東 啓介連載「tone0714」vol.14

『ザ・ビューティフル・ゲーム』の、表と裏のエピソードを披露

ミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』の大阪公演も無事完走した東啓介さん。
この作品は、1969年のイギリス領北アイルランドの首都ベルファストでプロサッカー選手を目指して練習に励むジョンとトーマス、その仲間たちの人生を描いた青春群像劇。この中で東さんは、政治的・宗教的な武力闘争の最前線へと身を投じるトーマスを演じ切りました。
今回は、『ザ・ビューティフル・ゲーム』をあらためて振り返っていただき、舞台の表と裏のエピソードを語ってもらいました。

東啓介
「tone0714」の意味:東さんの愛称「とん」と、“音色”や“濃淡”を意味する「tone」を掛け、そこに誕生日7月14日の数字を組み合わせたタイトル。

ひとそれぞれの “正義”

――舞台、本当にお疲れさまでした。この作品は、プロサッカー選手への成長と友情がメインの物語かなと思っていたんですが、政治や宗教などの違いで街や人が分断されてしまう内容で、とても考えさせられるストーリーでした。役作りが大変だったのでは?

:ひと言では言い表しづらいテーマの作品でしたので、簡単ではなかったです。
登場人物たちは、最初はサッカーでつながっているんですが、戦争や宗教、自分の信念や選択などによって、それぞれの運命が変わっていく。
その中で僕が演じたトーマスは、彼が過ごしてきた環境の中で培った「正義」を貫き通した人物。周りから見れば、彼は、すぐ武力に訴えるすごく「嫌なヤツ」だったり「悪者」と思われるタイプかもしれません。ただ、僕から見れば、それはトーマスなりの正義を貫き通した結果が、そう見えているだけで。そんなふうに「トーマスが何を感じて、どう思ったのか」ということに意識を集中していました。


――宗教や思想の違いによる抗争を身近に想像することは簡単ではないと思います。ましてや、それが原因で家族や仲間を失うとなると……。

:はい。だから、ちゃんと勉強しておかないといけないと思って、早い段階で演出家の藤田俊太郎さん(2014年版の『ザ・ビューティフル・ゲーム』演出を担当)から前情報的なものを伺いました。もちろんそれだけでは足りないので、稽古中にアイルランド研究をしている早稲田大学の教授に、舞台の歴史的背景にまつわる講義もしていただきました。そこではじめて、「トーマスは自分が正しいと思ったことを突き進んできた人なんだ」と、解釈できるようになったと思います。
ただお客さんからしたら、カトリックやプロテスタントといった宗教の話から、そもそもの文化的な違いまで、話自体に難しさも感じてしまう部分はあると思うので、僕はお芝居から何を感じるかは客席の皆さんにお任せして、トーマスの「彼なりの正しさ」に重きを置いて役作りをしました。
あとは、物語の途中で時間が少しずつ飛んだりするのですが、その間の物語の背景や「5年経ちました」的な時間の経過を説明するギミックは今回なかったので、時間経過を出演者の演技で伝えなければいけなかったことは、ちょっと大変だったかもしれません。僕らも稽古中、「ここで5年経っているのか」と確認したりしたけれど、それこそ役者の演技で見せなきゃいけない部分だったので。

東 啓介

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はちみつと栄養ドリンクと“のんちゃん”

――劇中ではサッカー選手の役でしたが、サッカーのご経験は?

:ない(笑)。子供の頃、兄につきあわされてた程度です。ただ、今回、出演者やスタッフにサッカー経験者が多かったんです。しかも、稽古期間がワールドカップ開催と重なっていたので、「このサッカー選手は、すごく有名なの?」とか、いろんな人に教えてもらってました。どこが強くて、誰が有名でといったことをちゃんと勉強させてもらったので、2022年のワールドカップはめっちゃ面白かったっす! でも、サッカー経験者同士のプレーについての会話には全然ついていけなかった。「そうなんだ。いいね!」と、うなずいてばかりでした(笑)。同世代や年下の共演者が多かったので、現場では「へぇ、いいね、楽しそうじゃん」みたいな感じで話してたかな。今思うと、結束力というか、距離が縮まるのは早かった気がします。
主演の小瀧(望)くんも場をすごくあっためてくれましたね。毎回、開演5分前に、みんなで円陣を組むんですけど、(客席に)聞こえちゃうから、小声で「みんなー、あと10公演……らしいでー。やったろかー!」って。しかも、小瀧くんは毎回ちょっと変えてくる。「何しゃべっていいかわからんけどー、今日も頑張ろかー」とか(笑)。格言を言うとかじゃなくて、自然体。それがいいんです。円陣の時間、僕、めっちゃ好きだったんですよね。関西弁って、すごく心あったまるから。

――楽屋の様子はどんな感じでした?

:今回は、全員ひとり楽屋だったので寂しかったな……。することないんで、マチソワ(マチネ&ソワレ)の間はガッツリ寝てました。『ジャージー・ボーイズ』の時は、ほかの出演者の楽屋へ遊びに行ったけど、今回は久しぶりにシングルキャストで昼夜通しで舞台に出るから、よその楽屋に行く感じでもなくて。正直、今回の第2幕は精神的にかなりのエネルギーを使うんで、それを終えたら「次の公演に備えます」モードに入っちゃいました。誰かと同じ部屋だったら、しゃべったりするんだけど。かといって、わざわざリモートで会話するほどの距離でもないし(笑)。

――ごはんもおひとりで?

:(無言でうなずく)。今回もお弁当を自分で作って……おじや3段弁当です。

――おじや!? 斬新です!!  

:東京公演の最初のほうは、のどの調子があまりよくなかったので、のどに優しいものをと考えた結果、それになりました。食欲はあるから3段。全部、卵のおじやです。めちゃくちゃおいしくてのどにも優しい感じ! 
そういえば、そのタイミングで、小瀧くんが「これで元気出してね!」って、栄養ドリンクをくれたんですよ。炭酸だったんで、本調子になったら飲もうと楽屋に置いていたら、翌日、小瀧くんが「啓介、余ったからあげる」と楽屋にはちみつまで持ってきてくれました。「いいコだな~」と思ったあとで、「あれ、今“余った”って言った? 絶対嘘じゃん、わざわざ持ってきてくれたんじゃん!」と気づいて、その優しさにひとり楽屋で悶えていました(笑)。ちなみに、僕は彼のことを「のんちゃん」って呼んでます。

東 啓介

異なる意見に寄り添うこと

――トーマスは、自分の「正義」を貫き通した人物ですよね。でも、たとえば『MORE』でタレントさんへの相談事を読者から募集すると、「周りの目を気にして、自分を見失いそう」といったお悩みが数多く寄せられたりします。東さんはどう考えますか?

:トーマスを演じて、世界には、“それぞれの愛”というより“それぞれの正義”があるんだなと思いました。ジョンの正義があって、トーマスの正義がある。
その考え方は、今の僕らの生活と繋がっている。それぞれの普通、それぞれの常識、それぞれの考え方があるから。だから、周りの目を気にして「自分だけがそういう風に感じちゃってるだけかな?」みたいに自己完結をしないで、自分を客観的に見つめてみるのもアリだと思います。そうすれば、たとえば自分と仲のいい人のことを誰かが「あの人のこと嫌いなんだよね」と否定的に言ったとしても、「自分は大好きだから別にいいや」と思えるから、自分を見失うことはない気がする。
都合の悪いことを見て見ぬふりをしたり、立場や意見が違うだけで「いらない」「合わない」「関係ない」と拒絶するだけの場面に出くわすことが増えた気がします。そのたびに、「もっと寄り添ってみればいいのに」と、僕は思う。なぜ拒絶が増えたのか考えてみたんですが……、“普段どおりの明日が、ある程度約束されているからじゃないか”と。僕らはトーマスたちのように、明日死ぬかもしれないという状況じゃない。そこまで必死にならなくてもごはんは食べられるし、ゲームもできるし。直接的にもSNSなどを通じても、友達や恋人に会える。だから、自分と違う何かに「寄り添う」っていう感情が薄れちゃったのかなって。


――確かに「寄り添う」という感情は、人が人とつながる上で必要不可欠な感情ですよね。最後に、東さんにとっての、人生における「正義」を教えてください。

:「自分に誠実であること」、かな。セコかったり、みみっちい人間は嫌い(笑)! 相手の言葉に流されたくないから、つらいとか悲しいと思ったことを避けないし、間違いを間違いと正してくれる言葉もちゃんと聞く。誰かの意見が、僕と違うものだったとしても、それを理由に拒絶することはないかな。そんな考えを、僕は大事にしています。

東 啓介

プロフィール

ひがし・けいすけ ●1995年7月14日生まれ。東京都出身。2013年、『テニスの王子様』(2ndシーズン)で俳優デビュー。その後はミュージカル作品を中心に活躍し、『ダンス オブ ヴァンパイア』(2019年)では帝国劇場の舞台にも立ち、近年では『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』や『マタ・ハリ』(ともに2021年)などに出演。2022年は、TBSドラマ『ファイトソング』、フジテレビドラマ『ナンバMG5』、テレビ東京ドラマ『チェイサーゲーム』など、映像作品にも多数出演。
2023年3月19日、LINE CUBE SHIBUYAで開催されるライブイベント『加藤和樹のミュージックバー「エンタス」』にゲスト出演。4月2日には、4月10日から休館するシアターコクーンのグランドフィナーレを飾るイベント“大人の歌謡祭”『COCOON PRODUCTION 2023 「シブヤデマタアイマショウ」』に日替わりゲストとして出演。また、4月14日からは、舞台『二次会のひとたち』に出演。

■ライブイベント『加藤和樹のミュージックバー「エンタス」』公式ホームページ
https://entasu-onstage.com/
■松尾スズキ総合演出『COCOON PRODUCTION 2023 「シブヤデマタアイマショウ」』公式ホームページ
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_shibuyade2023.html
出演予定日時:4月2日(日)16:00
■舞台『二次会のひとたち』公式ホームページ
https://nijikai-stage.com/

東 啓介:公式サイト&公式SNS

■公式サイト https://www.watanabepro.co.jp/mypage/10000062/
■公式Twitter @keisuke_higashi
■公式Instagram @keisuke_higashi_official

取材・文/中川  薫 撮影/岩澤高雄(ザ・ボイス マネージメント) ヘア&メイク/甲斐美穂(ROI) スタイリスト/青木紀一郎

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