスは、とっても難しい問題ですね。
自分やパートナーが感染対策に対して敏感か、それとも無頓着かで大きく分断されるからです。セックスどころかキスも「唾液なんて無理!」と思う人もいるでしょうし。
まったくスキンシップを取らずに数年過ごしていると、いざコロナが緩和された時でも「今さら……」という気持ちになってしまい、セックスレスに陥ることも多いです。
――コロナによる制限が緩和されても自然とレス問題が解決することはない、ということですね。
私の相談者で、夜間外出が制限されていた時期にもかかわらず、キャバクラで遊んでいた旦那さんに、コロナをうつされてしまった女性がいて。その方は「ありえない! もう一緒に寝たくない!」と旦那さんと寝室を別にしたんです。
コロナによる制限が緩和された今も、寝室は別で、セックスレスどころか夫婦関係自体が悪化したままです。
――それはなかなか修復が難しそうです。
レスってセックスしてないだけの問題に見えるけど、その裏にはもっと大きな価値観の相違が隠れていることが多い。コロナはセックスレスの原因ではなく、あくまできっかけ。価値観の違いがコロナによって露呈した、と考えたほうがいいと思います。
セックスで大切なのは「相手がしたいかどうか」
――それでもセックスレスを解消したいと思った時、どうすればいいのでしょうか?
セックスは相手ありきなので、「相手がどう思っているか」を知ることが大切です。もちろん、レス解消の本を読んだり、ムードを作ったりすることも重要。だけど、一番大切なのは相手が自分とセックスをしたいと思っているのかどうか。
――コミュニケーションを取ることが大切ということですね。
そうですね。パートナーとコミュニケーションを取って、相手の気持ちを知ることからまず始めてみて。もしコミュニケーションを取ることすら難しいとなったら、レス以前の問題。相手がどれだけレスを解消したいと思っているか、話し合ってみてほしいと思います。
――話し合ったうえで前向きであればどのようなことを試せばいいのでしょうか。
毎日少しでもいいからスキンシップを取ること! ハグしたり、キスをしたり、ちょっとイチャイチャする程度で大丈夫。まったくスキンシップを取らない状態からセックスに持ち込むのは難しいので、軽い性的接触を積極的に持つようにしてほしいなと思います。
セックスレスは悪いこと?
――先日の取材で、「セックスレスは悪いこと」という自身の思い込みが自分を苦しめているかもしれないと思ったというエピソードがありました。そもそも、セックスレスは悪いことなのでしょうか?
図:セックスレスに対するイメージ
“セックスレス=悪”と思う理由が「女性ホルモンが出なくなる」とか「女として枯れてる」「みんなしてるのに」と言う人がいますけど、それはよくないですね。
セックスで大切なのは「自分がしたいかどうか」。したいと思っているのに、それをパートナーと叶えられない状況がセックスレスです。結婚や子供など、世間体に触れるところだと、周囲の目が気になってしまうけれど、セックスは、レスだろうが他人から評価されるものでもない。
だから周りは気にせず、まずは「自分がどうしたいか」ということを考えてほしいなと思います。
セックスレスは永遠のテーマ
――セックスレスの悩みは、結婚生活が長い夫婦に起こる問題だと思っていましたが、取材をしてみると、未婚や新婚の20〜30代からも多く挙がります。
どの世代問わず、セックスレスに悩む声はありますが、10代や20代だと「レスだから別れる」という選択もできますよね。でも、大人になればなるほどセックスなしでもパートナーシップは続く傾向にあるので、30代以上になると、レスはどの世代でも共通の悩みになってきます。
――レスに悩むのは、“パートナーとこれからも一緒にいたい”という気持ちの表れでもありますよね。今現在セックスレスに向き合っている20〜30代に向けてアドバイスがあれば教えてください。
セックスレスは男女の永遠のテーマ。どれだけ好きでもレスは起きてしまうものです。まずは自分とパートナーとの関係について分析してみてください。
セックスしないだけで仲はいいのか、それとも悪いのか。過去や現在の関係の中で、なにか別の問題をはらんでいないか。そのうえで、自分自身が「セックスをどうしたいのか」を考えてみる。パートナーとセックスをしたいのか、それともただセックスをしたいだけなのか。
そしてパートナーと話し合う。パートナーと話し合う余地もなかったら解消は難しいです。レスは話し合いをすっとばして解決できない問題なので、パートナーとコミュニケーションをしっかり取ってみてくださいね。
取材・文/毒島サチコ