12星座全体の運勢

「一石を投じる」

暦の上で冬に入る「立冬」直前の11月5日、いよいよ紅葉も深まって、冬支度を急いでいくなか、さそり座の12度(数えで13度)で新月を形成していきます。 

「危機と変革」を司る天王星へと思いっきり飛び込んでいく形で迎える今回の新月のテーマは、「リスクを引き受ける力」。 

それはすなわち、普通に日常生活を送っている分にはまず見つからないような可能性を徹底的に追求し、そのために必要な材料をかき集め、まだ誰も試みていないことに手を出してみる勇気であったり、たとえそれがその界隈のタブーを破る行為であったり、厄介な相手に睨まれることになったとしても、ある種の「賭け」に出ていく姿勢に他なりません。 

私たちの心の深層に潜んでいる集合的な変革衝動というのは、社会や現実の屋台骨を担う恒常性(ホメオスタシス)を維持したいという欲求にかならず切断・阻止・妨害される運命にある訳ですが、その意味で今期はこうした葛藤や対立に伴う緊張をヒリヒリと感じつつも、ひょんなことから「不満を大きく」したり、「自分を黙らせておけなくなって」、「もっとよりよくなるはず」という誘惑がどうにもできないほどに強烈なものなっていきやすいのだと言えるでしょう。 

ギリシャ神話では、トロイア戦争に参加した女神エリスが「戦いの兆し」を持って軍船の上に立って雄叫びを上げると、兵士たちは闘争心と不屈の気力が湧き、戦いを好むようになったとされていますが、今期の私たちもまた、そうしたこれまでの膠着状態を破るための「一石を投じる」行動や企てが促されていくはずです。 
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双子座(ふたご座)

今期のふたご座のキーワードは、「ラスコーリニコフ的生活」 

ふたご座のイラスト
ドストエフスキーの『罪と罰』の主人公で、頭は回るが仕事がないラスコーリニコフは、亀が甲羅の中に入り込むように穴ぐらのような部屋に引きこもって、散らかった室内でろくに片付けもせず、ひたすらごろごろ寝そべってして過ごしています。 
 
こうした不潔な生活スタイルや、むやみやたらに他人にムカついている態度などは、村上春樹の小説に登場するどこか“のっぺり”とした主人公にはありえないことですが、教育学者の斎藤孝は、『ドストエフトキーの人間力』においてこうした「精神の内圧」の高さや、「過剰さ」こそがドストエフスキーの小説に出てくる人物の特徴であり、爆発的な祝祭性を生み出す原動力となっていくのだと述べています。 
 
ラスコーリニコフはただ引きこもっているだけでなく、不意に街をうろつきます。普通はそうした散歩で鬱屈した気分も少しは緩和されるはずなのですが、斎藤はその点についても次のように描写しています。 
 
とくに行き場所があるわけではない。どこかへ行こうと思って出たとしてもすぐにそれがどこかを忘れてしまう。「<ところでおれはどこへ行こうとしているのか?>」と不意に考え込んだりする。歩きながら独り言を声に出して言ったりして、道行く人をびっくりさせる。独り言を言いながらせかせかと歩き回る人は、不気味なエネルギーを発している。ただ元気がないのならば大した危険はないのだが、自分の内部にこもっているのに、独り言を言いながらうろつきまわる行動的なタイプは危険な香りを発散している。」 
 
そうしてラスコーリニコフは実際に、金貸しの老婆殺しというとんでもない一件を引きおこす訳ですが、それは彼のこころが冷え切っていたからでも、心神喪失状態にあったためでもなく、不意に彼を孤独の感情が襲い、ドストエフスキー自身による説明によれば「彼の内部には何かしら彼のまったく知らない、新しい、思いがけぬ、これまで一度もなかったものが生まれかけていた」のであり、「彼はそれを理解したわけではなかったが、はっきりと感じていた。感覚のすべての力ではっきりとつかみとっていた」というのです。 
 
こうしたからだの奥底にまで届いてしまう「感覚」に、理屈とかではなく、いかに直接的に触れていくことができるか、ということが今期のふたご座にとっても重要なテーマとなっていくでしょう。 
 
 
参考:斎藤孝、『ドストエフトキーの人間力』(新潮文庫) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ