12星座全体の運勢

「早乙女のエロばなしのごとく」

6月5日に二十四節気で「芒種」に移ると、いよいよ田植えの時期。田園地帯の水面には空や木立や山が映り、光が踊っていきますが、そんな中、6月10日には双子座19度(数えで20度)で新月を迎えていきます。 

今回の新月のテーマは「自分が周囲へ与える影響の再確認」。すなわち、一通りさまざまな影響を受けとって、特定のことに感動しなくなってきたことで、かえって冷静に、じゃあどんな自分はどんな影響を周囲に与えていきたいのかを改めて考えていく。そういう動きをしていくには絶好のタイミングとなっていくように思います。 

例えば、民俗学者の宮本常一によれば、昔は田植え時には女たちがエロばなしに花を咲かせたり、セックスのうたを歌っていたそうで、「その話の中心となるのは大てい元気のよい四十前後の女で」「若い女たちにはいささかきつすぎるようだが話そのものは健康で」あったこと。また、「エロ話の上手な女の多くが愛夫家で」「女たちのエロばなしの明るい世界は女たちが幸福である事を意味して」いたそうで、今日では田植えも人の手から機械に任され、すっかりそんな光景も消えてしまいましたが、日々の労働をやわらげ、元気に過ごしていくための材料のニーズそのものは今も昔もそう変わらないはず。 

つまり、何かしらの不満に対しただ声をあげたり、孤立した個の力で対抗して終わってしまうのではなくて、かつての「元気のよい」早乙女たちのように、周囲を巻き込み、集合の力を効果的に使うこと、そのためにどんなタイミングでいかなる呼びかけをしていくべきかが、今回のふたご座新月を通して問われいくのではないでしょうか。 

あるいは、自分の考えや提案が、どれくらい他者の共感や支援を受けられるものなのかを確かめ、誰にどんな仕方で提示していくかを判断していくこともテーマになっているのだと言えます。 
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蠍座(さそり座)

今期のさそり座のキーワードは、「食べ物の話と艶話(つやばなし)」。

蠍座のイラスト
度重なる緊急事態宣言に加え、オリンピック中止/強行時の経済損失の試算結果が出回るなど、いよいよ社会全体に生きるか死ぬかの分水嶺に近づきつつある緊張感がますます高まってきている昨今ですが、こうした極限状態において、どんな言葉をかけ、いかなる話をするべきかということを考えていく上で、かつての戦争体験やその肉声ほど参考になるものはないのではないでしょうか。 
 
例えば、長年にわたり口承文芸の実感・実証的研究に携わってきた野村敬子の『語りの廻廊―「聴き耳」の五十年』の「ますらたけおの昔話―ジャングルの語り手 新田小太郎さん」の章には、ニューギニアでの戦争体験として次のような話が紹介されています。 
 
行軍の途中で食い物がなくて餓死する。最期の言葉が「もうだめだから料理ってくれ」というのだそうです。それが遺言です。死んで自分たちの身体を腐らせてしまうよりはみなさんの血とか肉とかになって内地に一緒に帰りたいという願いがこめられてのそういうことなんです。それほど大変な飢餓行軍だったのです。(中略)健康な人を見ると「うまそうだ」っていう声も聞こえるほどでした。」 
 
また、この新田さんという方は、ニューギニアの戦場で病気やケガで動けなくなった兵士たちを看病し、その死を看取っていく際、よく昔話を語ったのだそうです。空腹にあえぎ、マラリアに倒れた兵士たちは、食べ物にまつわる昔話を好み、彼らは「飢えと恐怖を封じる手段に、話に花を咲かせ、その幻に酔い、気力を奮い立たせ」ていたのであり、なにか語り続けなければ、目の前に横たわるいのちまでもが消えてしまうと、次々にまぼろしを語っては、兵士たちにそれを食べさせていったのだと。 
 
むろん、食べることは交わることと直結しますから、食べ物の話がにわかに艶話(男女の色事に関する話)になり、エロばなしの中に食事の比喩や擬音語が入り込んでは、おかしみと残酷がないまぜとなっていくような話が、特に好まれたのだそうです。 
 
今期のさそり座もまた、自分や他者が食い/食われ、その血や骨までなめ尽くされていく。そんな生きる力をよみがえらせるような話を、自分なりの裁量で「料理って」みるといいでしょう。 


参考:野村敬子『語りの廻廊―「聴き耳」の五十年』(瑞木書房) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ