最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】短編と短文で“世界”を読む

最初のページをめくった途端《中尾さん、美味しいかなあ》である。《男の人のほうが、いい出汁が出るっていうしね》なのである。人間を増やすことを《正義》とし、人間を食べることを《正常》だとする世界を舞台にした表題作『生命式』のインパクトに心がざわめき、お腹がグウと鳴る。人毛、骨、内臓や皮膚に至るまで、人間がファッションやインテリアに活用される『素敵な素材』を読めば、飼い猫との別れが受け入れがたくて、なんとか形を残せないかと検索しまくった個人的な想い出が甦る。食と文化、家族の形、セックス、性格という不可思議なもの、当たり前とされてきたものたちを根底から疑ってみる12の短編は、小説を読む楽しみで満たされている。《私たちの快楽は私たちのもの》という小さな宣言は、現代を生きる人間への祝福だ。ちなみに、作者が“食”に対する飽くなき野望について話していたのは『おあとがよろしいようで』第11話。漫画家が、作家たちに「死ぬ前に、なに食べたい?」と聞いてまわったエッセイ漫画は、この小説のよき副読本になってくれそう。

【イチ押しBOOK1】村田沙耶香『生命式』

村田沙耶香の表題作『生命式』は、人間を食の画像_1
芥川賞受賞作『コンビニ人間』で日本と世界を驚かせたずっと前から、村田沙耶香は当たり前のいびつさを見つめて、小説に書きつけてきた。この10年間に執筆された作者自選の12編を収める。(河出書房新社 ¥1650)

【イチ押しBOOK2】〈編〉西崎 憲『kaze no tanbun 特別ではない一日』

純文学、幻想文学、SFやホラーの作家もいれば、翻訳家に漫画家も。17人が生み出すのは《小説でもエッセイでも詩でもない、ただ短い文。しかし広い文》。一方向に連ねられ、本という美しい形を与えられた言葉に乗って時間が飛びさったり、中学生がペンギンになったり、修羅が紙に押しつけられたり。編者で執筆者のひとりでもある西崎憲による新しいプロジェクト〈kaze no tanbun〉とともに、『特別ではない一日』をじっくり味わって。
村田沙耶香の表題作『生命式』は、人間を食の画像_2
山尾悠子、岸本佐知子、柴崎友香、と目次に並ぶ名前を追うだけで幸せを感じる豪華アンソロジー。17人による「短文」は、題材もスタイルも多彩。どこから読んでも、何回読んでも、かめばかむほどおいしくなる。(柏書房 ¥1800)

『僕は僕のままで』『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』『おとなになっても』①【オススメBOOKはこの3冊】

村田沙耶香の表題作『生命式』は、人間を食の画像_3
『僕は僕のままで』/タン・フランス 〈訳〉安達眞弓
人気番組『クィア・アイ』に出演するタンの自伝。パキスタン系イギリス人3世として、ゲイとして、差別と戦いながら明るく生きる姿はカラフルでまぶしい。撮影裏話、ファッションアドバイスも満載の一冊。(集英社 ¥2100)
村田沙耶香の表題作『生命式』は、人間を食の画像_4
『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』/寿木けい
Twitterで11万人を超えるフォロワーを持つ「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)の人気レシピを200点掲載。シンプルと応用をキーワードにした献立、道具紹介、生活のとらえ方や考え方をつづった随想も。(小学館 ¥1400)
村田沙耶香の表題作『生命式』は、人間を食の画像_5
『おとなになっても』①/志村貴子
線で結ばれ三角を描く、小学校の先生とダイニングバーの店員、そして先生の夫。30代も半ばを過ぎた穏やかな日々に舞い降りた恋心。大人の百合は、現実的な感覚に接続しながらも、こんなに苦くてこんなに甘い。(講談社 ¥440)
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原文/鳥澤 光