憧れの先輩に聞く、“私が選んだ今とこれから” VOL.4

Every Little Thingのヴォーカルとしてデビューし、ヒット曲を連発。目まぐるしい日々を過ごして気づけたのは、自分らしいペースで一歩ずつ進んでいくことの大切さでした。

2023年MORE11月号掲載企画から、インタビュー記事をお届けします。

持田香織さん 45歳「挫折したり悩んだりしたことも必要だったと思える時がくるはず」

持田香織さん

ニット¥39600・シャツ¥34100/ニアー(ニアーニッポン) パンツ¥39000/TEECHI(ティーチ) 靴/本人私物

無理せず、ひとつひとつのものごとと丁寧に向きあっていきたい。そう思えるのは、がむしゃらに走ってきた時間があったから

前だけを見て走った20代。体からのSOSに気づかないふりをしていた

この世界に入ったのは、物心がつく前。芸能の仕事に興味津々だった母が私をモデル事務所に入れたことが始まりでした。中学時代にはアイドルグループに所属していたんですけど、同期メンバーとの相性がよかったおかげで、活動がすごく楽しくて。その経験は、高校卒業後の進路に迷った時、『エイベックス』に自分の音源を持ち込むきっかけになった気がします。そこで、のちに同じグループのメンバーになる五十嵐(充)さんを紹介していただいて、Every Little Thingが誕生することに。ちなみに、なぜ『エイベックス』を選んだのかというと、TRFさんのように踊りながら歌うことに憧れていたから。学生時代はダンス番組を観るのが大好きで、私自身も駅前の大きなガラス窓を鏡に見立てて友達と踊っていた高校生だったんです(笑)。

1996年に18歳でEvery Little Thingとしてデビュー。当時は、どのアーティストも会社の「絶対に売るぞ!」っていう勢いがすさまじかったんです。私はそんな“時の運”だけでたくさんの方に歌を聴いていただけるようになったんですけど、目標も立てなければ先のことも考えない性格だったので、劇的な環境の変化に対する戸惑いや不安はまったくなくて。それどころか、20代前半はなかなか体験できないことばかりの日々を純粋に楽しんでいました。スタッフのみなさんが行きたいからという理由だけで歌番組の収録のためにバハマに1週間滞在して、撮影は2日で終わらせてあとはオフ、なんていうこともありましたからね(笑)。忙しくて寝る時間はなかったけれど、現場に行けばいつも同じチームの人たちとワイワイ仕事をしていた記憶があります。

ただ、その後20代後半から30代半ばまでは、ずっと大変でした。歌詞を書き始めたのが21、22歳の頃だったんですけど、書けなくて、でも期日は迫ってくるから書かなきゃいけなくて。結果レコーディングにしわ寄せがいって朝5時から歌録り。そんなことを繰り返していたら、疲弊していって当たり前ですよね。女性の体に変化が訪れる27、28歳になっても、ひとりでやっているわけじゃないから休むわけにはいかないって考えて、自分のことを後回しにしてしまい……。結局無理しすぎて体はボロボロ。思うように歌えないこともあったりと、悪循環でした。今の若い人たちは、そういう判断がわりと速くて、自分で「休みます」って決断できるところが素晴らしい。でも、頑固でプライドも高い私には、人生は一筋縄ではいかないっていう、あの挫折が必要だったんだろうなと思います。

25歳の頃。毎日レコーディングや作詞に追われる日々でした

2003年non-no4月5日号

2003年non-no4月5日号

人は、いくつになっても成長できる。夫との結婚生活が教えてくれたこと

結婚したのは、37歳の時。いつかはするだろうなとは思いつつ、“楽しい”が仕事現場や友達と遊ぶことにあったので、10年間くらい誰ともおつきあいしていなかった時期も全然苦じゃなかったんです。夫と出会っていなければ、今も独身生活を満喫していたかも(笑)。でも、結婚したから学べたことはたくさんあって、夫婦でもお互いを気遣わないとうまくいかないっていう経験が根本にあるから、家庭以外でトラブルが起きた時も解決策を見つけやすくなりました。以前なら「もう無理」って投げ出しそうになっていたことも「そうか、私がこういうところを直さないといけないんだ」と配慮できるようになったのは、結婚生活のおかげ。人は、出会う人によって、いくらでも、いつからでも成長できる。そう考えると、なんだかワクワクしますよね。

食べるものが心と体をつくってくれる。だから、食事はお魚と野菜中心です

結婚を機に仕事のペースを落とさせてもらったことで、人生初の交通系ICカードを買って電車移動したり、海外旅行をしたりと、プライベートの充実度が一気に上がりました。ある時、心と体をつくるのは食べ物だと気づいて、食事にも気を使うように。まず、夫が1カ月のうち3のつく日だけお肉を食べることを始めたんですけど、私から「10日と20日も足そう」と提案して(笑)、月に6〜7日がうちのお肉の日。ほかはお魚と野菜中心にしたら、体調がめちゃめちゃいいし、朝も早い時間に自然と目が覚めるんです。子供も1歳半にして、すでに30種類くらいのお魚を食べているんですよ。

45歳になった今は、自分ができる範囲でものごとと丁寧に向きあえる環境をつくることがテーマ。はたからは気楽そうに見られがちですけど(笑)、そう思えるのはがむしゃらに走ってきた20代、30代があったからこそ。これからも、歌や、文章を書くこと、陶芸のような習いごと……やってみたいことを少しずつ形にしていけたらと思っています。

あの頃の私へ、伝えたいこと

つらいと思うことは、やらなくていい!

昔の私には無理して失敗する経験が必要だったからそんなこと言わないですけど(笑)、今20代の方には自分が楽しいと感じることを選んでほしい。そのほうが、いろんな道が開けるし、素敵な人に出会えるんじゃないかな。

持田香織さん

Kaori’s 45years

15歳 アイドルグループ「黒BUTAオールスターズ」の第2期メンバーとしてCDデビュー

18歳 3人組バンド『Every Little Thing』のヴォーカルとしてCDデビュー
    1stシングルの『Feel My Heart』は約10万枚のヒットを記録し、その後も数多くのミリオンヒットを生み出す

20歳 ソロでの活動もスタート
    エッセイの出版や他アーティストの作詞を担当するなど活躍の場を広げる

37歳 結婚

41歳 ソロ活動10周年記念全国ツアーを開催

43歳 第一子出産

持田香織

もちだ・かおり●1978年3月24日生まれ、東京都出身。Every Little Thingのヴォーカルとして数々のミリオンセールスを記録。趣味は料理や陶芸、着物を着ることなど。オフィシャルサイト■https://kaorimochi.co/

撮影/山根悠太郎(TRON) ヘア&メイク/岡野瑞恵(storm) スタイリスト/谷本キヨミ 取材・原文/吉川由希子 ※MORE2023年11月号掲載