12星座全体の運勢

「社会的秩序の相対化」 

いよいよ春もたけなわに入り、花々が咲いては散ってゆき、それを「惜しむ」思いが深まっていく頃合いに変わってきました。そんな中、「春分」から「清明」へと節気が移ろう直前の4月1日に、おひつじ座11度(数えで12度)で新月を迎えていきます。 

今回の新月のテーマは、「天の采配への同期」。すなわち、ふだん地上を這うように生きている自分の選択や振る舞いのひとつひとつが、みずからの意思や社会の空気によってのみ決定されているのではなく、それらを超えたところで働いている宇宙的な原理によって突き動かされているのだという実感を改めて深めていくこと。 

例えば、春になってあたたかくなってくれば冬鳥の雁は北へ帰っていきます。かつてはその姿が日本のどこでも見られ、子供たちは「棹になれ、鉤になれ(まっすぐに連なれ、鉤形に並べ)」とはやしたてたそうですが、そうして新たな季節の訪れを知らせてくれる渡り鳥が道に迷うことなく、何千キロもの長距離を移動し、それを毎年繰り返すように、私たち人間もまた、食事や睡眠などのごく身近なレベルの日常的行動から、経済活動や軍事侵攻などの集団的行動まで、日々何らかのかたちで、地球の磁気や気候の変動などの惑星規模の影響力によって左右されているのです。 

ここのところ、従うべき法と秩序とは何か、ということが人間中心的なものへ寄り過ぎていましたから、今回の新月では、いかにそうした社会的な通念や常識を相対化し、宇宙的サイクルや天の采配に同期して、自然体へと還っていけるかということが、各自の状況に応じて問われていくことでしょう。 
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天秤座(てんびん座)

今期のてんびん座のキーワードは、「異なる性としての私」。

天秤座のイラスト
批評家の安藤礼二は、「鏡を通り抜けて 江戸川乱歩『陰獣』論」のなかで、作家・江戸川乱歩は書くことによって「女」になろうとし、それこそが彼を作品づくりへと駆り立てた根源的な夢想だったとした上で、そのために乱歩は作品を通して「私」を徹底的に分断し、自らの想像力のみを駆使してまったく新しい理想の「女」として再構築していったのではないか、と指摘しています。 
 
ここで誤解を避けるために言及しておかなければならないのは、乱歩は書くことの延長線上に女の肉体や、それとの交合を望んだわけでは決してないということ。安藤はその点に次のように述べています。 
 
 「女になること。その場合の女とは、肉体的な現実をもった女ではない。乱歩の「女」とは、生物学的な「差異」でも、制度的な「差異」でもない。逆にその「女」はさまざまな「差異」を生み出す地平、絶対的な「官能性」とでも名づけるほかない領域に存在する。それは森羅万象のすべてを官能として受容する純粋な感覚世界の新たな想像であり、その感覚の全面的な解放である。」  
 
例えば、乱歩の最高傑作との呼び声も高い『陰獣』の、秋の博物館において探偵小説家である「私」が人気のない展示室で木彫りの菩薩像に見入っている時、誰かがそっと後ろから近づいてきて、「私は何かしらゾッとして、前のガラスに映る人の姿を見た。そこには、今の菩薩像と影を重ねて、黄八丈のような柄の袷を着た、品のいい丸髷姿の女が立っていた。女はやがて私の横に肩を並べて立ち止まり、私の見ていた同じ仏像にじっと眼を注ぐのであった」というシーンについて、安藤はこう言い表しています。 
 
「ガラス」を通して、両性具有のエロティックな「菩薩」と「私」の女の鏡像が重なり合う。ここに天人にして獣―「陰獣」とは猫のような魔性の「陰気なけもの」という意味であった―という乱歩にとって理想の「女」の像がほぼ完全に描かれることになる。」 
 
乱歩ほど徹底的に実行できるかはさておき、4月1日にてんびん座から数えて「相補い合うもの」を意味する7番目のおひつじ座で新月を迎えていく今期のあなたにも、「私」を再構築することへの鬼気迫る情熱のようなものを感じてなりません。自分が一体何を望んでいるのか。その夢想の根底へと一歩ずつ、しかし着実に歩を進めていくといいでしょう。 
 
 
参考:安藤礼二『光の曼荼羅』(講談社文芸文庫) 
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<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ