1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。

そして多様性社会を生きる今、「モア・リポート」と並行して性別を問わずジェンダーレスに20・30代の体験談を取材し、彼らの恋愛やセックスの本音に迫る「モア・ボイス」の連載をお届けします!

SNSで精子提供をしている20代後半男性

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ーDATAー

大西さん(仮名)20代後半 /会社員/未婚

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今まで40名以上の女性に精子を提供してきた

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――SNS上で精子提供を行っている?

X(旧Twitter)を用いて、さまざまな理由でパートナーとの間に子どもが儲けられない方向けに、精子提供を行っています。(以下、大西さん)



――どのような方が利用されるのですか?

今まで僕が精子提供した方でいうと、6割がFTM(身体的性が女性で性自認が男性)のパートナーを持つ女性、2割が無精子病のご夫婦、残りの2割が選択的シングルマザーを望む方です。



――年齢はどのくらいの方が多いですか?

年齢は30代後半~40代の方が多いです。高齢出産の年齢に差し掛かり、最後の砦として、精子提供を決断した方が多いですね。



――今まで何人くらいの方に精子提供をしてきたのでしょうか?

40名くらいだと思います。


――精子提供はどのようにして行われるのですか?

シリンジ法で提供しています。


――シリンジ法とはどのような方法でしょうか?

注射器を用いて精液を採取し、排卵日に合わせて女性の子宮内に注入する方法です。提供に性行為は伴いません。受け渡しは基本ネットカフェで、公衆トイレ(商業施設、駅)で提供することもあります。

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――X上で相談を受けてから、提供までの流れを教えてください。

DMやフォームで依頼を受け、まずは面談をします。僕と話して、お互い合意となれば、あらためてお会いして、精子提供をする形です。

――面談ではどのようなお話をするのですか?

人によりけりですが「趣味は何ですか?」「得意なスポーツは?」といった話題が多いですかね。面談は希望があればオンラインで実施することもあります。身長や年齢、学歴などのプロフィールはすべてSNSに公開しているので、それをもとにお話することが多いです。

――提供にかかる金額はいくらでしょうか?

僕は無償で提供しています。いただくのは、会う際の交通費のみです。

20代男性がSNSで精子提供をはじめたワケ

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――なぜ精子提供をしようと思ったのですか?

結婚はしたくないけど、自分の遺伝子を残したいと思っていたからです。



――子育てがしたかった?

いえ、結婚についてはネガティブなイメージがあり、子育てをしたいという思いはありませんでした。ただ子どもが欲しいなと思った感じです。

今までいろいろな女性とつき合ってきたのですが、交際をする中で「僕は結婚生活には向いていないなぁ」ということが多々あって。基本的にひとりで活動するのが好きだし、生活もひとりでできる。結婚をメリット・デメリットで判断するのはよくないですが、ぶっちゃけ僕にとって結婚はメリットがないと思ったんです。



――結婚=子どものイメージがなかったのですね。

そうですね。そんな時、ジェンダーに関する話題を耳にする機会があり、日本の公的な精子バンクは、利用できる人が限られている現実を知りました。現在では、民間の精子バンクもあるようですが、僕が精子提供を始めた数年前はほとんどなく。


こうした現実を知り「結婚したくないけど自分の子どもが欲しい僕」と「精子提供を受けたくても受けられない女性」の需要がマッチするのではないかと考えました。

SNS上で精子提供を行っている理由は?

――精子提供をXで行っているのはなぜですか?

自分の精子を提供した女性がどんな人か、知っておきたいと思ったからです。公的な精子バンクでは、精子提供を受けた方は、提供者が誰かを知ることはできませんし、提供者も、自分が誰に精子を提供したか分かりません。


僕は、精子提供者と提供を受ける方が直接お会いして、お互いの同意のもとで精子提供を行うべきだと考えています。そうなると、精子提供の方法は個人間のやりとりしかないのではと思いました。



――SNS間の精子取引はトラブルに発展することはないのでしょうか。

今のところないですが、トラブルになったエピソードは聞いたことがあります。SNS経由で精子提供を依頼したら、会って無理やりセックスを迫られた、とか。


僕の場合は、シリンジ法での提供なのでそういうことはありません。ただ、提供の依頼が来て「1週間後、精子がほしい!」みたいに急かされるケースがあって。僕が提供をお断りするケースがいくつかありました。

精子提供で生まれた子どもがひとり

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――先日、SNSで精子提供を受けた女性が、提供者の男性の経歴がウソだったと裁判を起こしたケースがありました。大西さんは、精子提供を受ける方にどこまで個人情報を開示していますか。


名前・住所等の個人情報は非公開です。

身長や、体重などの基本的な情報と、IQ・運動テストの結果、学歴、アレルギー、病気、精液検査結果等は公表しています。僕の実際の容姿に関しては、面談で直接顔を合わせるので、そこで分かると思います。匿名でやっている以上、僕が開示している情報のすべてが真実かどうか、証拠を提示するのは難しいので、そこを理解していただいた上で、精子を提供しています。



――現在、精子提供によって生まれた子どもは何人いるのでしょうか。

僕が把握してるのはひとりです。1か月に1度「こんなに大きくなりました」と、提供を受けた方から子どもの写真が送られてきます。



――生まれた子どもは父親が大西さんということを把握しているのでしょうか。

基本的に提供を行った後は、僕からは連絡したり会ったりしないスタンスです。今は子どもも小さいので、僕が父親だと把握していないと思います。



――もし子どもが将来「父親を知りたい・会いたい」と言ったら?

「会いたい」と言われたら会いますし、自身の個人情報についても開示するつもりです。

取材・文/毒島サチコ

ライター・インタビュアー
毒島サチコ

MORE世代の体験談を取材した「モア・リポート」担当のライター・インタビュアー。

現代を生きる女性のリアルな恋愛観やその背景にひそむ社会的な問題など、多角的な視点から“恋愛”を考察する。