• 言葉を大切にしたいという想いは、本から多くを学んできた子供の頃から持ち続けてきたそう。

    「本を読んでいて心に響いた一節や人からいただいた忘れたくない言葉の数々は、小さいノートに書き残しています。そのノートは……、鍵をかけた引出しに隠してる(笑)。実家で一度、“私が集めた名言集”みたいなノートが家族に見つかったことがあって、めちゃくちゃ恥ずかしかったんです! だから、今はたまに、こっそり書き留めています(笑)。
    覚えておかなきゃいけない、感謝すべき言葉や出会いって人生においてたくさんあると思うんです。どんなに目まぐるしい日々でも、そういう大切な瞬間をきちんとかみしめて消化していきたい。だから、悩んだり迷った時は、そのノートを読み返すことで励まされます。言葉そのものにはもちろん、その言葉に心を動かされた時の自分を思い出して、“大丈夫。私、ちゃんと大事なことに気づけてる”って安心する。自分が本当に好きなもの、譲れないことを思い出させてくれるんです」
  • 仕事に悩んだり、恋愛に迷ったり、人生における大事な選択を迫られることの多いモア世代。吉岡さんも、まさにモア世代に突入したところ。写真集『so long』は、そんな彼女の今の想いがこめられている。彼女にとって大切な“本”が、また一冊増えた。

    「学生時代に写真部に所属したくらい写真は好きだけれど、自分の写真集を出すことにはあまり興味がありませんでした。でも、ずっと信じて支えてくださったスタッフの方々の、“一緒に一冊の本をつくろうよ”という熱い提案に心を動かされて。デビュー5年目、25歳という節目の年に、いつも応援してくださっているファンのみなさんに写真集という形で感謝を伝えられたらと思ったんです。
    子供の頃に父から、“始めたことは、まず5年は続けてみなさい”と言われたことがあって。実際に、女優として5年間続けてきてようやく、自分の好きなものや大切にしたい人たちが明確に見えてきた気がします。だから、また次の5年、30歳に向けて再出発したい。そういう想いもこめてつくった一冊なんです」

    そして、2018年は吉岡さんのもうひとつの想いがかなった。集英社文庫の『ナツイチ』フェアのミューズだ。「本の魅力を伝える仕事がしたかった」という彼女の、愛読書は?

    「読むと恋したくなるのは、『だれかのことを強く思ってみたかった』(集英社文庫)。角田光代さんの短編と佐内正史さんの写真でつむがれる素敵な一冊です。人生を変えてくれた本は『ラヴ・ユー・フォーエバー』(ロバート・マンチ著/岩崎書店)。母が読み聞かせてくれていた絵本で、今読んでも心が温かくなる名作。無人島に持っていくなら、『野菜』(細川亜衣著/リトルモア)。野菜が大好きだから、レシピ本の写真を見て空腹を満たす作戦です(笑)」
  • その日、『モア』の取材現場に現れた吉岡さんは、現場にいた誰よりもぴかぴかの美肌で、穏やかなムードをまとっていた。連日、主演ドラマのスケジュールで多忙を極める中、疲れを感じさせないどころかいきいきと撮影を楽しむ姿に、私たちはあっという間にくぎづけに。さらに、本について話し始めた彼女の、何か“愛しいもの”を想うような表情に読書家の一面が垣間見えた。

    「本が好きな両親の影響で、本に囲まれて育ちました。幼い頃は母によく読み聞かせをしてもらっていたし、小学生の頃は体があまり強くなかったので、休憩時間や放課後は読書をして過ごすことが多かったんです。友達とおすすめの本を交換しあったり……。とにかく、図書室という空間が大好きでした。電車通学になってからは、1時間くらいの通学時間にも黙々と本を読んでいましたね。ゆっくり本を読む時間がなかなか取れない今になって思えば、本当に贅沢な時間だったなと思います。
    少し前に、家の本棚を整理したんです。上京してから買った木製の本棚なんですが、買ったもののまだ読めていない小説が山ほどあって! “休みができたら思う存分読書がしたい!”っていつも思っています。本棚には必ずジャンルごとに分けて並べていて、いつも整理されていないと耐えられないタイプ(笑)。でも、私、本は絶対捨てられないんです。だから、人におすすめしたい本は、その本を楽しく読んでくれそうな人にあげたりしますね」
  • 理想の読書タイムを聞くと……。

    「お休みの日に、パジャマじゃなくてちゃんと着替えてから、ソファに座って温かい飲み物を飲みながら読む。何かの合間にではなく、準備万端な状態で読みたいんです。
    好きなジャンルは、小説もエッセイもマンガも写真集も……、なんでも読みますね。最近のお気に入りは“街ぶら系”! その土地の歴史や文化を知ることができる本。いつか行ってみたい場所に想いをめぐらせたり、実際に行った後も自分の経験と照らしあわせて楽しめるので2度おいしいんです。写真集の撮影で訪れたオーストラリアについても、本で予習していきました。
    本の魅力は、自分が体験し得ない人生を見せてくれること。子供の頃に両親から、“本は、その作品を書いた人の核となる部分が抽出されたもの”と教わったんです。作者が持つ知識やものごとのとらえ方、人生経験を、本を通して知ることができる。今まで目を向けなかったものごとに触れるきっかけや、新しい発見をくれる。まさにそのとおりだと思います」

    作家になりたいと思ったことは?

    「ないです! ひたすら、尊敬しています。以前、エッセイ集に寄稿させていただいたことがあるんですが、書きながら、自分が書いた文章を多くの方に読んでいただくことの責任の大きさにとてつもなくプレッシャーを感じたんです。言葉の力って計りしれないし、だからこそ言葉を大切にしたいなといつも思います」