12星座全体の運勢

「地を這う蟻のように」

9月7日に二十四節気が「白露」に変わると、いよいよ体感的にも秋をよりはっきりと感じるようになり、夜長の季節に入って物思いにふける時間も長くなっていくはず。そして、同じ9月7日におとめ座の14度(数えで15度)で新月を迎えます。 

そして今回の新月のテーマは、「プライドの置きどころ」。プライドというと、どうしてもこじらせたプライドを守るために社会や他人との関わりを切り捨てたり、過剰防衛の裏返しとしての攻撃性を他者や社会に向けたりといったネガティブなイメージを抱いてしまいますが、とはいえプライドがまったくないというのは誇りに感じているものが何もないということであり、それはみずからの未熟さを改めたり、向上に努めたり、洗練を心がけるつもりがないということに他ならないでしょう。 

個人であれ集団であれ、それなりの歴史を重ねていたり、独自の文化のあるところには必ずプライドは生まれるのであって、それは決してなくしたり、馬鹿にしていいものではないはずです。はじめから守りに入って役立たずになるのはつまらないけれど、いくら実力があったとしても、何のプライドも持たず、誰とも何とも繋がらず、どこからも切り離されて生きることほどつまらないこともありません。 

新月の時期というのは、種まきにもよく喩えられるのですが、それは新たにこの世界に自分を割り込ませていくということであり、多かれ少なかれ何かにトライしたみたくなるもの。 

川端茅舎という俳人に、ちょうど白露の時期に詠んだ「露の玉蟻(あり)たぢたぢになりにけり」という句がありますが、できれば今期の私たちもまた、誰か何かにくじけてひるむことがあったとしても、プライドそのものを捨てることなく、地を這う蟻のように足を前に出していきたいところです。 
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牡牛座(おうし座)

今期のおうし座のキーワードは、「ただ一人」。

牡牛座のイラスト
日本の大正期というのは、明治期以上に西洋型の近代社会が急激に浸透していった時代でしたが、それはそれまでの日本文化にプライドを持っていた人たち、特に知的エリート層にとって、自我の崩壊を伴うような暗い歪みを受け止めていかざるを得ないという、鋭い緊張感と隣りあわせの時代だったという点で、どこか令和の今にも通じるものがあるように思います。 
 
例えば、「咳をしても一人」など、自由律俳句で知られる尾崎放哉は、もともと東京帝国大学法学部を卒業し、保険会社の支店次長等を務めたエリートでしたが、権謀術数の渦巻く職場になじめず、深酒を繰り返すようになって辞職し、再就職先でも泥酔で問題を起こして辞め、満州で事業を起こすも病気にかかって帰国。その後は妻とも別れて全国を転々とし、最後は瀬戸内海に浮かぶ小豆島にて、41歳の若さで病没しました。 
 
先の句を詠んだときには、すでに病身であり、苦しく生死の境をさまようような咳であったはずですが、ここでテーマになっているのは単なる孤独感ではありません。近現代の俳句研究者である青木亮人さんの解釈を引用してみましょう。 
 
「一人」なのはもはや自然で、主張することでもなく、そんな自分に改めて驚いてみせた感じがある。咳をしてもしなくても「一人」で居続ける自分が切なくも可笑しく、どこか抜けているような、今さら「一人」と感傷的になるのがずれているような、それでいて自分を慰めているようで、やはり誰かに構ってほしい甘えや淋しさもあり……従来の「層雲」は洗練された抒情や感傷を旨としましたが、放哉句は乾いた自己凝視で陰翳を帯びたユーモアを漂わせており、極端な短詩も異質でした。」 
 
孤独感というのはあくまで余韻であって、掲句ではその前に「ただ一人」在ることの響きとしての咳があり、それは虚空のなかに確かに自分が存在するという強い実感があったのでしょう。つまり、「ただ一人」であるがゆえに孤独に耐えることができたのです。傲慢奇矯な性格で、トラブルも多かった放哉ですが、掲句には晩年に到達した彼のプライドの置きどころとともに、「ただ一人」であったがゆえににじみ出た他者への目立たない優しさもまた感じられるのではないでしょうか。 
 
今期のおうし座もまた、「乾いた自己凝視」とともに、自分自身のこの世界への置きどころを改めて探ってみることで、案外そこから自分なりのユーモアが生まれてくるかも知れません。 
 
 
参考:青木亮人『NHKカルチャーラジオ 文学の世界 俳句の変革者たち―正岡子規から俳句甲子園まで (NHKシリーズ)』(NHK出版) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ