12星座全体の運勢

「白紙にかえす」

「暑さ寒さも彼岸まで」の秋分直前の9月17日に、おとめ座で新月を迎えていきます。

夏のにぎわいが遠のき、秋らしくなるにつれ、次第に風が透き通っていくように感じられてくる頃合いですが、そうした時に吹く風を昔から「色なき風」と呼んできました。

中国から伝わった五行説によると、秋の色は白。日本人は、その白を、「色無き」と言い換えた訳です。本来は華やかさがないという意味でしたが、言い換えられていくうちに、しみわたるような寂寥感を言い表すようになっていったのだそうです。

そして、今回のおとめ座新月のテーマは「初心に返る」。能の大成者である世阿弥の「初心忘るべからず」という言葉と共に知られる「初心」は、普通に考えられているような“最初の志”のことではなく、自分が未熟であった頃の“最初の試練や失敗”の意ですが、これは試練に圧倒されたり、失敗の前に膝をついたりしたことのない者には、本当の成功はいつまでもやってこないのだということを指します。

そうした失敗や挫折を不当だとか、相手や世間が悪いと思い込むのではなくて、そこから人間としての完成に近づくための新たな挑戦が始まるのだと気付くこともまた「初心」なのです。人生には幾つもの初心がある。そんなことに思い至ることができた時には、きっと心のなかをとびきりの「色なき風」が吹き抜けていくはず。

牡牛座(おうし座)

今期のおうし座のキーワードは、「明日の頭を創る」。

牡牛座のイラスト
数学は論理的な学問だけれど、研究をすすめる上では「情緒」こそが大切である。そう説いたのは、歴史に残る世界的な数学者として文化勲章を受章した岡潔。そのエッセイ集『春宵十話』では、稀代の数学者の頭の中がどうなっているのかを、チラリとのぞくことができます。

例えば彼は学習のイメージについて「乾いた苔が水を吸うように学問を受け入れるのがよい頭といえる」と述べた上で、「いま、たくましさはわかっても、人の心のかなしみがわかる青年がどれだけあるだろうか」と問いかけ、「人の心を知らなければ、物事をやる場合、緻密さがなく粗雑になる。粗雑というのは対象をちっとも見ないで観念的にものをいっているだけということ」と書きつつ、話をいよいよ情緒へと移していきます。

頭で学問をするものだという一般の観念に対して、私は本当は情緒が中心になっているといいたい」、「単に情操教育が大切だとかいったことではなく、きょうの情緒があすの頭を作るという意味で大切になる。(中略)学問はアビリティーとか小手先とかでできるものではないこともわかるだろう。

そういう著者自身は、数学をやって何になるのかなどとは一切考えず、「数学を学ぶ喜びを食べて生きている」と豪語しています。確かに本書を読んでいると岡潔にとっての「今日の情緒」には、いつだって学ぶ喜びと自然の風土への驚きがあったのだということがよく伝わってくるはず。

そして今期のおうし座もまた、ビジネスであれ学習においてであれ「明日の頭を創る」ために、何よりもまず「今日の情緒」を豊かにすることを最優先にして日々を送る、これこそがテーマとなっていくでしょう。

その際、「対象への細かい心くばりがない」ということは、「いっさいのものが欠けることにほかならない」、つまり“心無い”といった著書の言葉もぜひ念頭に置いておきたい。


参考:岡潔「春宵十話」(光文社文庫)
12星座占い<9/6~9/19>まとめはこちら
<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ