1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。

そして多様性社会を生きる今、「モア・リポート」と並行して性別を問わずジェンダーレスに20・30代の体験談を取材し、彼らの恋愛やセックスの本音に迫る「モア・ボイス」の連載をお届けします!

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ーDATAー

上田さん(仮名)/30代/未婚/男性

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都市部との違いは? 地方で生きるLGBTQ

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18歳で田舎を飛び出した

ーー地元で生きづらさを感じていた?

はい。実家がある地元は田舎だったのですが、ずっと生きづらさを感じていました。(以下同、上田さん)

ーーどんな生きづらさを経験されたのですか?

田舎での周囲の“当たり前”は、男は男らしく、女は女らしく。結婚して子どもをもつのが幸せ、そういう考え方でした。

そんな中「自分はなんか違うかも?」と感じていました。野球や戦隊ごっこのような遊びは苦痛だし、恋愛対象も男性だったので。

ーー周囲の“当たり前”に違和感を感じていたのですね。


そうですね。でも、男性は大人になるとみんな女性と結婚している。

自分も大人になったら女性を好きになるだろうと思っていました。でも、やっぱり男性が好きだったし、周りから「ホモだ~」とか「オカマだ~」といじめられながら、日々を過ごしていたんです。

ーーそれはいつまでですか?


18歳までです。ある時、本屋で偶然「BL漫画」を手に取ったんです。その時「僕が求めていたのはこれだ!」と思って。BLの舞台が東京だったので「東京に行ったら、漫画で見るこの世界にいける!」と、大学を東京に決めて、高校卒業とともに上京しました。

新宿二丁目で「男街マップ」を手に取った

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ーー上京してからはどうでしたか?


田舎のような閉鎖的な雰囲気はなく、すごく生きやすくなりましたね。新しい発見もありました。僕は上京するまで、自分の田舎にはゲイはほとんどいないと思っていたんです。でも、新宿二丁目に行った時に『男街マップ』(※ゲイ専門の出会いスポットやバーを紹介する雑誌)を読んでいたら、実家から徒歩30秒の場所にゲイバーがあったことを知りました。

ーー実家にいる時は気づかなかったのですか?

まったく気づきませんでした。「会員制」のプレートが掲げられているだけのバーで、一見さんお断りの高級店なのかな? くらいの印象でした。でも、田舎のゲイバーで、堂々と「ゲイバーです!」と掲げているところは少ないんです。「会員制」のバーが、常連のゲイたちがひっそりと集まる場所になっていたんです。


地元にもゲイバーがあることを知って驚きましたね。田舎のゲイはひっそりと暮らしているのだなと改めて感じました。

結婚している人もゲイ専門のマッサージ店を利用する

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ーーゲイマッサージ店で働いた経験も?

はい。大学を卒業し、1社目の会社を辞めて転職活動中をしているときに、都内のゲイ専門の風俗マッサージ店(※リラクゼーションと性感帯を刺激する性感マッサージ)で働いた経験があります。

ーーなぜゲイマッサージ店で働こうと思ったのですか?

当時は仕事を辞めていたので、純粋にお金が必要だったのと、興味もありました。最初は転職先が決まるまでのつなぎのつもりだったのですが思いのほか楽しく、しばらくの間働き続けました。

ーーどのような方が利用されるのですか?

出張で東京に来た際に利用されるお客さんが多かったですね。結婚されている方もいました。

ーー結婚している人も、ゲイマッサージを利用する?

そうですね。田舎であるほど、自身がゲイということを隠している人も多くて。地元に帰れば、奥さんも子どももいる。でも自身はゲイで、出張で東京に来た時にだけ自身をさらけだしたいお客さんですね。

僕自身も、田舎で同じような生きづらさを経験してきたので、そういうお客さんの気持ちが痛いほどわかったんです。

30代で地元に戻って感じたこと

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ーーそれから十数年たった今、上田さんは地元に戻られていますよね。


はい。実は数年前に、心筋梗塞で倒れて生死をさまよったんです。さらにコロナにも感染して、東京で生きていくのは辛いなと感じて、地元に帰ることを決めました。


ーー地元に帰ってみてどうでしたか?


「なんでもっと早く帰らなかったんだろう」と思いましたね。生きづらさを感じて飛び出した地元ですが、10年たって戻ると閉鎖的な雰囲気がかなり緩和されていたからです。同級生や友人たちには自身がゲイであることを打ち明けています。


ーー家族にも打ち明けていますか?


家族にはまだ自身がゲイであることを言ってないけど、兄弟は勘づいているかもしれません。両親は心のどこかでは僕に「結婚してほしい」と思っているだろうけど、強要したりすることはありません。


ただ田舎なので、出会いは少なくなりましたね。ゲイ専用のマッチングアプリでも、まずマッチできる人がいない。それに地元ではゲイ同士がほとんど知り合いなので恋愛には発展しづらいですね。


ーー出会いはどうしても少なくなってしまうのですね。


そうですね。ゲイマッサージの仕事をしていた時、自分がゲイであることを隠して結婚している人は圧倒的に田舎に多いと感じていていました。田舎じゃそもそも出会いもないし、周囲からのプレッシャーや諦めみたいなものがあったのだろうなと思います。


首都圏に比べると「結婚することが幸せ」という価値観も根強く残っていますから。


ーー地元に戻ってからゲイマッサージの仕事は辞めたのですか?


地元に帰ってからは別の仕事をしていますが、長期休みを利用してゲイマッサージの仕事をすることもあります。地元でも東京でも個別に「マッサージをお願いします」と言ってくださる方はいますね。でも東京と違って、田舎では絶対に“ゲイバレしたくないから”と細心の注意を払う人が多いです。時間差でラブホテルに入るようにしたりとか。


ーー田舎ほど、バレたくないという方が多いんですね。


今でこそ性の多様性が受け入れられているけれど、田舎の年配の方の多くはまだLGBTQに理解がないんです。

男女が出会い、結婚することが当然の幸せだと思っている。それができない人は社会不適合者で不幸だと思うから「なんで男が好きなの? 幸せのために結婚するのが一番よ」と悪気なく言っちゃう。


でも、それはその人なりの「優しさ」でもあるんですよね。


田舎のおじいちゃんやおばあちゃんと話していると、まだまだ田舎は閉鎖的だなぁと思うけど、お酒の席で一緒になれば「そんなのどうでもいいじゃないですか!」なんて笑い飛ばしています。

LGBTQなど性的マイノリティと社会づくり

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ーー地元に帰ってちょうど1年たったそうですが、どうですか?


ふと、家族に自分がゲイであることを打ち明けようかなと思った時もあります。でもゲイバーのママに「兄弟には言ってもいいけど、両親になんていう必要ないわよ」と言われて、まぁ機会があれば言おうかな~くらいに思っています。


ーーなぜ打ち明けようと思ったのですか?


LGBTQは自分自身だけのことのように思えるけど、家族のことでもあるからです。


たとえば、ゲイやレズのパートナーができて、パートナーシップ制度を利用できるようになったとしても、色々な手続きの段階や相続の問題とか、家族に相談しなくてはいけないことが出てきます。


ーーたしかに手続きで家族に相談しなければいけないこともありそうです。


それに、LGBTQとひとくくりに言っても、多種多様です。僕のトランスジェンダーの友人は性適合手術を経て、戸籍上も女性になりました。それによって、次男であった弟の戸籍が長男に変わったんです。

このようなケースもあるので、やはり家族や周囲の理解は必要だと思います。


ーー上田さんは、SNS上やイベントなどでLGBTQの情報発信も行われていますよね。


はい。大学の授業やイベントに呼ばれることもあって、そこでLGBTQについてお話することもあります。お話する中で、まだまだLGBTQに対する理解には地域格差があると感じています。


僕がイベントを行ったとある地域では、当事者であるゲイの方から「ひっそりと(ゲイとして)田舎で暮らしたいからそういう情報を広めないでほしい」という声もありました。


ここ数年でぐっとLGBTQに対する理解は深まっていると思います。それでも、すべての人がそうだとはいえません。すべての人が自分のジェンダーとセクシュアリティに違和感を感じずに暮らせる社会になっていったらいいなと思います。

取材・文/毒島サチコ

ライター・インタビュアー
毒島サチコ

MORE世代の体験談を取材した「モア・リポート」担当のライター・インタビュアー。

現代を生きる女性のリアルな恋愛観やその背景にひそむ社会的な問題など、多角的な視点から“恋愛”を考察する。