12星座全体の運勢

「白紙にかえす」

「暑さ寒さも彼岸まで」の秋分直前の9月17日に、おとめ座で新月を迎えていきます。

夏のにぎわいが遠のき、秋らしくなるにつれ、次第に風が透き通っていくように感じられてくる頃合いですが、そうした時に吹く風を昔から「色なき風」と呼んできました。

中国から伝わった五行説によると、秋の色は白。日本人は、その白を、「色無き」と言い換えた訳です。本来は華やかさがないという意味でしたが、言い換えられていくうちに、しみわたるような寂寥感を言い表すようになっていったのだそうです。

そして、今回のおとめ座新月のテーマは「初心に返る」。能の大成者である世阿弥の「初心忘るべからず」という言葉と共に知られる「初心」は、普通に考えられているような“最初の志”のことではなく、自分が未熟であった頃の“最初の試練や失敗”の意ですが、これは試練に圧倒されたり、失敗の前に膝をついたりしたことのない者には、本当の成功はいつまでもやってこないのだということを指します。

そうした失敗や挫折を不当だとか、相手や世間が悪いと思い込むのではなくて、そこから人間としての完成に近づくための新たな挑戦が始まるのだと気付くこともまた「初心」なのです。人生には幾つもの初心がある。そんなことに思い至ることができた時には、きっと心のなかをとびきりの「色なき風」が吹き抜けていくはず。

双子座(ふたご座)

今期のふたご座のキーワードは、「なによりもまず穏やかさを!」。

双子座のイラスト
ラジオはかつて夢のメディアでした。

フランス哲学界の巨星バシュラールは、1951年に書いた「夢想とラジオ」というエッセイの冒頭で、「ラジオというものはまったく宇宙的な問題である。地球全体が喋りまくっている」とした上で、「日常的な仕方で、人間の精神(プシュケ)とは何かを提示する役をラジオは負っているのだ」と述べつつ、「このロゴス圏、言葉の宇宙、人間の新しい現実であるこの宇宙的な話し言葉の世界における、自律的な生命を持たねばならないのである」と打ち出してみせました。

そう書かれてから70年近くが経過した今、ラジオが実際にそうした役割を果たせているかは分かりません。ただ、近年の電子書籍の台頭によってその立場が危うくなってきている本との比較もしつつ、バシュラールはラジオについて語り続けます。

本というものは閉じられたり開かれたりして、人を孤独のうちに見出すようにも、人に孤独を課すようにも出来てはいない。反対に、ラジオは確実に人に孤独を課す。

「孤独を課す」というのは強い表現ですが、これは本よりもラジオの方が、より自身の内側へと深く潜っていくことを促すということ。

自分のなかに安らかさを、休息を置くことがそこでは権利でも義務でもあるような一室で、独り静かに、宵の時間に聴く必要があるだろう。ラジオには、孤独のなかで語るに必要な一切のものがある。ラジオには顔は要らない。

恐らくバシュラールは、不幸な魂、暗鬱でありながら昂ぶった生を余儀なくされている魂たちに必要な一切のものをラジオに見出したのかも知れません。ラジオはリスナーが休息を受け入れられるような良き夜を準備してくれる。うまくいけば、めいめいが週に一度はぐっすりと眠れるように。

そうしたラジオに寄せられたかつての期待は、テレビ的なるものが完全に飽きられ、人々から距離を置かれつつある今の時代において再び高まりつつあるように思います。

何より、今期のふたご座にとっても、改めて自分ひとり孤独に過ごす夜を確保することが重要になってくるはず。雑音の海から逃れ、そっと夜そのものに深く沈んでいく中で、自分に必要なのはまず何よりも穏やかさなのだということを実感していくでしょう。


参考:ガストン・バシュラール、澁沢孝輔訳「夢見る権利」(ちくま学芸文庫)
12星座占い<9/6~9/19>まとめはこちら
<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ