木村カエラさん40歳。「いろんなことを乗り越えてきて感じるのは『何事もどうにかなる!』ということ

耳と心に残る歌声とチャーミングな人柄で、世代を問わず絶大な人気を誇るアーティストの木村カエラさん。今年でデビュー20周年のメモリアルイヤーを迎える木村さんの10代、20代、30代、そしてこれからをインタビュー。「音楽の前では常に正直でありたい」と一途に向き合い続けた彼女がたどり着いた、一番大切なものとは。

木村カエラさん

「いつか、歌を歌う人になりたい」 10代は夢のスタート地点に立つまでのプロローグ

幼い頃から、音楽とファッションが大好きで。小学校6年生くらいからかな、読者モデルとしていろんな雑誌に出させてもらうようになったんです。そんな私が「SEVENTEEN」の専属モデルになったのは17歳の頃。オーディションを受けようと思ったきっかけは、知り合いのライターさんがかけてくれた「夢に近づくことができるかもしれないよ」という一言でした。

その「夢」とは「歌を歌う人になること」。それは物心ついた頃からずっと、私が抱き続けてきた夢でした。

高校時代はモデルをしながら音楽活動も継続。バンドを組んでライブをしたり、レコード会社にデモテープを渡しに行ったりして。でも、なかなか夢には近づけなくて、それどころか「モデルがノリで音楽を始めたんでしょう?」といった目で見られてしまったことも。逆に“モデル”という肩書きを重荷に感じてしまうこともありました。

夢を叶えるタイムリミットを「20歳まで」と決めた

木村カエラさん

カーディガン¥50625/サンディ・リアング(リディア) ピアス¥35200/ウジョー(エム) リング¥99000/アイジェージュエリー 

18歳、高校3年生になって「この先の進路をどうするか」を考えなければいけなくなった時、親からは大学進学をすすめられました。「いつまでも叶わない夢を追いかけていないで現実を見なさい」って、親としてはきっとそんな気持ちもあったんだと思います。でも、私はまだ夢を諦めたくはなくて……。そんな時に舞い込んできたのが、「音楽情報番組 tvk『saku saku』のMCをやりませんか?」というオファーだったんです。そこで「20歳でデビューできなかったら諦めて、勉強し直して大学に入るから」と親を説得して、あと2年間だけ夢を追いかけさせてもらいました。

『saku saku』はたくさんの人に愛してもらえる番組になったけど、私の夢は叶わないまま。時間だけがどんどん過ぎていって……。20歳のタイムリミットが目前に迫ったとき、思い切って「saku saku」のプロデューサーに「デビューがしたい!」と直談判したんです。「私は歌手になりたくて今まで生きてきたから、どうしても歌を歌いたいんです!」って。そうしたら、その2週間後に番組の企画としてCDデビューが決まりました。

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「幸せなはずなのに、苦しかった」 心を閉ざしてトゲトゲになった20代前半

そこからは自分を取り巻く環境や状況がめまぐるしく変化。たくさんの人が私の曲を聞いてくれるようになって、大きな会場でライブができるようになり、いろんな音楽番組にもよんでもらえて……。毎日があっという間に過ぎていきました。それこそ、あちこちの記憶がポンと抜け落ちてしまっているくらい、あの頃は本当に忙しかった。

そんな私だけど、今もしっかり色濃く残っている20代の記憶がいくつかあって。そのひとつが“初めての日本武道館単独ライブ”なんです。なかでも忘れられないのが、準備中の会場で、たった一夜のステージのために働いてくれている大勢のスタッフの姿。あの光景を見た時に「ああ、私のためにこんなにも沢山の人が動いてくれているんだ」って、自分でも驚くほど心がぶるぶると震えました。

デビューするという夢を叶えてからは本当に幸せで楽しかったんですよね。でも、出会う人が増えて、いろんなことを言われて、良くも悪くもたくさんの人に評価されて……それが、つらいと思うこともあって。どんどん心が敏感に繊細になってしまい、気づいたら楽しいけどつらくて、幸せなはずなのに苦しくなってしまったんです。あの頃の私は周りに壁を作ってしまい、心を閉ざしてしまって、勝手にひとりぼっちになっていたから……。でも、そうじゃないことを武道館の光景が教えてくれたというか。あの時に思えたんだよね、「音楽も、人生も、幸せになるためにはひとりじゃダメ。自分のことばかり見ていないで、ちゃんと周りを見ろ、私!」って。

そこから、私の音楽も変わりました。最初の頃は「自分をわかってほしい」という気持ちがすごく強かった気がするんです。それこそ、デビュー曲の歌詞に「Hey! you listen!(聞いて!)」と書いたり、デビューアルバムのタイトルに『KAELA』と自分の名前をつけてしまうくらいに(笑)。そんな自分だったから、あの時だからこそ生まれた曲もあって、それはそれですべてが私にとっては大切な宝物なのだけど。心を開いてからは、音楽が自分だけのものではなくなったというか。たとえば、「Butterfly」もそのひとつ。誰かを思い、誰かに寄り添い、思いを共有するように歌う……。心の向かう先がどんどん広がっていって、音楽の世界も豊かになった気がします。

25歳で結婚、二児の母になりました

武道館公演の3年後、25歳の時に結婚をしました。周りからは「若い!」「早い!」と驚かれたりもしたけれど、私はそう思わなかったし、躊躇することもなかったかな。だって、「あ、この人だ」と思う人が目の前に現れてしまったから。結婚は自分で決めるものじゃなく“いつ出会うか”で決まるもの。私の場合は、それがたまたま25歳だったんです。

そして、まもなくふたりの子どもを出産。「いつか自分の家族を持つ」のもまた私の大きな夢だったから、子どもたちとめぐりあえたのは本当に幸せな出来事でした。

怒涛の20代を経て迎えた30代、 生まれて初めての“スランプ”を経験

木村カエラさん

ただ、子育てと音楽活動の両立はやっぱり大変で。母として120%の愛情と時間を子どもに注ぐと、アーティストとしての自分と向き合う時間が削られてしまう……。気がつけば、思うように音楽を紡げなくなってしまった自分がいました。それを一言で表現すると“スランプ”。アイデアもわかないし、何を書きたいのかもわからない、まるで自分が空っぽになってしまったような。それは人生で初めての経験でした。「音楽をやめたい」と思ったのもその時が初めて。歌うことだけを考え生きてきて、歌が一番の宝物だったからこそ、「こんな中途半端な状況で挑むのは失礼。だったら、やめたほうがいいんじゃないか」と思ったんです。「大好き、だからこそ、つらい」そんな状況がずいぶん長く続いた気がします。

そんなスランプから抜け出せたのは、絵本『ねむとココロ』を描いたのが最初のきっかけだったかな。とにかく何も考えずに直感に従って描いてみようと、自分の心を動かし、感じるまま、真っ白な画用紙に色をのせていったんです。それが、すごくいいリハビリになったというか。また、コロナ禍に意図せず音楽から離れることになったのも大きかったのだと思います。デビューしてから、こんなにも歌わない時間を経験したのは初めのことで。結果、歌いたい気持ちが大きくなりました。「ああ、私ってやっぱり歌が、音楽が、大好きなんだ!」って、自分の思いを再確認しました。毎日のようにギターを触って歌っていたら、自分の中にアイデアが溢れ出てくる感覚が戻ってきて。あの時は本当に叫び出しそうになるくらい嬉しかったな。

40歳、今の私はものすごく自由で楽しい!

私にとって音楽は“考えて作るもの”ではなく“心が動いた時に生まれるもの”。自分の中からわき上がってくるものじゃないと表現したくないし、そうじゃないものを表現しようとすると胸が痛くなる。「音楽の前では常に正直でありたい」という気持ちが強いからこそ、苦しんで悩んだ時期もあったけど、今はぐるっと一周回って「音楽が楽しい!」に戻ってきた感覚なんです。

今年、私はデビュー20周年を迎えました。そのアニバーサリーでもあるアルバム『F(U)NTASY』には「Twenty」という曲が収録されています。そこで私は「続けてよかった、最高」と歌っていて、それがまさに今の私の気持ち。続けること、続けられることって、本当に奇跡みたいなもので。そこには覚悟や努力も必要なんだけど、やっぱり一番大切なのは「好き」の気持ちで、それが背中を押してくれたからここまで来られたんだと思う。

また、「学んで遊べ我が道 楽しんだもん勝ちでしょう」も今の私をよく表している歌詞なのかもしれないな。たぶん、自由度でいうと40歳の今がナンバーワン。最近よく思うんです、「そんなに考えなくていいよ、悩まなくていいよ、もう、このままの私でいいじゃん!」って。過去の自分を振り返っても思うんだけど、壁にぶちあたる時って、心よりも頭が動いている気がするんです。でも、じっと考えたところで何も変わらないわけで。だったら、難しいことは考えずに「もっと楽しく心を動かしていこうじゃないか!」と(笑)。

あの頃の自分に伝えたいのは「そんなに考えなくていいよ、 悩まなくていいよ、そのままの私でいいよ!」

木村カエラさん

いろんなことを経て、感じ取って、乗り越えてきて、今の私が感じるのは「何事もどうにかなる!」ということ。40歳になった私はそれを知っているからこそ、もっと自分の好きなことをやりたいし、もっと自由でいたいし、もっと楽しみたいと思っています。人生はいつも同じではなく、いろんな時期があり、流れるように変わっていく。その流れに乗りながら、そのときどきで変わっていく気持ちを、これからも正直に音楽にしていけたらいいなって。

MORE読者と同じ、30歳前後の自分に届けたい言葉があるとしたら、それもやっぱり「悩まなくていいよ!」になるのかな。本当に人生は一度きり、悩んでいる暇なんてないから「その時にやりたいと思うことは全部やっちゃいな!」って。あまりにもあれこれ頭で考えすぎると心の動きに鈍感になっていく。心は動いているのに、そのサインを見逃して、手に入るはずだったものすら逃してしまうかもしれない。「ほどほどに」がいいなって思うんです。でも、それはきっと今だから言えることなのかなとも思います。

KAELA’s 40years

17歳 雑誌「SEVENTEEN」の専属モデルに

19歳 音楽情報番組 tvk『saku saku』でテレビ初登場。1stシングル「Level42」でメジャーデビュー。

25歳 初のベストアルバム『5years』発売。15thシングル「Ring a Ding Dong」を発売し、デビュー6年で自身初のオリコン週間シングルランキング1位を獲得。

29歳 メジャーデビュー10周年を迎え、ベストアルバム『10years』をリリース。アニバーサリーライブ「KAELA presents GO!GO! KAELAND 2014〜10years anniversary」を開催。

33歳 初の絵本『ねむとココロ』を出版。

39歳 20years anniversary EP『F(U)NTASY』をリリース

木村カエラ

きむら・かえら●10月24日生まれ、東京都出身。2001年に雑誌「SEVENTEEN」の専属モデルに加入。2004年にシングル「Level 42」でメジャーデビューし、以降「リルラ リルハ」「Magic Music」「Ring a Ding Dong」「Butterfly」など数々のヒット曲をリリース。昨年配信されたサバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」では国民プロデューサー代表を務め、注目を集める。2024年9月にデビュー20周年記念のEP『F(U)NTASY』をリリース。10月には4度目の日本武道館公演を控える。

20years anniversary EP「F(U)NTASY」

20years anniversary EP「F(U)NTASY」

先月リリースしたデビュー20周年記念EP。TBS系『王様のブランチ』のテーマソング「ケセラセラ」、ABEMAオリジナル恋愛番組『私たち結婚しました 5』主題歌「DAHLIA」、映画『九十歳。何がめでたい』主題歌である「チーズ」に加え、メモリアルソング「Twenty」を含む全5曲を収録。初回限定盤にはファンクラブ限定ライブを記録した貴重なオフショット映像『Documentary of 20th Anniversary Day 2024.06.23』を収録。完全生産限定盤はスペシャルトートバッグつき。完全生産限定盤(CD+GOODS)¥5940 初回限定盤 (CD+Blu-ray)¥3850 通常盤 (CD)¥2200

木村カエラ 20th Anniversary Special Site

撮影/大辻隆広 ヘア&メイク/フジワラミホコ スタイリスト/二宮ちえ 取材・文/石井美輪

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