「ただただセックスがしたくなかった」悩んでたどり着いた、アセクシャルという答え【モア・リポート58】
1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、2017年までに延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。
そして、恋愛やセックスがいっそう多様化している現在。20代、30代の体験談を取材した新「モア・リポート」をお届けします!
マイノリティの中でもさらにマイノリティ。アセクシャルの私
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ーDATAー
青山さん(仮名)26歳 /会社員/未婚
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セックスを重ねるごとに「なんでこんなことをしてるんだろう…」と思った
ーー彼からのセックスを拒否しつづけた経験がある?
はい。23歳から25歳の間、交際していた彼のセックスが途中から受け入れられなくなりました。最終的に拒否することが増え、別れた経験があります。(青山さん、以下同)
ーーなぜ拒否したのですか?
ただただセックスがしたくなかったんです。付き合った当初は、セックスはカップルであれば当然受け入れなくちゃいけないものだと思って、我慢していたのですが。
回を重ねるごとに「なんでセックスをしてるんだろう…」って思うようになりました。
ーーそれが別れの原因になったのですか?
そうですね。別れが決定的になったのは、クリスマスに彼の部屋でセックスを誘われた時でした。気持ち悪くて「やめてよ!」と強く拒否してしまった。彼は相当傷つき「もう帰って……」と言い、そのまま別れることになりました。
「セックス したくない」で検索し、気付いたセクシュアリティ
ーー彼とするセックスが嫌だったのですか?
いいえ。相手は関係なく、私は“セックスをすること”自体に拒否反応があったんです。
ーーそれを彼に伝えましたか?
彼はセックスをすることを当然のように考えていたので、言えませんでした。
多くの恋愛ドラマや少女漫画では、付き合って、セックスをして、という流れが自然に描かれている。それなのに、どうして私はセックスができないんだろう……と悩み、ネットで「セックス したくない」「セックス 苦手」と検索してみたんです。
そこではじめて、恋愛感情と性的欲求は別で、アセクシャル(他者に対して性的欲求を抱かないセクシュアリティ)があるということを知りました。
ーーその時、どう思いましたか?
セックスを断ることが増え、彼を傷つけてしまった時、セックスができない自分は人間的に問題のある欠陥品だと思っていました。でも、アセクシャルを知って「私ってそういうセクシュアリティなんだ」と少しだけ気持ちが楽になったのを覚えています。
学生時代から感じていた、恋愛感情の違和感
ーー別れを経て、自身のセクシャリティに気づいたのですね。
はい。さらにネットで色々と調べるようになって、自分がアロマンティック・アセクシャル(※他者に恋愛感情も性的欲求も抱かないセクシュアリティ)であるということに気づきました。
ーー彼に恋愛感情もなかったのですか?
そもそも恋愛感情が、どんな感情かわかっていなかったんです。
私は物心ついた時から、他者に対して抱く「仲良くなりたい」という感情が「友達になりたい」なのか「恋愛関係になりたい」なのか、区別がつきませんでした。
でも、たぶんこれが恋愛なんだろうなぁ……とぼんやり思っていました。
だから職場の先輩として仲が良かった彼に告白された時も「この人とは仲良いし、恋愛だよね?」と自分に言い聞かせるようにして付き合ったんです。
ーー「異性と仲良くなりたい」=「恋愛感情」だと思ったのですね?
そうですね。告白された当時、私は23歳で、彼は初めての彼氏でした。周りも恋愛しているし、自分もそろそろ彼氏を作らなきゃ……と、焦る気持ちもありました。
でも、少女漫画や恋愛ドラマでよく見るようなドキドキする気持ちは一向にわかない。いわゆる恋愛感情とのギャップを感じていました。
アセクシャル限定のコミュニティに参加して、素の自分に
ーーその後、どうなりましたか?
自分のセクシュアリティにやっと気づいたものの、周囲に同じセクシュアリティの人はいません。X(旧Twitter)でアカウントを作って、アセクシャルの方と交流をはじめました。そこで、都内にあるアセクシャル限定のカフェの存在を知り、参加してみることにしたんです。
ーー参加してみてどうでしたか?
カフェでは自分以外のアセクシャルの方々と、はじめてそれぞれの悩みや情報を交換でき、自分の素をさらけだすことができました。これをきっかけに、アセクシャルが集まれる場所を自分で作りたいと考えるようになったんです。
ーー現在青山さんは、アセクシャルが集まれる場所「えーふらっと」を開設されていますね。
はい。アセクシャル、またはそれに近い性的指向を自認している方が集まって交流できる場を提供する活動を1年前からはじめました。
ーーどのような方が参加されますか?
私のように交際相手とうまくいかなかった経験がある方や、人生で一度も交際・セックスをしたことがない方が「自分はアセクシャルかも」と思って「えーふらっと」にたどり着いてくれています。
参加者の年齢層は幅広いですが、25歳~35歳くらいが一番多く、男女比は、1対9で、圧倒的に女性の比率が高いです。
ーー参加者同士でどのような会話をしますか?
自身が自認した時のことや、将来の話、理想のパートナー像などを話すことが多いです。アセクシャルでパートナーがいる方は少ないのですが、パートナーを求めている方も来られます。
ーーどのようなパートナーを求めている方が多いですか?
一般的なパートナーは、付き合って同棲をして結婚という流れを想像しますが、アセクシャルは「会うのは一カ月に一回程度」「同棲はしないけど会える距離に住む」を理想の付き合いとして挙げる方も多いです。
ーー自立した関係を望んでいる方が多いのですね。
そうですね。だからこそ将来的な話もします。パートナーがいても、独身だと高齢になるとマンションを借りるのが大変になるので、今のうちにマンションを買っちゃおう、とか。
その一方で、友情結婚したいと思っている人たちもいます。
新しい家族のカタチ、友情結婚とは?
ーー友情結婚とはなんですか?
恋愛や性行為のない、友情をベースとした結婚です。男女比に偏りがあるので、アセクシャル同士の結婚はなかなか難しいようです。中にはアセクシャル同士ではなく、アセクシャルと同性愛者の方が結婚するパターンもあります。
ーーそれはお互いのセクシュアリティを理解したうえでの結婚ですか?
そうですね。お互い理解のうえでというケースが多いと思います。
ずっと1人は寂しいと感じて友情結婚を選ぶ人もいれば、「親から結婚しろと言われる」とか「上司に結婚して一人前と言われる」とか。世間体を保つために友情結婚を選ぶ人もいます。
ーーパートナーが同性愛者だった場合、別の人と性行為をすることは許容できるのでしょうか?
それは、それぞれ夫婦間での話し合いになると思います。許容している人もいれば、絶対にNGという人、“バレないようにして”という人……さまざまです。友情結婚は、相手との信頼関係で成り立つ関係なので、結婚前のすりあわせは通常の恋愛結婚よりも時間をかけてする必要があると思います。
――今後、どうしていきたいですか?
「えーふらっと」を通じて、たくさんのアセクシャルの方々と意見交換がしたいです。
ゲイやレズビアンが集う場所はたくさんありますが、アセクシャルの集う場所は少ない。アセクシャルはマイノリティの中でもさらにマイノリティだからです。
メディアにあふれているのは「恋愛は素晴らしい」とか「恋愛やセックスしない若者が増えている」とか。恋愛・セックスをすることが“当たり前”という前提の情報です。
でも、その“当たり前”に苦しんでいる人がいる。私もその一人でした。「えーふらっと」は、そんな人たちの駆け込み寺でありたいと思っています。
取材・文/毒島サチコ