例年、映画&海外ドラマファンたちが注目している「ゴールデン・グローブ賞」。第77回となる2020年の授賞式に、MORE本誌でも活躍中のライター松山梢さんが出席! プレパーティから授賞式、アフターパーティの様子まで、現地からの最新ルポを5夜連続でお届けしてきました。本日が最終夜です!!

【最終夜】会場中が涙したのは、あのレジェンドの受賞!

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今年の映画の作品賞(ドラマ部門)は、対抗馬とされていた『マリッジ・ストーリー』(Netflixで配信中)を破り、サム・メンデス監督が若き兵士たちのミッションをとてつもない技術を駆使して“全編ワンカットに見える映像”で描いた『1917 命をかけた伝令』(2月14日公開)が受賞(監督賞を含め2部門)。ほぼ下馬評通りの結果となりました。個人的には、外国語映画賞を受賞したポン・ジュノ監督作『パラサイト 半地下の家族』(公開中)の受賞に歓喜! 会場でもひときわ喝采を浴びていました。

そして、授賞式を見ていて結果以上に印象的だったのは、壇上に立った人たちの個性あふれるスピーチ。

司会を務めたリッキー・ジャーヴェイスが、冒頭で「この場を政治的なスピーチをする場に使用しないでください。なぜならあなた方はリアルワールドについて何ひとつわからないのだから」とビールを飲みながら辛辣なジョークを飛ばしましたが、セレブたちは苦笑いを浮かべながらもどこ吹く風。
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オーストラリア出身で、家族を守るために授賞式を欠席したラッセル・クロウ(『The loudest Voice』でテレビムービー部門の主演男優賞受賞)をはじめ、ホアキン・フェニックス(『ジョーカー』で映画ドラマ部門主演男優賞受賞)やジェニファー・アニストン、エレン・デジェネレス、ピアース・ブロスナンらがオーストラリアでの大規模な森林火災について言及。環境活動に率先して取り組む必要があると発信しました。

『Fosse/Verdon』でテレビムービー部門の主演女優賞を受賞した妊娠中のミシェル・ウィリアムズは、妊娠や出産の選択権は女性自身にあるべきだと発言し、大きな拍手を集めていたのも感動的。壇上に立った直後は声を震わせながら緊張した面持ちを見せていたものの、次第にスピーチに熱がこもっていくその変化も、彼女の内に秘める想いの強さを反映していました。

チャーミングだったのは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で映画ドラマ部門助演男優賞を受賞したブラッド・ピット。「母親を連れてこなくてよかった。僕の隣にいる女性は恋人だと思われてしまうからね」と自虐。元妻のジェニファー・アニストンがプレゼンターとして出席しているのにどんなスピーチだよと思いましたが(笑)、元婚約者のグウィネス・パルトロウも元カノのクリスティーナ・アップルゲイトも同じ会場にいる、まさにカオス。ハリウッド一のイケメンの居心地の悪さに同情しました。
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授賞式でスタンディングオベーションが起きたのは、特別賞のキャロル・バーネット賞を受賞したエレン・デジェネレスと、映画業界に長年貢献した人に送られるセシル・B・デミル賞を受賞したトム・ハンクスが紹介された時。特に、トム・ハンクスの約40年の功績を讃える5分ほどの紹介ビデオには名作の数々が収められ、彼がまぎれもなくハリウッドの象徴であることを実感。プレゼンターのシャーリーズ・セロンは、「南アフリカの農場で育つ8歳の少女だったころ、私の宝物はバレエシューズと、ペットの山羊と、『スプラッシュ』(※人魚と人間の男性との恋を描いた1984年公開のトム主演映画)のVHSカセットでした。カセットは見過ぎてボロボロになりセロテープで“手術”までしたほど。うちの小汚い池でバシャバシャと水しぶき(スプラッシュ)をあげながら、トムが救いに来てマンハッタンを案内してくれるのを夢見てました。恋してたのよ。トムはどんな人間にもなれて、私たちに映画を生きる体験をさせてくれた」と紹介。

スピーチを始めたトムは、「家族が前に座ってくれているのは、人生最高の幸せです」と思わず涙ぐみながら、若い頃、撮影の前夜に飲み過ぎてリハーサルに遅刻した時の失敗を告白。「役者は時間通りに来て、台詞を覚え、あふれる演技のアイデアを持っていなきゃいけません。準備万端にして、人より早く現場で落ち着いておく。それでこそ最高点をたたき出せることを学びました」と、どんな仕事にも通じる金言を伝授。「誓って、家でだってこんなに泣いたりしたことはありません。HFPAに感謝を。ここにいるみなさんにも」と締めくくり、誠実な人柄が伝わるスピーチは多くの人の涙をさそい、鼻をすする音が会場に響く温かなひとときでした。

ゴールデン・グローブ賞の授賞式に参加しておぼえた一番大きな感動は、エンターテイメントをこよなく愛し、エンターテイメントによって世の中をいい方向に導けると信じている人たちの熱意。そして、それに間近で触れられたこと。世界情勢が緊迫している時だからこそ、彼らのその想いはよりダイレクトに、切実に届きました。ストリーミング作品が多くノミネートされたことも今年の特徴ですが、どんな形であろうとエンターテイメントは決して無くならないし、これからも、人生を変えるような体験を幾度となくできるはずだと確信。あっという間だった授賞式の瞬間を1ミリたりとも忘れたくないけれど、夢を見させてくれた彼らには、いつだって映画やドラマの中で会える。その幸せを改めて噛みしめる体験でもありました。

5夜連続でお届けした最速レポート。ここまでおつきあいくださり、ありがとうございました!!
写真・文/松山 梢