12星座全体の運勢

「風の便りを受け取って」 

2月19日には節気も「雨水」に変わり、雪や氷が溶けていよいよ春に向けて草木も芽吹き始めますが、そんな折の2月27日にはおとめ座で満月を迎えていきます。 

今回の満月は、2月18日に体制と制約の土星と激しくぶつかり合った変革と解放の天王星と歩調を合わせつつ、後者の影響力を一気に押し広げていくような配置となっていますが、そのテーマを端的に表すとすれば「癖や偏りの昇華」となるでしょう。 

つまり、無理にエネルギーを集中させて単発的に興奮していくというのではなく、みずからの身体の要求を素直に聞いて、瞬間瞬間の生命の流れにうまく乗っていくなかで、ふつふつと静かな快感が湧いてきて、ごく自然に発散が起きてくるというイメージです。 

ちょうどヒヤシンスの花が開いていく時期でもありますが、幕末に伝わったこの花には「風信子」という漢字が当てられています。「風信」は風の便りという意味も持っており、風に漂うほのかな香りがそっと春の便りを届けてくれますが、今期はそうした微細な変化の流れにきちんと身をもって反応・順応していけるかどうかが、各自においていつも以上に問われていくのではないでしょうか。 

山羊座(やぎ座)

今期のやぎ座のキーワードは、「未知の記憶」

山羊座のイラスト
自身の口で「一種の文学的絶縁とニヒリズム」と語った孤高の文学者・稲垣足穂の処女作にして代表作である『一千一秒物語』というショートショート集は、どれも「人間的な温かさは全然感じられず、あらゆるものは無機物のレトルトによる金属性血液を注入されて自由自在に飛び回って」いるのですが、まずはそのうちの一つでも読んでみてください。 
 
以下は、「月をあげる人」という短いお話です。 
 
ある夜おそく公園のベンチにもたれていると うしろの木立に人声がした 
「おくれたね」 
「大いそぎでやろう」 
カラカラと滑車の音がして 東から赤い月が昇り出した 
「OK!」 
そこで月は止まった それから歯車のゆるゆるかみ合う音がして 月もゆっくり動きはじめた 自分は木立のほうへとんで出たが 白い砂利道の上には只の月の光が落ちて きこえるものは樅の梢をそよがす夜風の音ばかりだった」 
 
それは実際に起きた出来事ではないにも関わらず、なんだかまるで記憶が知覚に追いつくように、じわじわと宇宙的郷愁を伴って何かがじつに懐かしく思い出されてくるはず。 
 
そして、もしいま窓の外に、まん丸の月が鼻唄でも歌っているように、ぶらりんぶらりんと揺れているのなら、歯車にガタが来てしまっているのかも知れません。 
 
今期のやぎ座は、そんな“模型細工”としての月を吊りあげる滑車の修理に取りかかる大道具さんのごとく、自身なりの小宇宙を形成し直していくといいでしょう。  


参考:稲垣足穂『一千一秒物語』(新潮文庫) 
12星座占い<2/21~3/6>まとめはこちら
<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ