大人の心を動かすおすすめの絵本と詩集まとめ

先行きが見えない今──そわそわしたり、ザワつく気持ちを落ち着かせ、心をほぐしたい。そんな大人たちへ贈るエンタメの特効薬、絵本と詩集。絵本を愛する女優・モデルの三戸なつめさん、ブックディレクターの幅允孝さんなど、本に精通する人たちがおすすめする作品をご紹介!
[目次]
  1. 【三戸なつめさんに聞く】絵本が大人に与えてくれるものとは?
  2. 大人におすすめの絵本9選
  3. 【幅允孝さんに聞く】詩集が大人に与えてくれるものとは?
  4. 大人におすすめの詩集9選

【三戸なつめさんに聞く】絵本が大人に与えてくれるものとは?

女優・モデル 三戸なつめさん

三戸なつめさん
みと・なつめ●モデル、タレント、女優として活動しながら、絵本作家としての顔も持つ。『ごごナマ・おいしい金曜日』(NHK・金曜13:40〜)にも出演。YouTubeではVLOGも公開中

三戸なつめさん絵・文の絵本

三戸なつめさん作の絵本『ムム〜しまちゃんのおたんじょうび〜』
自身のぬいぐるみを絵本に。『ムム〜しまちゃんのおたんじょうび〜』(アソビシステム ¥2350〈税込〉)

見失いがちな自分の“本当の気持ち”に気づかせてくれる大切な時間

絵本を読む三戸なつめさん
「大人になって、本屋さんの絵本コーナーに足を運んだ時に『やっぱりこの空間、好きやわ』とワクワクして。幼い頃、図書館で読んでいたものを自分でも集めたいという大人の感情(!?)も芽ばえて以来、本棚に飾っては眺めたりするようになりました。心情や表情をつぶさに描くマンガに比べ、絵本は要素が少なかったり正解がない分、深く考えたり、自由に想像できる。人生をある程度生きてくればその都度、感情や経験とリンクさせながら読める。そしてそのたびに受け取り方が変わるところも絵本の魅力だと思います。また、今の時代、外へ外へと情報や感情を発信したり、みんなが同じ方向を向いているのが当然のような風潮もあり、正直ちょっぴり疲れたり、自分が何なのかわからなくなることも。そんな時、絵本の世界に浸ることで、心の奥に眠っていた感情を再確認できたり、“このままでいいんだよね”と本来の自分を認め、大切にできる気がするんです」(三戸さん、以下同)

ニット¥39500/ジャーナル スタンダード 表参道(ヤン ヤン) スカート¥18000/ビームス カスタマーサービスデスク(カロリナ グレイサー) イヤリング¥3200/ビームス ウィメン 原宿(ビームス ボーイ)

大人におすすめの絵本9選

大人におすすめの絵本【1】『おちゃのじかんにきたとら』〈作・絵〉ジュディス・カー 〈訳〉晴海耕平

大人におすすめの絵本1『おちゃのじかんにきたとら』
「ソフィーとお母さんがお茶をしていると、ある日突然やってきたとらが、家の中の食べ物を全部食べちゃった(笑)。それを許すふたりや、帰宅して『何もないなら外食に行こう』と言えるポジティブ思考のお父さんの姿に、理想の家族のあり方を見ました」(童話館出版 ¥1500)

大人におすすめの絵本【2】『ラチとらいおん』〈文・絵〉マレーク・ベロニカ 〈訳〉とくながやすもと

大人におすすめの絵本2『ラチとらいおん』
世界でいちばん弱虫な男の子ラチ。そんな彼のもとにきた小さならいおんがそばにいることで、少しずつ成長する姿を描きます。「大人になると無理そうなものはできないと決めつけがちだけど、がんばる勇気がもらえる、絵本界の『ドラえもん』的存在」(福音館書店 ¥1100)

大人におすすめの絵本【3】『ぞうくんのさんぽ』〈作・絵〉なかのひろたか 〈レタリング〉なかのまさたか

大人におすすめの絵本3『ぞうくんのさんぽ』
散歩に出かけたぞうくんの上に同サイズのかばくんやわにくんがのってきて……。「お人よしのぞうくんのキャラクターや動物たちのころんと丸いフォルム、ポジティブな内容にいつの間にか気持ちがほぐれます。気持ちをゆるめたい時にぴったりの一冊」(福音館書店 ¥900)

大人におすすめの絵本【4】『梨の子ペリーナ』〈再話〉イタロ・カルヴィーノ 〈絵〉酒井駒子 〈訳〉関口英子

大人におすすめの絵本4『梨の子ペリーナ』
「酒井駒子さんの画力に引き込まれたイタリア昔話の再話。梨と一緒にかごに入れられ、王様の宮殿にやってきたペリーナ。理不尽なことに遭遇しても持ち前の気立てのよさで、人々の心を解放していく彼女の姿に、私もいいことをして生きたい、と思いました」(BL出版 ¥1600)

大人におすすめの絵本【5】『切なくそして幸せな、タピオカの夢』〈著〉吉本ばなな 〈絵〉Soupy Tang

大人におすすめの絵本5『切なくそして幸せな、タピオカの夢』
この絵本をおすすめしてくれたのは…
『代官山 蔦屋書店』キッズコンシェルジュ・山脇陽子さん
書店2階のキッズコーナーは、時代や国境を超えたロングセラーが充実。コンシェルジュによる選書フェアも定期開催

吉本ばななさんがつづる小さな幸せの奇跡をかみしめて
「誰にでもあるせつない記憶を、美しい言葉と温かな絵でつづる絵本。“人生は一度しかなく、なるべく幸せでいた方がいい。なるべく愛する人と、おいしく食べた方がいい。”と結ぶ筆者の声が、今の私たちの心に響きます。小さな幸せの積み重ねが、未来へつないでいくのです」(幻冬舎 ¥1500)

大人におすすめの絵本【6】『きょうはそらにまるいつき』〈著〉荒井良二

大人におすすめの絵本6『きょうはそらにまるいつき』
おすすめしてくれたのは…
『MOE』編集部プロデューサー・位頭久美子さん
雑誌の編集に加え絵本作家の発掘から連載の書籍化まで行う編集者。ヒグチユウコ著『せかいいちのねこ』の編集を担当

ページを開くと温かいものに包まれている気分に
「家路につく女の子、猫……それぞれがそれぞれの場所で見上げるのは、まんまるの月。どこにいてもやさしい光が降り注ぎ、今日も無事に過ごせた安堵感が美しい画面いっぱいに広がる。先行きが見えない日々ですが、ページを開くと温かく包まれているような喜びを味わえます」(偕成社 ¥1400)

大人におすすめの絵本【7】『リサとガスパール ちきゅうを すくう』〈文〉アン・グットマン 〈絵〉ゲオルグ・ハレンスレーベン

大人におすすめの絵本7『リサとガスパール ちきゅうを すくう』
おすすめしてくれたのは…
モデル・松本 愛さん
モアモデル。インスタグラムではオススメのコスメやボディメイクの様子を発信(@aimatsumoto_45)

リサとガスパールとサステイナブルについて考える
「絵本は普段自分が忘れてしまった目線で描かれていることが多いので、新たな発見やひらめきをくれます。この本は、最近よく耳にするサステイナブルを、日々どんなふうに意識し、行動に移していけばよいかを、2匹の愛らしい言動を交えながら、その大切さを教えてくれます」(コスメキッチン ¥1200)

大人におすすめの絵本【8】『3人のママと3つのおべんとう』〈著〉クク・チスン 〈訳〉斎藤真理子

大人におすすめの絵本8『3人のママと3つのおべんとう』
おすすめしてくれたのは…
作家 翻訳家・松田青子さん
『スタッキング可能』(河出書房新社)で作家デビュー。『持続可能な魂の利用』(中央公論新社)など著書多数

がんばる女性たちの気持ちをやさしくほぐす
「同じマンションに住む、それぞれ働いていたり、専業主婦だったりする3人のママの一日を描いた作品。忙しいママたちをやさしく包み込むようなラストシーンに、思わず涙が出ました。この世界は多様で、いろいろな見方があるんだと教えてくれるのが絵本の魅力だと思います」(ブロンズ新社 ¥1400)

大人におすすめの絵本【9】『九月姫とウグイス』〈文〉サマセット・モーム 〈訳〉光吉夏弥 〈絵〉武井武雄

大人におすすめの絵本9『九月姫とウグイス』
おすすめしてくれたのは…
『教文館子どもの本のみせナルニア国』スタッフ・八巻聡子さん
1885年創業の書店の児童書専門フロアには、1万冊を超えるロングセラー作品のほか、1年以内に発売した児童書も揃う

文豪サマセット・モームによる、ウイットに富んだ唯一の童話
「歌声の美しいウグイスと心通わせる九月姫と、それを妬む8人の姉が繰り広げる物語。ナンセンス、ロマンス、人生の真実がこめられていることを大人になって読み返した時に発見! ウグイスの言葉やページごとに変化する絵のタッチと構図は斬新で、何度見ても感激します」(岩波書店 ¥900)

【幅允孝さんに聞く】詩集が大人に与えてくれるものとは?

ブックディレクター 幅 允孝さん

はば・よしたか●『バッハ』代表。人と本が上手に出合えるよう、ユニークな方法やさまざまな場所で本の提案を行う。大阪に誕生した『こども本の森 中之島』のクリエイティブディレクターも担当

詩集は、つながりすぎている現代に、短い時間で、強制的にひとりになれる時間をくれるもの

「YouTubeに動画配信サービス、オンラインゲーム……受動型やシェアベースの作品が多い現代のエンターテインメント。常に何かとつながった世の中だからこそ、あえてひとりになることは、新しい意味のようなものを生み出す豊かな時間かもしれません。そんななか、自発的に孤独に陥り、短時間で作品に没入できるのが、三角みづ紀さん最果タヒさんといった若手の女性詩人が活躍している詩の世界。TwitterやLINEに慣れているモア世代の方は、言葉や短い文章から背景やこぼれ落ちた真意といった“ニュアンスを読む”ことに対しては鋭敏で得意な人が多い印象も。それゆえに詩は、実は親しみやすい存在なんです。詩人が言葉をしぼり出し、精巧な彫刻を造るように研ぎ澄まされた言葉の世界。言霊と呼応する装丁を愛でたり、好きな一節を繰り返したり、ときにはゆっくり読んでみたりと、口の中であめ玉をじっくり転がすように、何度も味わってみてください」(幅さん、以下同)

大人におすすめの詩集9選

大人におすすめの詩集【1】『世界はうつくしいと』長田 弘

大人におすすめの詩集1『世界はうつくしいと』
うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいということばを、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。

『世界はうつくしいと』より「世界はうつくしいと」 長田 弘

日常から人の心や真理を解き明かす、日本を代表する詩人。
「これは晩年に手がけた作品で、世の中を慈しみ、愛おしみながらフラットな視点で見つめる。読後は不思議と背すじがしゃんと伸び『こんなふうに生きられたらいいよね』と思います」(みすず書房 ¥1800)

大人におすすめの詩集【2】『美しい街』尾形亀之助

大人におすすめの詩集2『美しい街』
「ページを開くたび泡のように浮かんでは消えゆくシンプルな言葉には、作為や欲のようなものが1㎜もない。人間の無や透明さを深く追求しながらも、それでいて着眼点が面白いので妙にしみます」。能町みね子さんの書き下ろしエッセイも収録。(夏葉社 ¥1600)

大人におすすめの詩集【3】『わたしたちの猫』文月悠光

大人におすすめの詩集3『わたしたちの猫』
中原中也賞を受賞した著者が25歳の時に上梓した本。
「ひとりの人間として立っていたいという心持ちと、一方で誰かに体を預けていないと折れてしまうかもしれない女性の強さと弱さを素直に表現しながらも、凜とした風情をたたえた詩集」(幅さん、以下同) (ナナロク社 ¥1400)

大人におすすめの詩集【4】『終わりと始まり』〈著〉ヴィスワヴァ・シンボルスカ 〈訳〉沼野充義

大人におすすめの詩集4『終わりと始まり』
でもわたしは分からないし、
分からないということにつかまっている
分からないということが命綱であるかのように

『終わりと始まり』より「詩の好きな人もいる」ヴィスワヴァ・シンボルスカ 〈訳〉沼野充義

「ぜひ読んでほしいノーベル文学賞を受賞したポーランドの女性詩人の作品。ささやかな日常描写から、急に過去と未来、ミクロの世界と宇宙のような視点もある。縦横無尽な視点が素晴らしい」(未知谷 ¥1400)

大人におすすめの詩集【5】『よいひかり』三角みづ紀

大人におすすめの詩集5『よいひかり』
おすすめしてくれたのは…
ブックデザイナー・佐藤亜沙美さん
『サトウサンカイ』主宰。『文藝』(河出書房新社)のアートディレクターを務める。『生理ちゃん』(KADOKAWA)も担当

ふたりぶんの
衣類と一緒に
わたしたちを
丁寧に干した
清潔になって
並んでいたら
すべてうまくいく気がする

カバーもタイトルも著者名もない表紙は、まるで絵画のよう
「ベルリンへの旅、そこで過ごした彼との生活を淡々と、けれど甘く深くつむぐ詩集。さとうさかなさんが描く表紙は帯をはずすとタイトルもない。佇まいが美しく、部屋に飾ってあるとうれしくなります」(ナナロク社 ¥1400)

大人におすすめの詩集【6】『あたしとあなた』谷川俊太郎

大人におすすめの詩集6『あたしとあなた』
おすすめしてくれたのは…
グラフィックデザイナー・脇田あすかさん
東京藝術大学卒業後、祖父江慎さん率いる『コズフィッシュ』所属。展覧会、書籍のデザインなど幅広く活躍

あたしは
あたしが退屈だからか
何もかも
美しい

ページをめくるたびにため息が出る、肌ざわりまで美しい詩集
「さまざまな“あたしとあなた”で構成される詩集。名久井直子さんによる装丁は、“この詩集のためだけの特別な紙を作るところから始めた”とあり、言葉をどう届けるかというこだわりが感じられます」(ナナロク社 ¥2200〈税込〉)

大人におすすめの詩集【7】『愛の縫い目はここ』最果タヒ

大人におすすめの詩集7『愛の縫い目はここ』
おすすめしてくれたのは…
編集W
8年前、最果タヒさんの第2詩集に衝撃を受けてから詩集好きに。パッと見の装丁が素敵かで買うことが多いが失敗なし

永遠も一瞬もない時間軸で、
八十年を暮らす。比喩を語るたび
フィクションになる人生を、
すべて拾うよ、体のために生きる、
部屋のために掃除する、
世界のために、きみに恋をする。

“普通に生きる”私たちを、“普通に使う”言葉で肯定してくれる
「愛って怖い、でも知りたい。言葉にはできない、みんなが抱いているであろうこの曖昧な気持ち。そこを、普段私たちが当たり前のように使っている言葉でひもといてくれている。鋭くも温かい詩集です」(リトルモア ¥1200)

大人におすすめの詩集【8】『美しいからだよ』水沢なお

大人におすすめの詩集8『美しいからだよ』
教えてくれたのは…
『SPBS本店』スタッフ・村上陽子さん
“そこで作って、そこで売る”がコンセプトの書店。本店のほか『SPBS TOYOSU』、『SPBS TORANOMON』が2020年オープン

妹は妙に懲り深いところがあった
そのくせすぐあきらめたような
哀しい受容のしかたをする

研ぎ澄まされた言葉に心が浄化される、小説の要素を秘める一冊
詩界のニューヒロインによる第25回中原中也賞受賞作。「最低限の表現でつづられる物語は、少し不穏で残酷だけど美しい。言葉の意味を限定しない描き方が、無限に解釈できる表現の素晴らしさを教えてくれます」((思潮社 ¥2000)

大人におすすめの詩集【9】『どこにでもあるケーキ』三角みづ紀

大人におすすめの詩集9『どこにでもあるケーキ』
おすすめしてくれたのは…
『ナナロク社』代表・村井光男さん
少数ながら、愛とこだわりに満ちた宝石のような本を編集・出版する『ナナロク社』を運営。この本の編集も担当

髪を切っても
わたしはわたしと交代せずに
駅のホームで置き去りになる

13歳の記憶を呼び戻してつづる、鋭敏でみずみずしい詩集
著者の13歳の記憶をもとに少年少女の頃を描く詩集。「10代の世界や日々と向きあう新鮮さと切実さが描かれる。ものごとや環境をよくするだけで解決する大人の悩みは、なんて小さいんだと思えます」(ナナロク社 ¥1700)