恋愛リアリティ番組に出演して思わぬ弊害。悪役演出で「恋愛するのが大変に」【モア・リポート59】
1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、2017年までに延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。
そして、恋愛やセックスがいっそう多様化している現在。20代、30代の体験談を取材した新「モア・リポート」をお届けします!
恋愛リアリティ番組に映し出される人格は、リアルな自分?
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ーDATAー
三原さん(仮名) /29歳/会社員/未婚
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本気で結婚したくて、人気恋愛リアリティ番組に出演
ーー恋愛リアリティ番組に出演した経験がある?
はい。数年前、とある婚活サバイバル番組に、数十人の女性参加者の1人として出演しました(三原さん、以下同)
ーー出演したいと思った動機は何ですか?
20代後半に差し掛かっていたので、本気で「結婚したいな」と思ったのがきっかけです。
ーー恋愛リアリティ番組の出演者は、婚活ではなく売名目的だという声もありますが、三原さんはそうでない?
オーディション段階であからさまな“売名目的”の人は落とされると思います。
私は結婚したいという気持ちが第一にありました。
ただ、当時フリーで芸能活動もしていたので、出演することによって視聴者に私の存在を知ってほしいなという気持ちは少しありました。
でも、そのプライオリティは「結婚したい」という気持ちよりもずっと下でしたね。
「出演しなければよかった」と感じる日々
ーー出演してみてどうでしたか?
正直に言うと、出演直後は「出演しなければよかった」と感じる場面が多々ありました。
ーーそれはどんな時ですか?
番組内での私のキャラクターが、そっくりそのまま“現実での私のキャラクター”だと思われるようになったからです。
私は番組で、気が強く、時にヒール役として映っていました。
そのせいで、放送後に会う初対面の人から「三原さんって、もっときつい人だと思っていました。実は優しい方なんですね」と言われることも多く。恋愛をしたくても番組のイメージをひっくり返すところからはじめないといけないので大変でしたね。
ーー番組内での人格=現実での人格だと思われるようになったのですね。
そうですね。
これが役者さんであれば、悪役を演じても視聴者は「演じているんだな」と思って観るはず。役の人格と本人の人格を切り離して捉えると思います。でも、恋愛リアリティ番組はリアルが売りであるがゆえ、出演者の番組上での人格=本当の人格、と視聴者に捉えられます。
ーー恋愛リアリティ番組上の人格=本当の人格ではない?
リアリティ番組なので、映像に映るのものはすべてリアルです。ただ、膨大な素材からどの言動を切り取って放送するかは制作者側次第。番組を盛り上げるために印象的なシーンを切り取るので、出演者の人格はよくも悪くも誇張されてしまう部分は大きいと思います。
出演者同士が会話をしているシーンも、片方だけの意見や表情のみが切り取られ、編集していることもありました。公平さがなく、物語の辻褄を合わせるための編集だと感じました。それゆえに私が完全な悪役に見えるような場面もありましたね。
放送を観た時、罠にはめられたような気分になってショックでした。
恋愛リアリティ番組出演の反響が続くなか、会社員に転身
ーー出演から数年たった現在はどうですか?
現在は表に出る仕事はやめて、広告代理店の社員として働いています。
仕事でもプライベートでも、初対面の方からは「〇〇に出ていましたよね?」と言われることが多く、番組の根強い人気を感じつつ、こんなに影響力のある番組なんだなぁと感じます。
放送されてから数年たちますが、たびたび「出演者の現在」がSNSで話題に挙がるので、ほかの出演者の近況をたまに目にすることもあります。
ーーみなさん、現在はどのような活動をしているのでしょうか?
カップルインフルエンサーやタレントになった方が多いですね。多くのフォロワーを獲得している人もいます。ただそれは、番組内で“いい人の印象”で映っていた方に限りますね(笑)。
ーー番組上での人格=本当の人格ではない、という話もありましたが、その点について感じることは?
現実でほかの出演者の悪口を言いまくっていたのに、番組内では優しい女性として映っていた出演者が、放送後も“番組内でのいい人イメージ”をSNS上で見せて、ファンを獲得していることはよくあります。
ーー番組内での人格をSNS上でも演じているということでしょうか?
そうですね。リアリティ番組より、出演者のその後を番組にしたほうが、よっぽどドロドロしていてリアルですね(笑)。
「実はあの時……」って告白することが許されるのであれば、話したいと思うことがたくさんあります。でも、それはできないので心にしまっています。正直なところ、いいイメージに編集されている出演者がうらやましくて、くやしかったこともたくさんありましたから。
リアリティ番組と誹謗中傷問題
ーー恋愛リアリティ番組では、SNSでの出演者への誹謗中傷がたびたび問題となっていますが、三原さん自身が誹謗中傷にさらされた経験はありますか?
私自身、番組放送直後にはSNSでさまざまなことを言われました。でも、番組内でいいイメージで映っていた出演者たちのほうが実は、誹謗中傷のターゲットになりやすい。放送後、プライベートでイメージが悪化するような情報が流れると、熱烈な番組ファンによって「騙された!」と、誹謗中傷にさらされる出演者が多いです。
ーーイメージがいいために、プライベートとのギャップを受け入れられない番組ファンからの誹謗中傷があるということですね?
はい。番組終了後、人格を絶賛されていた出演者たちが急にディスられる立場になった時の誹謗中傷はすごいです。SNSでの誹謗中傷によって、心の病気にかかってしまった出演者も身近に見てきました。
恋愛リアリティ番組の出演者は芸能人ではないので、マネージャーや事務所のサポートがありません。
だからこそ今後、リアリティ番組への出演を考えている人は生半可な気持ちで出演を決めてはダメだと思うし、制作側の人もより一層心のサポートをしてほしいと思います。
恋愛リアリティ番組出演者のこれから
ーーここまで恋愛リアリティ番組の負の部分を教えてもらいましたが、逆に良かったことはありますか?
もちろんありました。恋愛リアリティ番組に出演したことで、物事を多角的に見る目が培われたなと思っています。
恋愛リアリティ番組はリアルです。でも、番組のリアルは“ひとつのカメラ”から見た姿。人には、正面から、右から、左から、さまざまな姿があります。
それをわかったうえで、視聴者の皆さんには恋愛リアリティ番組を楽しんでもらいたいなと思います。そして、私も物事をさまざまな視点から見ることのできる人間でありたいなと思っています。
ーー出演を経験して、今後どのような恋愛をしていきたいですか?
恋愛リアリティ番組に出演して感じた、恋愛をするうえで大切なことが2つあります。
1つは自分を演じて相手に好かれようとしないこと。もう1つは自分自身を愛すること。
番組出演後しばらく落ち込みましたが、数年たった今では自分を偽らず、自然な自分を愛せるようになりました。
そうすることで恋愛もうまくいくようになったんです。
恋愛リアリティ番組での主役は、最後に結ばれた2人です。私は番組内では脇役に過ぎなかったけれど、自分の人生においては私が主役。
誰かに選ばれる人生じゃなくて、自分で選んだ人生を切り開いていきたいです。
取材・文/毒島サチコ