12星座全体の運勢

「記憶の「虫だし」」 

土の中にあたたかい気配が届き、それを感じた虫たちが穴の中から這い出してくる「啓蟄」直前である3月3日に、うお座12度(数えで13度)で新月を迎えていきます。 

「非現実的で、過度な理想主義」や「既存世界の<外部>への遁走」を意味する木星と海王星の組み合わせのすぐそばで形成される今回の新月のテーマは、「負の記憶の解消」。 

桃の花がほころびはじめ、青虫が蝶に変身して夢見るように見え始める3月はじめの新月は、新しいサイクルの本格的な始まりというよりは、これまでのサイクルのなかに取り残されたままのわだかまりや怨念をきちんと鎮めていくことにあります。 

昔の人は、蛇やカエルやトカゲなど、小さな生物はみな「虫」と呼び、この時期になる雷の音におどろいて虫たちが這い出してくるものと考えて、春の雷を「虫だし」と名付けていましたが、逆に言えば、寒さに耐えて地中でちぢこまっている虫が残っている限りは、まだすべての生命が喜びとともに祝う春ではなかった訳です。 

その意味で、今回のうお座新月は、きたる春分(新しい一年の始まり)に向けて、自分だけでなく周囲のみなが忘れかけている記憶や歴史の業を解消していく霊的な働きに、いかに自分を一致させていくことができるかどうかが問われていくことになるでしょう。 
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蠍座(さそり座)

今期のさそり座のキーワードは、「未完の味」。

蠍座のイラスト
作者と対象という二人の人間の生き様がどうしたって交錯する評伝というジャンルは、その特性からどうしても語り口や雰囲気が重苦しいものになりがちですが、時に例外も生まれます。 
 
老齢のフランス作家によるロシアの文豪チェーホフの評伝である『チェーホフの感じ』は、あるときはほんの数行で終わるほど短い断章ばかりで編まれた一風変わったつくりなのですが、読み進めるうちにそれは著者が投げかける「チェーホフは人間を愛していたのか?」というテーマの重苦しさから読者を少しでも解放するための工夫なのだということが次第に分かってくるように出来ているのです。 
 
例えば、『ワーニャ伯父さん』のなかで作者を代弁する医師アーストロフは、「献身的に伝染病の治療に当たり、手術をおこない、休む暇なく方々をかけ回」っていたにも関わらず、その口癖は「私は人間を愛していない」だったとグルニエは指摘した上で、女性との交際などで支離滅裂だったチェーホフ本人について、「とにかく言えることは、ギロチンの刃のように鋭くあろうとする高徳の士よりも、かずかずの弱みを抱えた人間の側につく」のが彼だったし、作家というのはそれくらいでちょうどいいのだと言います。 
 
また、チェーホフの小説や劇(たとえば日本で最も有名な『かもめ』)が、筋がなく、登場人物に共感しにくい、と当初はあまり理解されなかった点についても、グルニエは、たぶん、人生に似ているからだと解釈しつつ、登場人物が「ほんのちょっとした端役でも」、何らかの生きる不幸を背負わされている点に着目し、次のように述べています。 
 
(そのために)各瞬間が失敗であるように見える。そしてそうした瞬間の連続の最後に残るのは<果たされなかった>という印象である。この未完の味こそが真のテーマなのだ。」 
 
今期のさそり座もまた、本書の構成やちょっとした着目点、そして数々の鋭い指摘に通底するような軽やかさや、ちょうどいい余韻をいかに自身の創造的営みにももたらせるかということがテーマとなっていくでしょう。 
 
 
参考:ロジェ・グルニエ、山田稔訳『チェーホフの感じ』(みすず書房) 
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<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ