12星座全体の運勢

「呑み込むべき“寒九の水”を問う」 

2021年を迎えて最初の新月は1月13日にやぎ座の第三デカン(20から29度)で起こります。やぎ座の現実主義に水星の知性が加わるため、この新月では特に物事の本質を見抜く客観性が冴えわたっていくでしょう。 

二十四節気では1月5日より「小寒」に入ります。いわゆる「寒の入り」と言われ、冬至で「一陽」を得ることでかえって陰気が強まり、ますます冷えが厳しくなっていく頃合いとされています。そして、今回新月が起こる1月13日は寒の入りから9日目の「寒九」にあたり、昔からこの日の水(寒九の水)は特別な力が宿るとされ、餅をつくにも、お酒を造るにも、薬を飲むにも、珍重されてきましたが、この特別冷たい水こそが薬にも力にもなるという発想は、まさに今回の新月のテーマとも言えます。 

すなわち、人間が経験しうるもっとも純粋な自由というのは、厳しい規律や掟を受け入れ、従うことでこそ実現可能になるということ。さながら寒い時期ほど、一年を通して温度変化の少ない地下水さえもがあたたかく染み入るように感じられるように。あなたの人生に力を与え、解放させてくれるだけの「冷たさ=厳しい現実やその枠組み、ルール等」とは何か、それをいかに取り入れていけるかが今期 は問われていきそうです。 

射手座(いて座)

今期のいて座のキーワードは、「カイロス的時間感覚」。

射手座のイラスト
昨年は大企業や派遣会社に不当な理由で解雇を通告されたという話をニュースだけでなく身近なところからも少なからず聞いた年でもありましたが、これは単にコロナの影響というより、かつてカール・マルクスやジョージ・オーウェルによって予言された管理社会が到来しつつあることを、改めてコロナが炙りだしたに過ぎないのだと言えるでしょう。 
 
こうした企業側の生産性を時間に換算するような客観的で合理主義的な時間感覚について、哲学者のジョルジョ・アガンベンは「クロノス」という古代ギリシャの時間の神にひもづく言葉で表す一方、身体によって経験される質的な変容を伴う主観的な時間間隔を「カイロス」という言葉で表現しました。 
 
アガンベンによれば、近代科学が切り開いた認識、あるいは計算可能な時間感覚は「経験を可能なかぎり人間の外に、つまりは道具と数のなかに移し換えていく」ような営みと結びつきやすく、資本主義システムはそれを巧妙に利用しながら私たちの生活をいつのまにか変えてしまった訳です。 
 
しかし、そもそも「経験」というものは確実性や数値化とは相容れないものであり、それゆえにアガンベンは「ひとたび計算可能で確実なものとなってしまったなら、そのときにはその経験はただちに権威を失ってしまう」のだと言います。 
 
このことは、カイロスという神がギリシャ語の「機会(チャンス)」に由来し、宿命あるいは神意によって配剤され、人間に決断を伴う応答を要求するような決定的瞬間を意味することを考えれば、自然と合点が行くのではないでしょうか。 
 
そうした人間のカイロス的想像世界は、現代の資本主義社会が前提とする定量的時間や物質世界の下位に置かれている訳ですが、今期のいて座が突きつけられているテーマもまた、どうしたらそのヒエラルキー的関係を転倒していくことができるかということと深く関連しているように思います。 


参考:ジョルジュ・アガンベン、訳『幼児期と歴史 経験の破壊と歴史の起源』(岩波書店) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ