最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】さまざまな“思い方”を描く2冊

人が何かを思い、願う時――それは「前向き」で「まっとう」で「人に説明できる感情や論理」だけで構成されている、なんてわけはない。隣にいる人は、靴店で《SF映画のような目にあいたい》と思っているかもしれないし、トラに《襲われたいもん》と言いきるのを楽しんだり、壮麗な宮殿に目を見張りそびれて《道に感じ入って》いたりするかもしれない。作者が「地味な女シリーズ」と呼ぶ12編を収めた『私に付け足されるもの』では、あらかじめわかっていたわけではないことを女たちが思っている。考えのめぐり方、何かを感じると同時に別の何かを思う様子が言葉に置き換えられ、そのあまりの“本当さ”によって世界を予想外の角度から見せてくれるから、読者の心は明るく高ぶっていく。長嶋有はずっとそんなふうに小説を書いてきた。本書では人だけでなく動物のことも考えていて、その脳みその動きは、ありふれているはずの一瞬を《足をのばすと足先から柔らかな大きな感触が立ちのぼってきた》ような未知の経験に変えてしまう。こんな小説があることに何度でも驚きたい。

【イチ押しBOOK1】長嶋 有さんの『私に付け足されるもの』

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講演のためウィーンを訪れた女、コインランドリーを体験する女、走る女など12人がものを思う。5年にわたり発表された短編や掌編に描かれた願望を「付け足されるもの」としてまとめ、書き下ろしを加えた12編を収める。(徳間書店 ¥1500)

【イチ押しBOOK2】衿沢世衣子さんの 『制服ぬすまれた』

衿沢世衣子もまた、漫画の中でいくつもの思いをすくい上げる。ミステリー風味に貫かれた『制服ぬすまれた』では、制服を盗まれて疑心暗鬼になったり、姿を消した知人を思って微笑んだりする人物の表情を通して多彩な思いを活写する。だから、泥棒が入り、身分が偽られ、不法侵入さえ起きる不穏な世界だというのに、読むうちに友達が増えるような楽しい錯覚さえ起きてしまう。同作家の『ベランダは難攻不落のラ・フランス』と合わせてぜひ。
世界を予想外の角度から見せてくれる12編の画像_2
制服を盗まれてしまった女子高生に、時を超えて小さな奇跡が起こる表題作、新境地を切り開いた『カラスが鳴くから』、『ワニ蕎麦』、『鉄とマヨ』など、青春と犯罪がからみあって日常を描き出す5つの短編を収めた作品集。(小学館 ¥591)

【ほかにもあります★オススメBOOKをご紹介】

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『そばですよ 立ちそばの世界』/平松洋子さん

著者は誘惑する。五感で味わうそばの味やのどごし、だしの香り、天ぷらの具合にふくよかな店の空気までもが描写され、“おいでおいで”と手招きする。東京中の立ち食いそば店から26軒を取り上げた一冊。(本の雑誌社 ¥1700)
世界を予想外の角度から見せてくれる12編の画像_4
『炎の色』/ ピエール・ルメートルさん 〈訳〉平岡 敦さん

3月に実写化映画が公開される『天国でまた会おう』3部作のシリーズ第2作目。とはいえ予習などは不要。難しいことを考えず、20世紀初頭のパリへ、陰謀と愛が渦巻くサスペンスフルな長編世界に飛び込もう。(早川書房 ¥3600)
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『RE:NA』/〈撮影〉熊谷 貫

小学6年生でシュートボクシングに出合い16歳でプロデビュー。その世界で「絶対女王」と呼ばれるほどの強さを身につけた人気格闘家RENAが、27年間の人生をじっと見つめ、まっすぐ語った、初のフォトブック。(集英社 ¥1800)


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MORE2019年3月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 原文/鳥澤 光
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