二宮和也のルーティン論。

二宮和也 ルーティン論

俳優として、アイドルとして、ときにYouTuberとして、エンターテインメントの第一線を走り続けている人。二宮さんが語る“変わらずにずっと大切にしたいもの”、そして“変わってもいいと思っていること”。最新主演映画『アナログ』をヒントにひもといていく、二宮和也のルーティン論。

二宮和也

にのみや・かずなり●1983年6月17日生まれ。99年、アイドルグループ・嵐のメンバーとしてデビュー。俳優としても高い評価を受け、バラエティ番組でも活躍を続けるマルチプレーヤー。10月からはドラマ『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』(フジテレビ系・月曜21:00〜)がスタート

久しぶりの“ザ・恋愛作品”

映画『アナログ』のタカハタ秀太監督は、僕がこれまで恋愛作品にあまり携わってこなかったことを知っていたのですが。「観たい人はいっぱいいるんで」と、そして、「あなたが思っているよりも、あなたはいい男なんだから、それをちゃんと世の中に伝えても損はないんじゃないの?」と口説かれました(笑)。

「この人は何をそこまで観たいんだ?」と最初は思っていましたが、そんなふうに外に引っぱり出してくれたのには感謝ですよね。本当に10年近く、こういう作品はやっていなかったので。

気づいたら最近は男だらけの作品が続き、周りも男だらけに。現場に女性がいるだけで新鮮な気持ちになるような生活で、また“恋愛”をする日がくるなんて想像していなかったから。もはや、何周も回って感謝です(笑)。

“毎週木曜日の約束”、二宮和也の場合

僕が演じた悟と、波瑠さん演じるみゆきは喫茶店『ピアノ』で出会いますよね。みゆきがスマホを持っていないから、「毎週木曜日、『ピアノ』で会おう」とふたりは約束を交わすんです。ただ、仕事が入ってしまったら会えないし、「違う日に会いましょう」と連絡する手立てもない。木曜日に必ず会えるわけでもなく、あくまでも“会える可能性がある”のが木曜日ってだけなんですよね。

ただ、“木曜日”をそこまでスペシャルに描いているわけでもなく、作品の中でそれは“合図”のような存在でしかないんですけど……。僕だったら、そんな面倒臭いことはしないと思います。もうちょっと合理的に動きたいタイプなのでそもそもこんな縛りは設けないですね(笑)。

“曜日ごと”のルーティンは……?

悟とみゆきのように、特定の曜日を楽しみに待ったり、その楽しみを誰かと共有した経験はあるかと聞かれたら……答えは「思い返す限り、特にない」ですね(笑)。たしかに、何曜日はこの番組の収録ですとか、曜日ごとに決まっていることはあったりするけれど、それはあくまでも“仕事”ですから。

自分はわりと楽しんでやっているほうだとは思いますけど、「やった!! 遊ぶぞー!!」みたいな感覚ではないし、そういう感覚になっちゃいけないと思うしね(笑)。習いごとをしているわけでもないし、土日に働くこともあるし、平日に休むこともある……。

こうやって話すとあらためて思うよね、「僕って曜日を気にして生きていないんだな」って!(笑)。

“スマホを使わない生活”を考えてみる

今作の取材で、みゆきがスマホを持たないことについてよく質問されるんです。きっと、多くの人はそれが不思議に思えるんだろうけど。僕はあまりそこが気にならないんですよね。忙しかったらスマホなんて見ないし、それはみんなも一緒なんじゃないかな。スマホを見るのは何かの合間や暇な時間がほとんどで、友達と遊んだり、好きな人といる時にはスマホを頻繁に見たりはしないと思うんだよね。

人生の大半、スマホがない時代を生きてきた人もスマホがあるのが当たり前な時代を生きてきた人も、直面している出来事に充実感を感じるという意味ではどの世代も、時代も、同じなんだと僕は思う。だから悟とみゆきの恋愛を見ていても「わからない」、「信じられない」とは思わないというか。何かに直面して集中している時、スマホはいらない。ふたりにとってはそれが恋愛だっただけなんだろうなって。

“デジタル”な毎日

二宮和也はアナログか、デジタルか、と聞かれたら、「めちゃくちゃデジタルです」と答えると思う。現金は持ち歩かず、完全キャッシュレスだし。スマホやパソコンをはじめ、デジタルなものを愛用しまくっている。それこそ、ゲームも大好きですからね。

だからこそ、アナログなものに対しては「贅沢」な印象がある。たとえば、レコードひとつにしてもさ、ケースから出して、プレーヤーに置いて、針を落として……。今だったらボタンひとつ押せば聴ける音楽をそうやって楽しむわけですから。「贅沢な時間の使い方だな」って思いますよね。

二宮和也的・ルーティンワーク

自分にはルーティン的なものはまったくない人だと思っていたんですけど。「映画『プラチナデータ』の撮影中はメロンパンを食べるのを習慣にしていたり、過去には作品や現場ごとのルーティンがありましたよね?」さっき、ライターさんからそう言われて、「そういえば、そんな時期もあったな」と思い出しました(笑)。

あの頃はとにかく毎日が忙しくて、移動中も寝ていることがほとんどだったから、ルーティン化することによって、「これをしているから今からあの作品の撮影だ」とか「今からバラエティ番組だ」とか“自分のスイッチング”ができていたんだよね。でも、最近は撮影の合間にYouTube動画の編集をしたり、合間、合間にいつも何かしているから。完全な“切れ目”というものが存在しないんです(笑)。

同じことを繰り返すのは得意

何か同じことをやり続けるのはわりと得意なほうじゃないかな。こうやってカメラの前に立って写真を撮ってもらい、ライターさんに話を聞いてもらうっていうのをそれはもう数えきれないほど、20年以上もやってきているわけですから(笑)。

俳優の仕事も、基本的には“繰り返し”だと思うんですよ。その時々、向きあう作品の役や内容は変わるけど、“観たいもの”を提供することはもちろん、“観たいもの”を提供したい気持ちも変わらない。また、僕らの職業には会社員みたいに昇進制度もないから。あと2年でV6になれるとか、あと4年でTOKIOになれるとか、そういうこともないわけで。

課長から部長へ、副編集長から編集長へ、助監督から監督へ……、周りが変わったとしても僕は変わらないから。それで“同じ”、“変わらない”って感覚が強いのかもしれないよね。でも、僕はそれでいいと思っています。

“繰り返し”といっても完全に同じことをしているわけではないし、その中で自分の意見を反映させてもらっている時もあるので。それくらいのバランスがちょうどいいのかな。

“ずっと変わらない”より“変わり続けたい”

これだけは進化してほしくないと感じる、そんな“アナログ”なものは特にはないかな。

僕ね、便利になる分にはどんどん進化していいと思っている人なので。“変わること”は決して“悪”ではないし、むしろ“善”なんじゃないかな。なかには“悪”に働くこともあるのかもしれないけど、それは使う人次第だと僕は思いますね。

たとえば、今作では「アドリブでお願いします」って言われる場面が何度かあって。幼なじみ役の桐谷健太さんと浜野謙太さんとのかけあいとかね。監督のタカハタさんがそういうの好きだから、なかなかカットがかからないわけですよ。これもまた、デジタルの時代だから許されることで、アナログの時代だったら間違いなく怒られるやつですからね。「フィルムの無駄遣いだ!」って(笑)。

ちなみに、悟とみゆきがそばを打つシーンがあるんですけど、あの場面は1時間くらいカメラを回しっぱなしで。カメラマンさんたちが「腰が限界だ」と訴えて撮影が一度中断。タカハタさんだけおもしろがってて、周りはヒーヒー言っていましたからね(笑)。

そんな撮影方法もですが、仕事のしかただって時代によって変わるのが当たり前なわけで。だからこそ、自分たちが生きてきた価値観もまた、後輩や後に続く人たちに押しつけたくないなと思う。“もの”だけでなく“人”も、どんどん進化していいと僕は思っています。

information

映画 『アナログ』

携帯電話を持たない謎めいた女性みゆき(波瑠)と出会った悟(二宮)は、毎週木曜日に同じ喫茶店で会い、関係を深めていく。しかし、悟がプロポーズを決意した直後に彼女は姿を消してしまい……。せつなく温かいふたりの姿を描いたラブストーリー。●10/6〜全国公開

取材・原文/石井美輪 ※MORE2023年11月号掲載