ブレイディみかこさん連載vol.5「女性をコンテンツとして消費する、似非スーパーマンに気をつけろ」
ブレイディみかこ『心を溶かす、水曜日』
がんばったのにまだ週の半分……。ため息が出そうな水曜日のあなたを解放するエッセイ連載。
vol.05 似非(えせ)スーパーマンにご用心
前回書いた職場でのセクハラの話だが、MORE読者世代の方々との座談会中、タレコミ情報はとどまるところを知らず、どんどん出てきた。例えば医療界でも、患者さんが麻酔で寝ている間に女性歯科衛生士に足を絡めてくる歯科医師がいるなどというショッキングな報告があった。
で、こういうことをする医師もやはり既婚者らしい。日本の男性は草食化しているとか、セックスへの関心が薄れているとか言われているが、その一方で、一部の脂ぎった男性がさらに肉食化するという現象が起きているのではないか。両極化、というやつである。
そんなことを考えていると、もう一人の出席者のFさんが唐突に、「自分の彼氏が気持ち悪い」と言った。どうやら、つかなくてもいい嘘をついて、女性と会ったことを執拗に隠すかららしい。別に「あの子と会った」と言ってくれればいいものを、交流を隠蔽しようとしてすぐにバレる嘘をつく。だが、その様子に困っている感じがなく、むしろ自分がモテていると勘違いしている感じが気色悪いのだという。彼女がいるけどほかの女性とも遊んでいるオレかっこいい、という価値基準がその根底にあるのではないかというのだ。
Fさんが勤める会社はいわゆる大手企業で、エリート層と呼ばれる男性が周囲にたくさんいる。彼らの多くはスーパーマン願望を持ち、それを達成するには、「モテる」という条件は必須なのだという。素晴らしい商品を開発するのも、自分の会社を立ち上げるのも、すべてはモテるため。貧乏だろうが低学歴だろうがイケメンはモテるという事実にルサンチマンを持ち、「イケメンは努力をしない」と言っている男性もいるという報告すらあった。
こういう話を聞いていると、彼らは、脂ぎっている(女性と関係を持つことを求めている)のではなく、偏差値を上げたり、仕事で数字を稼いだりするのと同じように、「モテる」という課題をクリアしようとしているように思えてくる。そしてMORE読者世代の女性たちもそれを敏感に感じ取っているから、「彼らは女をコンテンツとして消費している」という声が上がっていた。つまり、こうした男性たちにとってはスーパーマンになるためにクリアしなければならないゲームコンテンツの一つが女であり、その認識が原動力になって複数の女性にちょっかいを出すのである。女性を人間として見ていない。
「そういうのが本当に嫌で、田舎に帰りました」と言ったのがGさんだった。Gさんによれば、地方の小さな町では滅多なことをするとすぐ噂が広まって生活に支障が出るので、勤め先の男性たちは家族を大事にするタイプが多く、職場でのセクハラは東京ほどひどくないという。
「ほんと、そういう男は最悪!」
彼氏がキモいとこぼしていたFさんも地方出身者らしく、これに同意した。
もちろん、東京の男性、地方の男性と雑に二分して語ることはできない。が、スーパーマンになりたい、または自分はスーパーマンだと思っている超エリートと出会う機会が多いのは都会だという事実はあるかもしれない。
さて、今週も一息ついて自分をケアする水曜日がやってきた。ひょっとしてあなたもこういう男性を知っていたら、消費されそうになっていたら、思い出してほしい。そもそも原作のスーパーマンは、ふだんはクラーク・ケントという冴えない地味な新聞記者で、ロイスという同僚の女性を一途に愛するキャラクターだ。そしてこの愛あればこそ、彼は奇跡のようなスーパーパワーを駆使して、数々の敵と戦い、地球の平和を守るのだ。
ということは、「モテる」ことがスーパーマンになる条件だと思い込んでいる男性たちは、その認識がまず間違っているではないか。まともに出典にもあたらない高学歴のエリートなんて信用ならない。似非スーパーマンに気をつけろ。
で、こういうことをする医師もやはり既婚者らしい。日本の男性は草食化しているとか、セックスへの関心が薄れているとか言われているが、その一方で、一部の脂ぎった男性がさらに肉食化するという現象が起きているのではないか。両極化、というやつである。
そんなことを考えていると、もう一人の出席者のFさんが唐突に、「自分の彼氏が気持ち悪い」と言った。どうやら、つかなくてもいい嘘をついて、女性と会ったことを執拗に隠すかららしい。別に「あの子と会った」と言ってくれればいいものを、交流を隠蔽しようとしてすぐにバレる嘘をつく。だが、その様子に困っている感じがなく、むしろ自分がモテていると勘違いしている感じが気色悪いのだという。彼女がいるけどほかの女性とも遊んでいるオレかっこいい、という価値基準がその根底にあるのではないかというのだ。
Fさんが勤める会社はいわゆる大手企業で、エリート層と呼ばれる男性が周囲にたくさんいる。彼らの多くはスーパーマン願望を持ち、それを達成するには、「モテる」という条件は必須なのだという。素晴らしい商品を開発するのも、自分の会社を立ち上げるのも、すべてはモテるため。貧乏だろうが低学歴だろうがイケメンはモテるという事実にルサンチマンを持ち、「イケメンは努力をしない」と言っている男性もいるという報告すらあった。
こういう話を聞いていると、彼らは、脂ぎっている(女性と関係を持つことを求めている)のではなく、偏差値を上げたり、仕事で数字を稼いだりするのと同じように、「モテる」という課題をクリアしようとしているように思えてくる。そしてMORE読者世代の女性たちもそれを敏感に感じ取っているから、「彼らは女をコンテンツとして消費している」という声が上がっていた。つまり、こうした男性たちにとってはスーパーマンになるためにクリアしなければならないゲームコンテンツの一つが女であり、その認識が原動力になって複数の女性にちょっかいを出すのである。女性を人間として見ていない。
「そういうのが本当に嫌で、田舎に帰りました」と言ったのがGさんだった。Gさんによれば、地方の小さな町では滅多なことをするとすぐ噂が広まって生活に支障が出るので、勤め先の男性たちは家族を大事にするタイプが多く、職場でのセクハラは東京ほどひどくないという。
「ほんと、そういう男は最悪!」
彼氏がキモいとこぼしていたFさんも地方出身者らしく、これに同意した。
もちろん、東京の男性、地方の男性と雑に二分して語ることはできない。が、スーパーマンになりたい、または自分はスーパーマンだと思っている超エリートと出会う機会が多いのは都会だという事実はあるかもしれない。
さて、今週も一息ついて自分をケアする水曜日がやってきた。ひょっとしてあなたもこういう男性を知っていたら、消費されそうになっていたら、思い出してほしい。そもそも原作のスーパーマンは、ふだんはクラーク・ケントという冴えない地味な新聞記者で、ロイスという同僚の女性を一途に愛するキャラクターだ。そしてこの愛あればこそ、彼は奇跡のようなスーパーパワーを駆使して、数々の敵と戦い、地球の平和を守るのだ。
ということは、「モテる」ことがスーパーマンになる条件だと思い込んでいる男性たちは、その認識がまず間違っているではないか。まともに出典にもあたらない高学歴のエリートなんて信用ならない。似非スーパーマンに気をつけろ。
PROFILE
ブレイディみかこ●英国・ブライトン在住のライター、コラムニスト。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)など著書多数
イラスト/Aki Ishibashi ※MORE2022年11月号掲載