山で暮らす30代男性。恋愛より楽しいことがある「デートと重なり登山を選んだ」【モア・ボイス25】
1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。
そして多様性社会を生きる今、「モア・リポート」と並行して性別を問わずジェンダーレスに20・30代の体験談を取材し、彼らの恋愛やセックスの本音に迫る「モア・ボイス」の連載をお届けします!
山で生活する30代男性。「恋愛感情に似た気持ちは、登山でも味わうことができる」
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ーDATAー
高部さん(仮名)34歳 /会社員/未婚/男性
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山に住み込みで働く高部さん(仮名/34歳)は、「恋人がいないほうが楽」という価値観の持ち主。それでもマッチングアプリには、とりあえず登録しているという。一体なぜだろうか。恋愛より楽しいことがあり、現状にも満足している高部さんのリアルを尋ねてみた。
下山するのに3時間「マッチングアプリはとりあえず登録」
――高部さんは現在、山で暮らしているのですか?
山にあるリゾートホテルで住み込みで働いています。恋人はいません。今の自分には「恋人はいないほうが楽かも?」と思い始めています。(以下同、高部さん)
――「恋人はいない方が楽」と思うようになったのはなぜですか?
僕は山で住み込みで働いているので仮に恋人ができたとしても、会うために片道3時間かけて下山しなければいけないんです。さらにホテルの繁忙期に下山するのは難しいので、会う予定も立てにくい。
それでもスケジュールを調整して、「3時間かけて会いたい」と思う人が現れれば話は別ですけど、現状そういう人には出会えていません。それにぶっちゃけ、今の山暮らしが楽しすぎて、恋愛の優先順位が低いんです。
――現在の生活が充実しているから、恋人は必要ないと感じているのでしょうか?
そうですね。とりあえずマッチングアプリには登録しているのですが、相手とは一回会って終わることが多いです。
――「恋人はいないほうが楽」と思いながらも、マッチングアプリに登録しているのはなぜでしょうか?
本当にとりあえず登録してる感じなんですよね。言い方はあまりよくないかもしれないけれど、「暇だから」という感じです。ホテルが暇になる11月~3月にかけては、休暇が多く、下山する機会も多いんです。その期間だけアプリを使っています。
――その期間だけ、アプリで知り合った女性に会うということでしょうか?
そうですね。でも期間が限られているので、一度会っても二度目に続かないことが多いです。プロフィール文に「登山が趣味」と書いているので、同じ趣味でマッチすることもあるんですけど、そもそもマッチするのは、登山に向いていない季節なので(笑)。オフシーズンに会って「今度ぜひ一緒に!」となっても、結局流れちゃうんですよね。
――アプリを通じて会った女性の中で、長期的に会いたいなと思う人はいませんでしたか?
いませんでしたね。それこそ、会ったその日にいい感じになって相手から誘ってもらって体の関係になったこともあるんです。だけど、また下山してまで彼女にもう一度会いたいと思わなかった。相手も僕に会うためには、3時間かけて登山しないといけないから。お互い会うハードルがとても高いんですよね。そのハードルを越えてくれる人がいたら……という気持ちはあるんですけど。
――体目的でアプリに登録している、というわけではないのですね?
全くそんなことはないです! 出会いがあったらいいな、とは思っているんですよ。とはいえ、そもそも僕がアプリを使うのは、仕事のオフシーズンで暇な時。その時期が過ぎると、また仕事が忙しくなり、恋愛のことを考える余裕はなくなるんです。今は恋愛に対してそのくらいの熱量なので、長期的におつきあいする恋人をつくるのは難しいのかもしれません。
――下山しない場合、休日も山で過ごすのですか?
はい。趣味である登山を楽しむ日が多いです。趣味の登山と、アプリで女性と会うことを天秤にかけた時に、「登山がしたい」という気持ちが勝って、会うのをやめたことは何度もあります。
登山>恋愛。登山の魅力を知り、山で働くように
――そもそも高部さんはなぜ山で働くようになったのですか?
知人に登山に誘われたことがきっかけです。それまで登山には全く興味がなかったし、登っている最中は「こんなしんどいこと一生したくねぇ……」なんて考えるのですが、山頂に着いた時の景色や、達成感は疲れがぶっとびます。この感覚は登山でしか味わえない。
それで登山にハマって、山を登って下ってを繰り返しているうちに、いっそのこと山に住みたい!となり、山の上のリゾートホテルで働くようになっていました。
――まさに「好き」を仕事にした形ですね。
そうですね。恋人がいなくても登山ができて日々が充実しているから、恋愛の優先度が低いのかもしれません。ドキドキとか、うれしいとか、楽しいとか、恋愛に似た感情は全部登山でも味わうことができるので。
過去の恋愛を経て「つきあっている人はいないほうが楽」と思うように
――最後に恋人がいたのはいつですか?
最後に彼女がいたのは山で暮らす前。5年前になりますが、これまでの恋愛ではあまりいい思いをしていなくて。僕は女友達が多く、それが原因で別れてきたんです。
――恋人に女友達との関係を疑われたのですか?
もちろん女友達とやましいことはないですよ! だけど恋人からの嫉妬や束縛に、僕が耐えられなくなって別れました。僕は自分がやっていることを制限されるのがすごく嫌なんですけど、それを恋人からもう無理だと言われたこともありました。
その経験もあって「恋人はいない方が楽」という感覚が自分の中にあるのかもしれません。それに僕は周囲から「理想が高い」と言われることもあって。
――どういうところを指摘されますか?
趣味・話が合うか合わないかとか、容姿や体の相性について。自分ではそれほど理想が高いとは思わないんですけど、周囲からは「求める容姿のレベルが高いよ」と言われることが多いんです。趣味も登山だから、そういうところで理想が高くなるっていう部分もあるのかな。
恋愛の優先順位が低いという価値観、下山が大変という現実に加えて、僕の理想が高いからアプリで会った人と「もう2回目はいいか」と思ってしまう部分はあるのかもしれないです。
――今後はどうしたいですか?
山で働くのが好きなので、これからも山で暮らしていくと思います。その中で「いい人に出会えたら」という可能性は残しておきたい気持ちはあるんですが、自身の生活スタイルを変えてまで恋人がほしいとは思わない。だけど、生活スタイルを変えないと今の状況ではなかなか出会えないので「恋人はいない方が楽」という感覚です。長期的におつきあいするのは、物理的にも体力的にも難しいかなって思います。
――今の高部さんに恋人は必要ないということですね。
とりあえず今は仕事が忙しいので、仕事に没頭していますね。現時点では恋人がいなくても人生楽しい! 「推しは推せるときに推せ!」ではないですが、とりあえず目の前の好きなことを全力で楽しみたい気持ちが強いです。
取材・文/毒島サチコ