最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】猫の自由さ、奔放さに憧れて

文学者は猫を愛し、しばしば猫に溺れもするけれど、猫は溺れない。目を丸くしたり細めたり、しっぽを揺らしながら優雅に文学の中を通り過ぎていく。イラストレーター・長崎訓子が名作文学をコミカライズする漫画集シリーズ。第3弾『Catnappers』のテーマは猫である。フランス、イギリス、日本の現代、近代から平安時代まで、古今東西の「猫文学」に活写された(あるいはされなかった)猫の姿を、作者特有の力強くやわらかな鉛筆の線が描きだす。巻頭の『猫』では、ルナールによるたった数行の掌編が19コマになる。続く、別役実『なにもないねこ』では、ないものを描くというアクロバティックな挑戦に息をのむ。芥川龍之介のすがすがしさ、中原昌也のうねりも筒井康隆の鮮やかさも、作家の文体が絵にぴったりと寄り添い、原作に漂う明るい不気味さを引き受けながら、それでも猫の愛らしさが損なわれることはない。赤川次郎と小川未明の短編、そして『更級日記』のせつなさは絵になることでいっそう身近に感じられる。名作10編ともう1編。猫と漫画が幸せを運んできてくれる。

【イチ押しBOOK1】長崎訓子『Catnappers 猫文学漫画集』

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主役として脇役として、名作文学の中でくつろぎ、まどろみ、駆け回る。コマからコマへと移動する猫の表情、ひげや尾の動き、下腹部や後ろ足のラインにも、作者の猫愛がほとばしる。オリジナル作品を含む11編を収録。(ナナロク社 ¥1600)

【イチ押しBOOK2】筒井康隆『にぎやかな未来』

11編の「猫文学」、なかでも筒井康隆の『池猫』、『飛び猫』の切れ味はとにかくすごい。短く奇怪、ナンセンスと笑うことも、苦みを感じながらかみ続けることもできる。SFもジュブナイルも、実験的な長編ももちろん面白いのだが、上述の2作を収めた『にぎやかな未来』でショート・ショートの嵐にさらされるのもまた一興。もっとハードなものが読みたくなったら、『乗越駅の刑罰』(『懲戒の部屋』所収)というホラーな「猫文学」もおすすめ。
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初めて商業誌に掲載された「お助け」など、デビューから数年の間に書かれたショート・ショートを多数収める。AIやメディア、環境と人の関わりなど、現代に突き刺さる要素をブラックユーモアとともに。(KADOKAWA ¥600)

『マイ・ストーリー』『恋人たちはせーので光る』『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』【オススメBOOKはこの3冊】

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『マイ・ストーリー』/ミシェル・オバマ 〈訳〉長尾莉紗、柴田さとみ
世界中で読まれる手記。《自分の言葉》の力を信じ、ドレスに奇跡を見つけ、《よりよい自分になろうと歩》むその人は、米前大統領の妻である前に、強く優しいひとりの女性で、母で、娘であり妹なのだとわかる。(集英社 ¥2300) 
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『恋人たちはせーので光る』/最果タヒ
43の詩がページを横切ったり踊ったり、静かに佇んだり。言葉に触れる喜びをバサリとたっぷり一冊分。孤独に、怒りに、喜びの瞬間に、ピントを合わせた詩人の言葉を、体に取り込んで一緒に光りたい。(リトルモア ¥1200)
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『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』/清田隆之(桃山商事)
男のプライド、無理解、イキりetc.不穏な単語も頻出するが、著者の誠実さが読み手の背中を押す。専門的知見も軽やかさを備えて読みやすく、自分じゃないあの人の目に映る景色って? と考える時の一助になる。(晶文社 ¥1400)
原文/鳥澤 光