12星座全体の運勢

「土壇場で人を救うもの」 

5月5日に「立夏」を過ぎると、野に煙る緑にまぶしい日差しと、初夏らしく気持ちのいい気候が続きます。昔は梅雨の晴れ間を指した「五月晴れ」も、今やすっかりこの時期特有のさわやかな晴天を指すようになりましたが、そんな中、5月12日にはおうし座21度(数え度数22度)で新月を迎えていきます。 

今回の新月はテーマは「(自分だけでなく周囲の)バイブレーションのレベルを上げていくこと」。古来より、飢饉の影響で出る死者は実は春から夏にかけてがピークだったと言われてきましたが、西郷信綱の『古代人と夢』によれば、疫病や飢餓などで人々がみな死に絶えてしまうような事態に陥ると、天皇は「神床(カムドコ)」に寝て夢のお告げを得ることで、やがて疫病はおさまり国家安平になったという逸話が伝えられているそうです。 

これはつまり、人間にとって本当の意味での危機的な状況とは、物質的な欠乏に加え霊的目標の飢餓に陥った状況を指し、逆にそれに飢えている人びとと霊的滋養―導きとなるようなイメージやビジョン等を分かちあうことができれば、乗り切ることも可能となるということではないでしょうか。 

四季にはそれぞれの到来を知らせる風があり、春ならば東風(こち)、冬は木枯らしと決まっていて、夏といえば「風薫る」。すなわち、青葉若葉を吹き抜けて、さあっと吹いて新緑の香りを運んでくる強めの南風がそれにあたりますが、同時にそれは、生きるか死ぬかという人間の土壇場で人を生かしてくれる“いのちの手触り”のようなものでもあったように思います。 

12日のおうし座新月前後までの今期は、そうした生きるか死ぬかの土壇場を乗り切っていく上で、自分なりの美学をいかに持てるかどうか、貫いていけるか否か、ということが問われていくでしょう。 

獅子座(しし座)

今期のしし座のキーワードは、「底の浅さを照らし切る」。

獅子座のイラスト
一見するともっともらしいことが言えたり、妙に魅力があったりする人間が今ほどチヤホヤされる時代もないのではないかと、SNSなどを見ているとついつい考えてしまいがちですが、徹底的に薄っぺらくきな臭い人物を描かせたら天下一品の文豪ドストエフスキーの作品を手に取ると、いつもそんな考えが一瞬で霧消してしまうのですから不思議です。 
 
例えば大作『悪霊』には、ロシアの大地の感覚から切り離され、生命に対する感性もなく、底の浅い考えではしゃぎまわる者たちが、とても覚えきれない数で登場してくるのですが、その中でもひと際味わい深い人物に、小心者の自由主義者ステパン氏がいます。 
 
彼は主人公でどこか『ちびまる子ちゃん』の花輪君を連想させる貴族の御曹司スタヴローキンの母親ワルワーラ夫人に寄生し、53歳にもなっていまだに家付き家庭教師として糊口を凌いでいる人物で、会話の端々にフランス語を交えるのが特徴。 
 
生活感覚がなく、しゃべる言葉にはリアリティが欠けており、息子にも軽蔑されきっているのですが、二十年の寄生生活にみずからピリオドを打とうと、旅に出る覚悟を固めた旨をワルワーラ夫人に告げるものの、夫人はまったく取り合いません。その際の夫人の言葉を引用してみましょう。 
 
わたしにわかっているのは一つだけ、これがみんな子供じみた空騒ぎだということですわ。あなたはどこへも行きやしませんよ、どんな商人のところへも。あなたはね、わたしから年金を受取って、火曜日にはあの得体の知れないお友だちを家に集めながら、結局はわたしの腕に抱かれて安らかに息を引き取ることになるんです。」 
 
強い、強すぎる。しかしこの強すぎるマザーであるワルワーラ夫人を絶対的な光源として、並みいる男たちのみじめさ底の浅さをどこまでも描き切っていくことこそがこの小説の真骨頂なのです。 
 
今期のしし座もまた、自身が照らされる側に回るにしろ照らす側を担うにせよ、人間の醜悪さと徹底的に切り結んでいくなかで、一度徹底的な救いのなさに沈んでみるといいでしょう。 


参考:ドストエフスキー、江川卓訳『悪霊』(新潮文庫) 
12星座占い<5/2~5/15>まとめはこちら
<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ