今、大人が詩集を読むということは?

先行きが見えない今──そわそわしたり、ザワつく気持ちを落ち着かせ、心をほぐしたい。モア世代に贈るエンタメの特効薬、詩集の世界へようこそ。

教えてくれたのは…ブックディレクター 幅 允孝さん

【Profile】
『バッハ』代表。人と本が上手に出合えるよう、ユニークな方法やさまざまな場所で本の提案を行う。大阪に誕生した『こども本の森 中之島』のクリエイティブディレクターも担当

つながりすぎている現代に、短い時間で、強制的にひとりになれる時間をくれるもの

「YouTubeに動画配信サービス、オンラインゲーム……受動型やシェアベースの作品が多い現代のエンターテインメント。常に何かとつながった世の中だからこそ、あえてひとりになることは、新しい意味のようなものを生み出す豊かな時間かもしれません。そんななか、自発的に孤独に陥り、短時間で作品に没入できるのが、三角みづ紀さん最果タヒさんといった若手の女性詩人が活躍している詩の世界。TwitterやLINEに慣れているモア世代の方は、言葉や短い文章から背景やこぼれ落ちた真意といった“ニュアンスを読む”ことに対しては鋭敏で得意な人が多い印象も。それゆえに詩は、実は親しみやすい存在なんです。詩人が言葉をしぼり出し、精巧な彫刻を造るように研ぎ澄まされた言葉の世界。言霊と呼応する装丁を愛でたり、好きな一節を繰り返したり、ときにはゆっくり読んでみたりと、口の中であめ玉をじっくり転がすように、何度も味わってみてください」(幅さん、以下同)

『世界はうつくしいと』長田 弘

うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいということばを、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。

『世界はうつくしいと』より「世界はうつくしいと」 長田 弘
【大人のための詩集①】ブックディレクターの画像_1
日常から人の心や真理を解き明かす、日本を代表する詩人。「これは晩年に手がけた作品で、世の中を慈しみ、愛おしみながらフラットな視点で見つめる。読後は不思議と背すじがしゃんと伸び『こんなふうに生きられたらいいよね』と思います」(みすず書房 ¥1800)

『美しい街』尾形亀之助

【大人のための詩集①】ブックディレクターの画像_2
「ページを開くたび泡のように浮かんでは消えゆくシンプルな言葉には、作為や欲のようなものが1㎜もない。人間の無や透明さを深く追求しながらも、それでいて着眼点が面白いので妙にしみます」。能町みね子さんの書き下ろしエッセイも収録。(夏葉社 ¥1600)
取材・原文/広沢幸乃 構成・企画/渡部遥奈(MORE)