12星座全体の運勢

「踊らにゃソンソン」

秋の気配が漂い始める「仲秋」へ入っていく直前の9月2日には、うお座で満月を迎えていきます。

初秋の風が吹くとされる9月1日から3日にかけて、富山県では毎年「おわら風の盆」という日本を代表するお祭りが催され、編み笠をかぶった人々が夜を徹して躍り続ける幻想的な光景が見られるのですが、その魅力は何と言っても、誰かに見せるためではない、純粋な自分の楽しみのための踊りである点にあります。

同様に、今回のうお座満月のテーマも「今を楽しむ」、すなわち、未来の払い戻しを夢見て無理を重ねつつ、今この瞬間のささやかな幸福を犠牲にし続けるのではなく、「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」くらいのゆるさで、あるがままに生きるモードへ入っていくことにあるのだと言えます。

そのためにも、今季はあまり大真面目になって特定の"実現すべき目標”や"あるべき理想”にはまり込んでしまうのではなく、まずは不意に流れてきた笛や太鼓の音(ね)に誘われて、フラフラと好き勝手に動いてみることから始めてみるといいでしょう。

双子座(ふたご座)

今期のふたご座のキーワードは、「狂気的ユーモア」。

乙女座のイラスト
太宰治と言えば、4回の自殺未遂と薬物中毒を繰り返した末に、愛人と入水自殺を遂げるという華麗なる経歴ばかりに目が行きがちですが、ちゃんとそんな自分を、作品を通してエンタメ化してみせるサービス精神に関してもピカ一だったのではないでしょうか。

例えば、短編作品『ヴィヨンの妻』は稀代のクズ夫とそれでも家庭をなんとか営もうとする妻の話ですが、これなどはほとんど自分に付き合わされた妻の側から描いてみせた作者の自画像と言えます。

そのクズ夫である自称詩人の大谷は、家に一切お金を入れない上に、酒飲みだわ、めったに家に帰ってこないわ、たまに帰ってきて妙に優しくなったかと思えば、行きつけの飲み屋のお金を盗んだまま失踪してしまう。

それで、たまらず家まで押しかけてきた飲み屋を営む夫婦を部屋に招いて、夫の犯した行状やこれまでの経緯を聞いていくのですが、その時の妻のリアクションがまた凄い。

またもや、わけのわからぬ可笑しさがこみ上げて来まして、私は声を挙げて笑ってしまいました。おかみさんも、顔を赤くして少し笑いました。私は笑いがなかなかとまらず、ご亭主に悪いと思いましたが、なんだか奇妙に可笑しくて、いつまでも笑いつづけて涙が出て、夫の詩の中にある「文明の果の大笑い」というのは、こんな気持の事を言っているのかしらと、ふと考えました。

その後、この奥さんは仕方なしにその飲み屋で働いて少しずつお金を返していくことになるのですが、すぐに旦那が他の行きつけのバーのママかなんかと二人連れで訪ねてきて、立て替えてもらうところを横目で見ている。

そして、そのまま彼女が飲み屋の看板娘となって働いていると、ちょくちょく旦那が飲みに来るので、一緒になった帰り道に「なぜ、はじめからこうしなかったのでしょうね。とっても私は幸福よ」と笑ってみせるのだからたまりません。

極めつけは、新聞に「にせ貴族」の「人非人(ひとでなし)」と悪口を書かれたと愚痴る旦那に対して、奥さんが次のように言う作品最後のシーンでしょう。

人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ

この時の、旦那の呆気にとられた顔が目に浮かぶようですが、今期のふたご座もまた、どうしようもない社会の現実に黙って従うのではなく、むしろアッと言わせるためにも、願わくば、この奥さんくらいの狂気とユーモアが絶妙にバランスした境地を目指していきたいところです。


参考:太宰治「ヴィヨンの妻」(新潮文庫)
12星座占い<8/23~9/5>まとめはこちら
<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ