12星座全体の運勢

「社会的秩序の相対化」 

いよいよ春もたけなわに入り、花々が咲いては散ってゆき、それを「惜しむ」思いが深まっていく頃合いに変わってきました。そんな中、「春分」から「清明」へと節気が移ろう直前の4月1日に、おひつじ座11度(数えで12度)で新月を迎えていきます。 

今回の新月のテーマは、「天の采配への同期」。すなわち、ふだん地上を這うように生きている自分の選択や振る舞いのひとつひとつが、みずからの意思や社会の空気によってのみ決定されているのではなく、それらを超えたところで働いている宇宙的な原理によって突き動かされているのだという実感を改めて深めていくこと。 

例えば、春になってあたたかくなってくれば冬鳥の雁は北へ帰っていきます。かつてはその姿が日本のどこでも見られ、子供たちは「棹になれ、鉤になれ(まっすぐに連なれ、鉤形に並べ)」とはやしたてたそうですが、そうして新たな季節の訪れを知らせてくれる渡り鳥が道に迷うことなく、何千キロもの長距離を移動し、それを毎年繰り返すように、私たち人間もまた、食事や睡眠などのごく身近なレベルの日常的行動から、経済活動や軍事侵攻などの集団的行動まで、日々何らかのかたちで、地球の磁気や気候の変動などの惑星規模の影響力によって左右されているのです。 

ここのところ、従うべき法と秩序とは何か、ということが人間中心的なものへ寄り過ぎていましたから、今回の新月では、いかにそうした社会的な通念や常識を相対化し、宇宙的サイクルや天の采配に同期して、自然体へと還っていけるかということが、各自の状況に応じて問われていくことでしょう。 
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蟹座(かに座)

今期のかに座のキーワードは、「通過儀礼」。

蟹座のイラスト
ここのところウクライナ情勢に関するニュースをひとしきり見聞きして、国家というものが、つくづくその本質を暴力に根ざしているものなのだとういうことを改めて痛感させられた人も少なくないでしょう。 
 
かつてマックス・ウェーバーが「国家とは、正当な物理的暴力行使の独占を要求する人間共同体である」と定義したように、暴力による暴力の取締りによって国家は成り立っており、そうした構造は国家を構成する大小の共同体にも通底していますが、そうした共同体を暴力とは異なる仕方で支えてきたもう一つの根源的な力こそが宗教でした。 
 
例えば、日本の山岳宗教である修験道の開祖とされる7世紀後半の修行者・役小角(えんのおづぬ)は、昔ながらの共同体からたまたま離れてしまったのではなく、みずからの意思で共同体を捨てて山林に「亡命」した訳ですが、彼はその後の修行者の原型となって、その修行の範型は古代人たちのあいだで成人式となって伝わり、普遍化していきました。つまり、子供として死に大人として再生するためのいわゆる通過儀礼です。 
 
古代文学を専門とする西郷信綱は、『神話と国家』に収録された「役小角考」において、そうした通過儀礼の果たした共同体への役割について、次のように述べています。 
 
試練を終えた若者たちは村にもどり、ふたたび共同体の生活のなかに統合されてゆく。共同体をもっぱら静止的なものと考えるのは、正しくない。共同体も単に“ある”のではなく、やはり絶えず生成し、“なる”のであって、恒常性と変化との相互関係が過程としてそこにも生きていた。」 
 
また、役小角は山中の洞窟に居たとされますが、西郷はそれも比喩的には母の胎であり、隔離の生活を典型化したものであると解釈した上で、共同体が内部で硬直していくのを防ぐために不可欠な新陳代謝を促す宗教的な原理の象徴として役小角を捉えたのです。 
 
山中に隔離しきびしい試練を課する成年式の伝統形式は、大陸伝来の道教や密教の芳烈な影響を浴びるなかで、いわば永遠化され、山上の行者という新たな宗教者を生みだすに至った、といっていいのではなかろうか。成年式における隔絶の生活は、共同体の裂目である。その裂目に大陸伝来の教義が突入し、否定的な一つの飛躍は成就される。共同体との臍の緒が切れ、それからはみ出し、対立しさえするカリスマ的人格がこうして、村々を見おろす山中の孤独のなかで生誕する。それが役行者にほかならないと思う。」 
 
4月1日にかに座から数えて「集団原理との同期」を意味する10番目のおひつじ座で新月を迎えていく今期のあなたもまた、そうした宗教的な儀礼や祭式をみずからの生活に改めて取り込んでみるといいでしょう。 
 
 
参考:西郷信綱『神話と国家』(平凡社選書)
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<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ