誰かになりたいと思ったことはない。自分はひとりだけだから。

市川染五郎
世の中には、生まれながらにスターになることが決められている人がいる。今年1月に八代目・市川染五郎を襲名すると、気品ある佇まいと美しさで歌舞伎を知らない女子までざわつかせた。メディアに露出する機会も増え、「モデルさんのような写真を撮っていただくと、叔母(松たか子)がいじってきます。『これ誰?』みたいに」と、周囲からの反響をはにかみながら教えてくれた。初舞台を踏んだのは4歳の時。以来、13歳の今までお芝居が好きという気持ちが揺らいだことはない。

「祖父も父も一度は歌舞伎役者をやめたいと思ったことがあるらしいんです。特に祖父は、耳の後ろのおしろいが取れていなかったことを学校でいじられたり、大学受験の最中に廊下までマスコミが押しかけたり。それがイヤでけっこう悩んでいたらしいですね。僕たちの時代は学校でも『すごいね』と言ってもらえたりするし、とにかくお芝居が好きなので、その気持ちを支えにやってます」

 8月は1カ月間、歌舞伎座に出演。中学生らしい夏休みの想い出は「家で花火をしたくらい」だったとか。

「お芝居をすることがいちばん楽しいので、海に行くとか、そういうのは疲れます(笑)。勉強も好きじゃない。勉強が世界になければもっとのびのび生きられるのにって思います。お芝居のほかには仏像や『スター・ウォーズ』にハマったこともあるけど、今好きなのは欅坂46。最初はプロデューサーの秋元康さんをすごいなと思ったのがきっかけです。どうしてもそういう部分を見てしまうので、子供らしくないって言われます」

歌舞伎の枠にとらわれず幅広いジャンルで活躍する先輩も多い中、思い描く新しい染五郎像は?

「同世代の人に歌舞伎をごらんいただく入口をつくりたいです。そのためにも新作をつくりたいと思っていて。何本か脚本を書いているんですけど、仕掛けを考えても猿之助のお兄さんや猿翁のおじさまがすでにスーパー歌舞伎でやっていらっしゃるものばかり。実際、猿之助のお兄さんに『悔しいです』って言いました」

 おっとりした受け答えからはナイーブな印象を受けるが、内側でメラメラ燃える歌舞伎への愛と俳優としての強いプライドが垣間見えた。憧れの人についても、「誰かになりたいと思ったことはありません。誰かに似てるって言われるのもイヤなんです。だって自分はひとりだけだから」との答えが。11月は京都四條 南座に出演。圧倒的ポテンシャルを秘める頼もしいプリンスの魅力は、生で観てこそよくわかるはずだ。

いちかわ・そめごろう●2005年3月27日生まれ、東京都出身。2009年6月、歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で四代目・松本金太郎を襲名し4歳で初舞台。2018年1〜2月、歌舞伎座で八代目・市川染五郎を襲名した。11月には改修工事を終え3年ぶりに開場する京都四條 南座に出演する

京都四條 南座『當る亥歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』

「お芝居をすることがいちばん楽しい」【市の画像_2
祖父・二代目松本白鸚さん、父・十代目松本幸四郎さんと共に、高麗屋三世代の襲名披露を行う。染五郎さんは初舞台で演じた『連獅子』、1月の襲名披露でも演じた高麗屋の十八番『勧進帳』の源義経役で登場する。●11/1〜25 京都四條 南座
取材・原文/松山 梢 撮影/尾身沙紀(io) ヘア&メイク/AKANE スタイリスト/堀井香苗 シャツ¥78000/3.1 フィリップ リム ジャパン(3.1 フィリップ リム) その他/私物