木村拓哉 ロングインタビュー
日本中の注目を集めながら、時代の真ん中で輝き、第一線を走り続けている。国民的スター・木村拓哉は20代の頃、何を思い考えていたのだろうか? 誰も歩いたことのない道を進んだ彼が手に入れたものとは? 年齢と経験を積み重ねた今、20代に何か伝えたいことはあるのだろうか?

2022年MORE5月号掲載企画から、インタビュー記事をお届けします。

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Takuya Kimura

きむら・たくや●1972年11月13日生まれ、東京都出身。主演ドラマ『未来への10カウント』(テレビ朝日系・木曜21:00〜)は、4月14日よりスタート。最新アルバム『Next Destination』も好評発売中

木村拓哉 ロングインタビュー

時代を彩り動かした木村拓哉の20代

——俳優として数々のヒット作品に出演。国民的スターへの階段を一気に駆け上がる“木村拓哉”の一挙手一投足に世間は注目。『HERO』で着たダウンジャケットをはじめ、作中で身につけた衣装が次々に大流行。『ロングバケーション』では木村さん演じるピアニストの瀬名に憧れピアノを習い始める男性が急増……。ここに書ききれないほど、今も語り継がれる伝説が数多く存在。いくつもの社会現象を巻き起こし時代を動かした、木村さんの20代。

木村拓哉さん(以下、木村):そんな言葉をかけてくださる方もいますが……。僕自身の中には“オレが時代を動かした”なんて実感はまったくないんですよ。まず、すべては作品を観てくださった方々のリアクションであり、その作品は共演者やスタッフという共につくり上げる同志がいてこそ。すべては、ひとつひとつの現場の結果だと思っているので。それに、あの頃は自分のことだけで精いっぱいだったから。周りのことはあまり気にしていなかったというか。まあ、これは今も変わらないかもしれないな。今も昔も僕が見ているのは常に“目の前”のことだけ。何年後、何十年後、というプランは基本的に持たないんです。感覚的には同じ道の延長線上を同じ姿勢でずっと走り続けている感じ。前だけを見て必死に走り続けているうちに、気づいたら今この場所にたどり着いていた、そんな感じなんですよ。

周りからどう見られるかそれってそんなに大事?

——国民的スターとして、木村拓哉として注目を浴び続ける人生。それに対して何か思うことはあるのか尋ねると「それも、そんなに気にしていないかな」という答えが。

木村:自分に対する世間のイメージなんて知らないし、よくわからないし。世間が自分に何を求めているのかとか、そんなことも考えない。だって、“世間がオレにこんなことを求めているんだ!! じゃあ、そうしよう!!”なんて計算しながら生きるの、ちょっとしんどくないですか? 自分は面倒臭がりなんで、計算したり、ポーズを取ったりするのがまず苦手。作品では役を演じますけど、それ以外の場所でまで演じなきゃいけないなんて、冗談じゃないですよ(笑)。

——周りからの評価や言葉に左右されない。木村さんは今も昔も“自分”をしっかり持っている人だ。

木村:僕が20代の頃はSNSも存在していなかったから。そこまでボコボコにされていないというか。今振り返ると、それはラッキーだったのかもしれない。また、周りにも恵まれていて。近くにいるのは“半端じゃない”人たちばかりだったので。そういう人たちって、相手へのリスペクトがちゃんとあるから。ああしろ、こうしろって、自分の意見を押しつけるようなことは絶対にしないんですよ。

自分のことを好きになる必要なんてないと思う

——そんな木村さんに多く寄せられたのが「自分を好きになるにはどうしたらいいですか?」という質問。

木村
:そもそも、僕は自分のことを“好き”とか思わない。オリンピックに出られるくらい突出した能力があるわけでもないし、国を代表するような存在でもない。“なんでもない存在”だと思っているので。逆に言うと、なんでみんなはそんなに自分のことを好きにならなきゃいけないと思っているのかが不思議。それよりも、大事なのは自分を信じることなんじゃないかな。自分を信じて全力でやらないと、周りに対しても失礼になるし、責任を持つことすらできなくなってしまうからね。

——どうしたら、自分を信じることができるようになるのか。それもまた、木村さんに聞いてみたいこと。

木村:それはやっぱり、その都度、その時々、100の力で挑むことが大切なんじゃないかな。100でやれば、できなかったことができるようになったりするし。ただ、100で挑んだとしてもできないことって絶対にあるんですよ。でも、それが明日につながることもあるわけで……。とにかく100って疲れるじゃん、クタクタになるじゃん。そこまでやるから笑えるし、そこまでやった自分を信じることができるんだと思う。いちばんダメなのは“この程度でいいや”という気持ち。何ごとも中途半端に終わらせてしまう自分のことは、いつまでたっても信じることはできないよね。

言葉ではなく、背中で学ぶ・教える・伝える

——名声や人気に甘んじることなく、真摯に目の前の仕事と向きあい、第一線を走り続けてきた。そんな木村さんだからこその説得力にあふれた言葉の数々。モア読者の背中を押すメッセージを届けてくれた彼が、この春、主演を務めるのがドラマ『未来への10カウント』だ。

木村:高校時代に4冠を達成するも、不運に見舞われてボクシングを断念。人生に絶望した男・桐沢祥吾(木村)が30年近くの時を経て、母校のコーチに就任。生徒と向きあう日々の中で情熱を取り戻していく物語なんですけど。今作の重要な柱のボクシングが、自分は初めての挑戦なので、それをどうさばいていくか。それが、今の目の前にある課題ですね。

——今作では指導者という立場で生徒たちの前に立つ木村さんに、最後にこんな質問をぶつけてみた。「後輩に伝える、教える場面で大切にしていることはありますか?」。

木村:わりと自分もあまのじゃくな部分が強いというか。“こうしなよ”と言われたら“うるせーよ”と思ってしまうような20代だったので(笑)。直接的に先輩から何かを教わった経験はほぼないんですけど。それだけに、先輩の背中を見た時に感じた“カッコいいな”、“素敵だな”は大切にしてきた気がします。僕自身、現場で役者は横並びだと思っているので。自分から何かを教えようなんてことはめったに考えないんですけど。ただ、若き日の自分がそう学んだように、自分も背中で何かを伝えることができたらいいなとは思っています。たとえばですけど、僕はスタッフに呼ばれて現場に入るのが好きじゃなくて。それは撮影部や照明部がいる現場の“俳優部”のひとりとして、自分もそこに参加していたい、現場の空気を感じていたいという思いからなんですけど。呼ばれる前に現場に入る僕を見て“いつも誰よりも早くセットに入りますよね”と気づいてくれる若者もいるんです。その子が同じように早く入ってくれるようになれば、それはちゃんと伝わっているし。あれ、最後まで来ねぇなっていうパターンもありますし(笑)。別にどっちが正解ってわけでもない。そもそも、自分も副産物を狙ってやっているわけではないしね。すべてはその人の受け取り方次第。教える、学ぶってそういうことなのかなって。僕は思ってます。
取材・原文/石井美輪 構成・企画/芹澤美希(MORE)