この秋最注目! 北野武の青春自伝小説「浅草キッド」が音楽劇に

ビートたけしが、芸人として一世風靡する前を描いた青春自伝小説「浅草キッド」。これまでもドラマや映画化された名作が、音楽劇として初めて舞台化されます。主人公の北野武役を務めるのは、俳優・林遣都さん。脚本・演出は、数多くの俳優がその作品への出演を熱望する、福原充則さんが手がけます。

MORE WEBでは、8月某日、10月8日の初日公演に向けて稽古入りしたばかりの林 遣都さんに、物語の魅力や本作にかける想いを語っていただきました。

林遣都さん

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俳優
林 遣都

はやし・けんと●1990年12月6日生まれ。滋賀県出身。2007年に映画『バッテリー』の主演で俳優デビュー。同作で日本アカデミー賞をはじめ数々の新人賞を受賞。以降、数々のドラマ、映画、舞台に出演し、存在感を発揮。直近は、TBS系日曜劇場『VIVANT』に出演。さらには、主演を務めるドラマ『MALICE(マリス)』が、9月14日からU-NEXTで配信中。
Official Website「Kento Hayashi」

林遣都さんスペシャルインタビュー

ーー芸人として時代を作り、映画監督として世界中にその名を轟かせる“北野武”役のオファーを受けた時の想いを教えてください

林遣都さん(以下、林):(北野)武さん役だと聞いた時は驚きましたし、実感が湧かなかったですね。というのも、オファーをいただいたのが2年以上前で。当時からするとかなり先の話だったので、いただいた話を一旦引き出しの中にしまって、時が来たら覚悟を決めて、この役に取り組まないといけないなと思っていました。

これまで実在する人物を演じる機会は何度もあったのですが、武さんのような誰もが知る国民的存在の方を演じるというのはそうない機会なので、言葉では言い表せない不思議な感覚です。プレッシャーを感じすぎてもよくないので、今は“北野武役である”と深く考えないようにしています。

ーー現在、どのように役作りに取り組んでいるのでしょうか

林:武さんの映画を観たり、書籍を読んだりしていますね。それは、武さんに似せた演技をするためではなく、武さんの本質的な考えを自分に落とし込んで、自分なりの北野武像を作り上げるためで、似せようとどれだけ近づいても、ちょっとやそっとのことで追いつける人ではないと思っています。

ーーそうして役作りをする過程で、林さんが感じた北野武さんの凄さや魅力とは

林:この舞台への出演が決まってすぐの頃、武さんとテレビ番組でご一緒する機会がありました。次から次へとトークを展開する博識さ、しかも、そのトークには必ずユーモアが織り込まれている。昔から今まで、ずっと笑いを追求し続けている方なのだなと、あらためて凄さを痛感した瞬間でしたね。

さらに、あの偉大な武さんでも僕と同様に、自分の感覚が信じられなくて悩んだり、周囲の目が気になったりしていたことを、書籍を通じて知りました。でも僕と違って、武さんはそのネガティブな感情をも笑いに変換してこられていて、そこがやっぱりすごいなと感じます。いろんな場面でおっしゃっている「ネガティブな面を持っている人間だからこそ表現できるものがある」という武さんの言葉には勇気づけられました。

林遣都さん

毎日刺激に満ちあふれる福原充則演出

ーー本作の脚本・演出を手掛けるのは福原充則さん。彼の舞台に出演することが、林さんの念願だったと伺いました。今回、初めて福原演出を受けてみていかがですか

林:
数年前、役者の先輩に誘われて観に行って衝撃を受けた舞台を手がけたのが福原さんでした。その時に見た、脚本を書くだけでなく、照明器具や小道具のラジコンを自ら操る姿も強く印象に残っています。

そんな演劇への愛が深い福原さんの演出は、たまらないですね。いろんなアイデアが次から次へと生まれていて、毎日ワクワクしています!

福原さんは役者ひとりひとりの個性と、そこから生まれる演技をすごく大切にしてくださるんです。それを感じた印象的な出来事のひとつが、本読み開始前、僕たちキャストにかけてくださった言葉です。

「台本を読んで、みなさんが感じたことや、考えたことを自由に出してください。そこから見えてくるものがあるから」。

僕たちから生まれる演技を大切にしつつ、でも演出家としてその演技は違うと感じたらきちんと指摘をしてくれるので、風通しのよい現場で、すごく居心地がいいです。

「浅草キッド」には、福原さんはもちろん、共演者、音楽やタップダンスの指導をしてくださるその道のエキスパートが携わってくださっています。そういったプロフェッシェナルの方々に食らいついていけば、新しいものを吸収できるという実感が毎日ありますし、この舞台期間は、僕の俳優人生にとって間違いなく重要な時間になると確信しています。

ーー刺激に満ちあふれた日々を過ごし、役者としての引き出しが増えている感覚があるということですね

林:
そうですね。引き出しを増やすために、映像作品とは違う、舞台で必要なスキルを向上させようと日々努力しているところです。

これまで僕が舞台で経験した役は、明るかったり、声を張ったりすることが多く、稽古場で、演出家の方や先輩役者さんからよく飛び交う「(観客に)声を届けて」という指摘に対応しやすい役どころでした。でも今回は、口数が少なくてナイーブな役で、今までのようにはいかないので、本読みの段階から「声を届ける」という表現に悩むだろうなと思っていました。案の定どう表現したらいいか悩んだのですが、福原さんに相談したら、「お芝居は、自分の演技がすべてはない。相手役のリアクション込み」とアドバイスをくださったんです。つまり、自分のお芝居に対する相手役のリアクションで、自分の役柄が伝えたかったことが観客に伝わることもあるということです。この考えには、ハッとさせられました。

ーー「浅草キッド」は、まだ何者でもなかった北野武と、師匠・深見千三郎との出会いが、物語の鍵となっています。その深見を演じる山本耕史さんとの共演はいかがでしょうか

林:お会いした瞬間にカッコいい方だなと思いました。本読み開始直前まで、役について考えている姿を見て、ひとつのことを突き詰める方という印象も受けましたね。

いざ本読みが始まると、山本さんの場を支配するエネルギーに感動しました。そのパワーは、まさに深見師匠そのもので、僕も気持ちを入れてその場に参加することができました。

今回の共演を通して、山本さんには舞台に立つ上で必要なスキルを教わりたいです。さっきお話しをした「声をどう届けるか」について山本さんにも相談したら、「大丈夫。届くから」とおっしゃられて。そのことについて考え込みすぎることはやめようと思えました。

林遣都さん

名曲「浅草キッド」も! 登場人物の心情を歌で表現した音楽劇

ーー本作は、名曲「浅草キッド」をはじめ、多数のオリジナル楽曲で作られる音楽劇。林さんが舞台で歌に挑戦するのは、2019年に出演した『風博士』以来ですよね

林:あの時は、音楽劇が初めての経験で、毎日がむしゃらでした。今振り返ると力不足だったなと思うことばかりです。今作は、その時にお世話になった益田トッシュさんが、音楽・音楽監督を務めていらっしゃり、トッシュさんの奥さまである益田トッポさんに、歌唱指導をしていただいています。発声のメカニズムだけでなく、心身の管理の仕方に至るまで、僕にまっすぐに向き合って指導してくださっているので、本番では教わったことを最大限に発揮したいし、常に万全の状態で毎公演乗り越えていけたらなと思っています。

『浅草キッド』の登場人物は、すぐに人とぶつかるし、素直になれないシャイなキャラクターたちばかりです。福原さんが、そんな彼らの本音を歌で表現したいということで、今作は音楽劇という形式を取っています。僕は、それを聞いた時に、ちょっと肩の荷が降りたんです。歌のパートも、歌だと気負わずお芝居の延長としてやっていけたらいいなと思っています。

ーー「浅草キッド」の歌詞からもわかるように、今作は、主人公が夢を諦めずに追い続ける姿も胸を打ちます。林さんは、これまでに夢を諦めそうになったことはありますか

林:この仕事が自分には向いてない、辞めたいと思ったことは何回もあります。でもそのたびに、僕のことを応援してくださっている方の言葉のおかげで、俳優業を辞めずに続けることができました。

僕のお芝居を観て、「人生を切り開くことができた」「閉ざされていた扉が開いた」とか、嘘みたいに嬉しい言葉をかけてくださるんですよ。僕も自信を失うことがあるけれど、そういったことを言ってくださる方がひとりでもいる限りこの仕事を続けていきたいなと思っています。

信頼する人の意見を聞いて、自分で出した答えは良い方向に進む

林遣都さん

ーーこの舞台は、武がある大きな決断をするシーンも見どころだと思います。林さんは、何か決断をするときに大切にしていることはありますか

林:人生の大きな決断は、怖さや不安がつきもので、心に相当な負荷がかかりますよね……。でも、自分が今以上に成長するためには、大切な人とも離れないといけない時が人生には必ずあるはずです。もし、「このままでいいのかな?」「変わりたい」とモヤモヤしているなら、優しさを捨てて、今の環境を手放すことも必要だと思います。

僕は決断する時、信頼する周りの人たちに意見を聞くようにしています。客観的な意見を参考にしつつ、最終的に自分で出した決断は、どんな結果になったとしても後悔することはないし、結果的にいい方向に進むと信じています。

ーー最後に、改めて本作の見どころを教えてください

林:最大の見どころは、“人”。とにかく登場人物が魅力的なんです。辛い現状から抜け出そうと必死にもがいたり、感情をぶつけ合ったり、愛し合ったりしていて、いろんなタイプの人間が一生懸命に生きる姿は胸にくるものがあるんじゃないかなと思います。

あと、通常の舞台と違って、いろんなジャンルの音楽に浸ることができます。誰もが楽しめる舞台になっている自信があります。

音楽劇『浅草キッド』公演情報

音楽劇『浅草キッド
■原作:ビートたけし
■脚本・演出:福原充則
■音楽・音楽監督:益田トッシュ
■出演:林遣都、松下優也、今野浩喜、稲葉友、森永悠希、紺野まひる、あめくみちこ、山本耕史、村上航、久保貫太郎、西山宏幸、後東ようこ、松之木天辺、寺井義貴、竹口龍茶、熊野晋也、松永健資、江見ひかる、永石千尋、横田剛基、元榮菜摘、古田伊吹
■企画・製作:関西テレビ放送

<東京公演>
期間:2023年10月8日(日)~10月22日(日)
会場:明治座
住所:東京都中央区日本橋浜町2-31-1
問い合わせ先:明治座チケットセンター
TEL:03-3666-6666(10:00~17:00)

<大阪公演>
期間:2023年10月30日(月)~11月5日(日)
会場:新歌舞伎座
住所:大阪府大阪市天王寺区上本町6-5-13
問い合わせ先:新歌舞伎座テレホン予約センター
TEL:06-7730-2222(10:00~16:00)

<愛知公演>
期間:2023年11月25日(土)~11月26日(日)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
住所:愛知県名古屋市東区東桜1-13-2
問い合わせ先:キョードー東海
TEL:052-972-7466
月~金 12:00~18:00、土 10:00~13:00(※日曜・祝日は休業)

音楽劇 浅草キッド | 関西テレビ放送 カンテレ

撮影/イマキイレカオリ ヘアメイク/竹井 温(&’s management) スタイリスト/菊池陽之介 取材・文/海渡理恵