震災から6年。母国のテロ事件で亡くなったベルギー人監督が遺した、福島のドキュメンタリー映画『残されし大地』
その土地で生まれ、家族と暮らし、友人と夢を語り合ったり、恋にときめいたりした故郷。もしもその場所に帰れなくなってしまったら……。2011年の福島原子力発電所の事故により、避難を余儀なくされた福島の人たちの厳しい現状を、私たちは幾度となくニュースで目にしてきました。本作は、今も避難指示解除準備区域である富岡町の自宅に留まり続け、動物の保護活動を続けている松村直登さんを中心に、同じく富岡町で農作業をしながら暮らす半谷さん夫婦、南相馬市内の雇用促進住宅に住み、故郷への帰還を誓う佐藤さん夫婦の日常を捉えたドキュメンタリー映画です。 映画を見ていていちばん驚くのは、被写体の人々の明るさと、強くたくましい生命力。取り残された牛や犬、猫やダチョウなどを甲斐甲斐しく世話し、庭に実った大きな茄子を収穫し、「100歳まで生きる」と笑顔で語る。生まれ育った土地への慈しみと愛着を静かに切り取る映像は、“反原発”を声高に叫ぶニュースよりも雄弁に、政府の無責任さと核の危険を突きつけてくるようでした。さらに印象深いのが、シンと静まり返った無人の街に不自然に響く町内放送や、木の葉が風に揺れる音、川のせせらぎや雨など、その土地に息づくリアルな音の数々。劇中のBGMはもちろん、エンドロールでさえも音楽を使わない姿勢に、強いこだわりを感じました。 それもそのはず。監督したのはベルギーを拠点にヨーロッパで活躍していたサウンドエンジニアのジル・ローラン。『チキンとプラム煮〜あるバイオリン弾き、最後の夢』(11)、『闇のあとの光』(12)などに参加してきた音のプロです。妻の母国である日本に2013年に来た後、福島について調べる中で自らメガホンを撮ることを決意したそう。ところが本作の編集作業のためにベルギーに帰国していた2016年3月22日、ベルギー地下鉄テロで命を落としてしまいます。本作は監督の思いを受け継いだ仲間の手によって完成し、震災から6年たった3月11日に、ようやく日本での公開が決定しました。監督がまさに命をかけて描いた、命の尊さを描いたドキュメンタリーです。 (文/松山梢) ●3月11日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー/フォーラム福島、シネマテークたかさきほか全国順次公開 ©CVB / WIP /TAKE FIVE - 2016 - Tous droits reserves