• 天秤座のイラスト
    てんびん座のキーワードは、「頭を真っ白に」。 村上春樹は1984年に発表した短編小説『タクシーに乗った男』の中で、「頭の中が真っ白になり、それが少しずつもとに戻るのにずいぶん時間がかかった」と書きました。

    詳しいあらすじは省略しますが、これは作中である女性が、長年自宅に飾り眺めてきた"絵”の中の男にそっくりの人物と、旅先のタクシーでたまたま乗り合わせた時の描写です。

    「強い光線が当たる部分が白くぼやける現象」のことをカメラ用語でハレーションと呼びますが、それが精神的なレベルで起きたものとイメージすればいいのかも知れません。

    真っ白になっているあいだ、頭は何も考えていないという訳でなく、むしろ唸りを立てるほどのすごいスピードで懸命に情報を整理していて、「現実をきちんとした現実の枠の中に入れ、イマジネーションをきちんとしたイマジネーションの枠の中に入れ」ようとしている。

    それは、今までの常識や現実感覚(普通は〇〇なら△△)をいったん捨てて、新しいそれを目の前のなまなましい情報から吸い上げ、再構築するまでの立ち上げ期間でもあったのではないでしょうか。

    今季のてんびん座もまた、そうして過去の古びた常識や物の見方をできるだけあっさりと入れ替えられるよう、頭の中が真っ白になるような瞬間を心待ちにしていくといいでしょう。


    出典:村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』(講談社文庫)
  • 蠍座のイラスト
    さそり座のキーワードは、「灯台の下を見よ」。 「灯台下(もと)暗し」の「灯台」とは、海をのぞむ岬の燈台のことではなくて、油を入れた皿を載せてともしびを灯す昔の灯明台のこと。それで、台のすぐ下のあたりが暗くなることから、身近なことほど案外気付きにくいことの比喩となったそう。

    ただ、だからといって、「飛んで火に入る夏の虫」になりきって、いつもともしびに照らされた明るい箇所ばかり見ているのでは、あまりに情緒がありません。

    静かな部屋に時おり風が訪れるたび、暗い漆器にろうそくの光がゆれ、人は怪しい光りの夢の世界へと誘われていく。そのともしびのはためきを、谷崎潤一郎は『陰翳礼賛』の中で「夜の脈搏(みゃくはく)」と表現しました。

    ともしびがはためくごとに、畳の上を滑るかのように明るみも刻々と場所を移す。そんな風に、暗いところで時おり何かが光ったり、その光がちらちらと流れ、綾をおりなすとき、「夜」という抽象概念さえも生き物のように脈を打ち始めるのだ、と。

    そうした深い瞑想の世界には、向日性の明るさや、ポジティブ・シンキングだけでは決して入っていくことはできないでしょう。

    身の周りのもっとも暗いところ、すなわち自分のからだや、ほとんど自分の一部となっている近しい人間関係にこそ目を向け、そこにきちんと生きた血が通っているか、それともすでに干からび形骸化してしまっているか、確かめていくこと。

    それが、今回の月食前後にかけてのさそり座のテーマなのだと言えるでしょう。


    出典:谷崎潤一郎『陰翳礼賛』(中公文庫)
  • 射手座のイラスト
    いて座のキーワードは、「ねじを巻け」。 物を締め付けるためのらせん状の溝が刻んである用具が「ねじ」であり、これが緩むと全体の姿かたちが崩れてきます。そこから比喩的に緊張感がなくなってだらしなくなることを「ねじが緩む」、逆にだらしない気分を引き締めることを「ねじを巻く」と言ったりします。

    ところで、明治・大正期の文豪・幸田露伴のエッセイに『ねじくり博士』という一風変わった作品があり、そこでは博士の口を借りて「ねじねじは宇宙の大法なり」という‟真理”が語られていきます。

    いわく、太陽も月も星も、人間のつむじさえも、みな螺旋を描いて進んでいるのであり、なぜそれらが螺線的に運動をするかといと、「世界は元来、なんでも力の順逆で成立ッているのだから、東へ向いて進む力と、西に向て進む力、又は上向と下向、というようにいつでも二力の衝突があるが、その二力の衝突調和という事は是非直線的では出来ないものに極ッてるのサ」、というのです。

    つまり、何事においても相反する二つの力の衝突や矛盾が生じなくなってくれば、それは「ねじが緩んで」動きが直線的になってきたということであり、そうして「社会を直線ずくめ」にしてしまうから、本来通るはずの道理も通らなくなってくるのだ、と。

    同様に、まさに天地自然の法則に改めて寄り添い力を取り戻していこうという意味において、今季のいて座は改めて「ねじを巻く」ことがテーマになっているのだと言えます。衝突をおそれず、むしろそれを利用する法を考えて、心身を引き締めていきましょう。


    出典:長山靖生『懐かしい未来――甦る明治・大正・昭和の未来小説』(中央公論新社)
  • 山羊座のイラスト
    やぎ座のキーワードは、「毒にしびれろ」。 宮本輝の自伝的な小説スケッチ『二十歳の火影』には、小説を読んだ際の感動について、「しびれ薬をしこんだ針のように、私の魂の奥深くの、得体の知れない領域に忍び入ってきた」と述べた箇所が出てくる。

    そう、感動は、なにも胸が熱くなったり、笑顔がこぼれたり、全米が泣いたりするばかりではなく、しばしばショッキングな体験として私たちのこころを死角から襲ってくる。

    あるいは、耐えがたいほどにくすぐったかったり、看過できないむず痒さを覚えたり、ピリッと刺激されるような皮膚感覚の感動というものだってあるだろう。

    私たちはしばしば感動さえも定型化し、月並で紋切り型の分かりやすい感動じるしを量産しようとするけれど、本来それは思いがけず「得体の知れない領域」で起こり、往々にして劇薬のごとき危険性を孕んでいるものだ。

    だから、誰に対してもおすすめできるものではないし、電子レンジでできる時短料理のようにお手軽に出来てしまうものでもない。フラットで、他愛もない時間の流れが、突如としてかき乱され、感覚は取り返しがつかないほどに転調する。

    一言でいえば、感動は毒なのだ。そして、それをあおる覚悟がある者だけに贈られる栄誉のことを、私たちは分かったような顔をして「創造性」と呼んでいる。今やぎ座のあなたには、それだけの危険を冒すだけの準備が出来ているだろうか。以前の自分ではいられなくなってしまう準備が。


    出典:宮本輝『二十歳の火影』(講談社文庫)
  • 水瓶座のイラスト
    みずがめ座のキーワードは、「青田を買え」。 企業が人材確保を目的に、優秀な学生を卒業前に内定を出して囲い込むことを「青田買い」と言いますが、これは稲が実る前にその田の収穫高を見越した上で先買いすることに由来しています。

    これと似た言葉に「青田刈り」がありますが、こちらは戦国時代に、敵方に兵糧を調達させないように穂が青い内に稲を刈り取って、敵方の戦力を落とすという戦術が語源にあるのだとか。

    どことなく、ドラッグストアでマスクやトイレットペーパーを買い占めに走る人たちの顔が浮かんできますが、よくよく考えてみると、後者にはいい稲もわるい稲も見境がないのに対し、前者にはほんらい目利きをする側の本気を問う厳しさと覚悟が込められているはず。

    例えば、後藤比奈夫の「この国に青田の青のある限り」という句などを詠むと、青田の上を吹き渡る爽やかな風を思い起こすと同時に、いつか青を青とも思えなくなってしまう時代がやってきてしまうのではないかという暗い予感がつきまといます。

    今のあなたには、その先に未来や明るい可能性を思い描けるような「青田」が見えているでしょうか。今回の月食は、みずがめ座にとってどこに先買いするべき「青田」があり、そのためにどれだけリスクを取れるのか、ということを少なからず突きつけてくるでしょう。


    出典:ひらのこぼ『俳句発想法 歳時記[夏]』(草思社文庫)
  • 魚座のイラスト
    うお座のキーワードは、「嫌悪せよ」。 川端康成の戦後期の代表作である『千羽鶴』には、「むかむかする嫌悪のなかに、稲村令嬢の姿が一すじの光のようにきらめいた」という表現が出てきます。

    これは「むかむか」という吐き気の感覚を通して嫌悪という強い不快感を増幅させていくなか、その窮地を救ってくれる女性の存在を「光」のイメージで拾い上げていくという、非常にダイナミックな芸当であり、その後に当人は「新鮮な気持がした」と語っています。

    気に喰わないという気持ちが頭のあたりに留まらず、胸の奥のほうや胃腸や背中の方まで拡張されていくと、かえって波が引いていくように気持ちがおさまるだけでなく、その引いていく先に正反対の心情を覚える対象が明確に姿を現わすことがあるのか、とはじめて読んだ時にいたく感動したものです。

    ただ、それは逆に言えば「好きだ」とか「愛してる」といった表現に、いかに自分がしっくりきていなかったのかということを浮き彫りにしてくれた体験でもありました。

    幸せであるという実感は、ひとえに「喜怒哀楽」のいずれも抑圧することなくのびのび感じていくことの中にありますが、今季のうお座にとっては特に「怒」と「哀」のあいだにあって「喜」の周囲へと通じる「嫌悪」の感覚が、ひとつの鍵になっていくはず。

    表面的な嫌悪に囚われるのではなく、その向こう側にあるまだ名前のついていない感情を見出していきたいところです。


    出典:川端康成『千羽鶴』(新潮文庫)
  • SUGARの12星座占い
    【SUGARさんの12星座占い】<5/31~6/13>の12星座全体の運勢は? 「‟想定外”への一歩を踏み出す」 二十四節気で「穀物の種をまく時」という意味の「芒種」を迎えるのが6月5日。実際には麦の刈り取りの時期であり、どんよりとした天気の下で鮮やかな紫陽花やカラフルな傘たちが街をいろどる季節。そして6月6日に起きる射手座の満月は、いつも以上にエモの膨張に拍車がかかる月食でもあります。そんな今の時期のキーワードは「モヤモヤのあとのひらめき」。それは息苦しい勉強に退屈していた子供が、庭に迷い込んだ野良猫の存在に驚き、その後を追い路地を抜けた先で、今まで見たことのなかった光景を目にした時のよう。これから満月前後にかけては、現在の行き詰まりを打開するような‟想定外”体験に、存分に驚き開かれていきたいところです。