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ミュージカル「50Shades!〜クリスチャン・グレイの歪んだ性癖〜」が再演

「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は、女子大生の主人公が若く魅力的な大富豪の男性と出会い、SMの主従契約を結ぶ内容の官能小説。映画化もされ大きな注目を集めたうえに、実は、オフブロードウェイではパロディのミュージカルも製作されていた。2016年には日本にも上陸し、ミュージカル「50Shades!〜クリスチャン・グレイの歪んだ性癖〜」として上演。バカバカしいコメディタッチで描かれるR15指定の内容と、主演にジャニーズ事務所の浜中文一を起用した意外性のあるキャスティングで、演劇ファンの度肝を抜く衝撃作となった。この作品の上演台本・訳詞・演出を務めた張本人が、劇作家の河原雅彦氏。3年ぶりの再演にかける熱い意気込みはもちろんたっぷりと。さらに、普段は人に相談しづらい、読者の性に関する相談にも大真面目に答えていただいた。 

−−−−初演の際、河原さんの元に届いた反響はどんなものでした?

「そんなに……怒られなかったです(笑)。オフブロードウェイで上演された映像資料を見ると、本場ではお客さんもお酒を飲んでできあがってるし、SMを主題にした過激な小説のパロディってことをよく知っているから、下品なことしかやってないのにものすごく盛り上がるんです。それを日本人に見せるとなると、ストレートに発信してもムリがある。日本で話題に上がらなかった原作を逆手にとって楽しく観劇できるような仕掛けを冒頭に盛り込みましたけど、それが功を奏した感じかな。というのも、主演の文ちゃん(浜中文一さん)の変態役(SMの嗜好を持つ大富豪・グレイ役)にちっとも無理がないんですよね。下ネタを扱うジャンルって特にそうなんですけど、一番やっちゃいけないのは演者が『おもしろいだろ』と思って笑いを取ろうとすること。日常でも僕、“下品の在り方”には割と厳しいんですけど、いい“下品”と悪い“下品”があって、非常にセンスがいるものなんです。その点、文ちゃんはこう、達人の佇まいと言うか(笑)。彼のキャスティングが前回の一番の勝因だったと思います」

−−−−浜中さんはどうしてグレイ役に無理がなかったんでしょう?

「変態だからですよ(笑)。これ、おもしろいと思って言ってるわけじゃなくて、最初会った時から『おっ!』と思いましたからね。宮本武蔵みたいな、剣術の天才的な変態ですよね。血は出るけど、いつ斬られたかわからないくらいお客さんの心に傷をつけない。スパッとくるから後も引かないし、見ている間もなんで笑っているかわかんないみたいな(笑)。この作品は不謹慎やタブーをみんなで笑い飛ばしましょうっていう、観客との共犯関係を作ることが重要で、観劇中は深いことは考えず、普段なら絶対笑っちゃいけないことにもオープンになっていただき、劇場を出たらきれいさっぱり忘れていただく。そんな狙いがうまくハマった初演だったと思います」

−−−−3年ぶりの再演は、さらにパワーアップしているのでしょうか?

「まあまあ、エグいっすよ(笑)。初演は十分破壊力はあったんです。ただ、攻め切ったかどうかでいうと、ちょっと遠慮しといた部分もあったんですね。あと「なんてもの観せるんだ!」って僕が怒られないように、「原作に忠実にやってます」とか、「この作品を日本に持ってきた主催の関西テレビさんが悪い」だとか、作品中、いろいろ予防線も張ってました(笑)。でも今回はお客さんが望んでくれたからこその再演なので、『じゃあもっと楽しませますよ!』という鎧を着て、勝手に気を大きくしてます(笑)」

−−−−脚本も手を加えているとか。

「話の流れは同じですけど、演じる人間も主演の文ちゃん以外、全員違いますしね。よりアクの強い人たちを集めて、オリジナルの下品をわんさか足しています。もうね、カオスですよ(笑)。基本スパッと斬ることを心がけていますが、今回ギザギザの刃も多様しているので前回よりも傷は深いかと。もちろんミュージカルですから歌や踊りのクオリティは高い水準を目指そうと思ってます。セリフにもありますけど、観る側も演じる側も本当に我に帰っちゃだめな舞台ですからね。僕の人生訓は『別に死ぬわけじゃない』ですから、大丈夫。今回作ったものが、結果ウケようがウケまいが、別に死ぬわけじゃないですから(笑)」

−−−−モア読者が楽しむポイントは?
「基本はエロバカなんですけど、ヒロインのアナと主人公のグレイの純愛ものとして見ると、意外と刺さるかもしれないですね。初恋の人の変態行為を受け入れるか否か……一人のいたいけな女性が人生の岐路に立って大きな選択をしなきゃいけない話ですから。ドラマとしては普遍性があるものだと思います。言いながら半笑いですけど(笑)」
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友達には相談しづらい性のお悩み。河原雅彦氏によるお答えとは?

−−−−「この年でセックスの経験がない女性って、正直どう思いますか?」(27歳・販売)

「そんなに気にしなくても大丈夫じゃないかなあ。だって経験がある人だって、どれだけステキな性ライフを過ごしているかというと、まあまあ怪しいじゃないですか? ほんの数回しか経験がないって人も結構いるでしょうし。けど、経験がないことを切実に悩んでいるなら、おそらくそれは「出会いの場がない」とか、「理想が高い」「自分に自信がない」とか、そういう思い込みが原因になっている気がする。だったら、もう後先考えず決め打ちすればいいんです。“相手はこの職業の人”とか決めればいいんです。“近所のガソリンスタンドで働いてる人”でも、“3番目に目の前を通る人”でもなんでもいいんですよ。広範囲に360度見渡すといっぱい人がいすぎて、自分にとってどういう人がふさわしいかが逆に見えなくなっちゃうから。ヴァージン喪失にロマンを感じるのは理解できるけど、時が経ってしまえばわりと大したことじゃないって女性も多いと思うんです。なので、どうしても捨てたい!っていうのであれば、なりふり構わずで。意外と素敵な出会いになるかも知れないし。とはいえ、自己責任でお願いしまーす!」

−−−−「彼が自分本位なセックスをしてきて全然気持ち良くありません。相手を傷つけない、上手な断り方はありますか?」(28歳・事務職)

「やっぱり2タイプいるんですよね。男性には。相手に快楽を与えることが自分の喜びだと感じるタイプと、自分の快楽を優先するタイプ。この傾向は基本的に一生変わるものではありません。彼の場合は自分本位なことをやるタイプだから、いいセックスを求めるならば、やっぱり女性のほうから歩み寄るしかないんです。今は女性の方でも買い求めやすい可愛いタイプの大人のおもちゃもいっぱい出てますから。女性専用のネットショップもいっぱいあるわけでしょ。だから自分が気持ちいい、使いたいと思うような道具を使って違う景色を見る。これでいきましょう。ただし『メモリは3でお願いします』とか、具体的に伝えるのがいいですね。彼は自分の欲望に忠実な男ですから、間違いなく初日からメモリを4とか5に上げてきます。なので、御自身で一度試した上で、メモリ3が一番いいと感じた場合は、メモリ1から伝える。工夫ですよね。おもちゃを選ぶだけじゃなく、使用法を伝える工夫も必要です。すごくクリエイティブなことですよ。『彼は自分本位な男だから別れる』とか、そんな排他的な考えではなく、一緒にエンジョイできるための模索をする。関係を充実させるために考えを巡らせることって、なんか愛だなって思います。ゆくゆくはデートの場所を一緒に決めるように、和気あいあいと彼とおもちゃを選んでみるのも楽しいでしょうし。男女のコミュニケーションにとってセックスは非常に重要度が高いですから、まずはあなたから少し努力してみてはいかがでしょう?」
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かわはら・まさひこ●1969年7月7日生まれ、福井県出身。俳優・演出家・脚本家として活躍。1992年に演劇・ライブ活動を行う『HIGHLEG JESUS』を結成、2002年の解散まで全作品の作・演出を手掛ける。2015年にはパルコ・プロデュース『万獣こわい』の演出で第22回読売演劇大賞・優秀作品賞を受賞。
ミュージカル「50Shades!〜クリスチャン・グレイの歪んだ性癖〜」
◆11/15〜24 新宿FACE(地方公演あり)
●サンライズプロモーション東京 ☎︎0570・00・3337
撮影/能美潤一郎 文/松山梢