12星座全体の運勢

「見せるための花はいらない」 

すでに青葉若葉が目に鮮やかになってきましたが、暦の上で夏の始まりを告げる「立夏」にほど近い5月1日には、おうし座10度(数えで11度)で新月を迎えていきます。 

おうし座11度のサビアンシンボルは「花の畝に水を撒く女」。みずからを耕し、ケアすること、洗練させることを象徴する度数であり、さらに今回の新月は「理想と刷新」の天王星と重なる形で起きていきますから、自分を取り巻く世界を変えるためにいつも以上に大胆な態度表明を行ないやすいタイミングといえます。 

それを踏まえた上で、今回の新月のテーマをあえて一言でいうならば、「見せるための花はいらない」ということになるのではないでしょうか。 

例えばイチジクの花は、花が見えないまま、いきなり果実が育ち始め、花はその果実の真ん中に隠れていますが、人間に置き換えてみるとそのような人は滅多に見かけないはずです。 

というのも、いまの社会ではいかに自分をよく見せ、市場価値や評価を高められるか、高くもしくは長く買ってもらうかということが過剰に重視されており、結果的に自意識にがんじがらめになったり、生い茂る雑草のような自分の目立たない側面を過小評価したり、身体的ないし精神的な健康ということが疎かになったりして、美しいとは本来どういうことなのか、ますます分からなくなっているように感じるからです。 

その意味で、今回の新月ではどんなに常識に反してもいい、モテなくても見向きもされなくていい、他ならぬ自分自身を喜ばすための時間を確保し、そうした取り組みに方向性を切り替えていくために、どれだけそれ以外の部分、すなわち「誰かに見せるための花」やそのための手間ひまを、思い切って切り捨てることができるかが問われていくでしょう。 
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牡牛座(おうし座)

今期のおうし座のキーワードは、「さわる」。

牡牛座のイラスト
詩人・大岡信のよく知られている詩のひとつに、戦後詩のアンソロジーなどでもよく取りあげられる「さわる」という作品があります。 
 
さわる。 
木目の汁にさわる。 
女のはるかな曲線にさわる。 
ビルディングの砂に住む乾きにさわる。 
色情的な音楽ののどもとにさわる。 
さわる。 
さわることは見ることか おとこよ。」 
 
しかし、YouTubeやInstagramにTikTok、ARにVRなど、視聴覚メディアが限りなく発達している今の時代において、「さわる」ことは通常、「見る」や「聞く」と比べてあまり重要とはされておらず、あくまで‟ついで”に行われる動作とされることがほとんどです。 
 
ところが、この「さわる」という詩では、通常なら触覚の対象とされないような、さまざまな対象に対して「さわる」という言葉を適用していくことで、そうした感覚的常識を異化し、「さわる」という感覚を第一義に近い位置へと転倒させていこうとしているのです。 
 
なお、「おとこよ」とあるのは、細い指を持つ人は触覚においてより敏感であるという発表もされているように(「the Journal of Neuroscience」,2009年)、一般的に女性は男性よりも指が細く、触覚に優れているという前提を踏まえれば、この詩の意図する転倒が男性優位に作られた社会や文脈まで睨んだものであるということが分かってきます。 
 
さわる。 
時のなかで現象はすべて虚構。 
そのときさわる。すべてにさわる。 
そのときさわることだけに確かさをさぐり 
そのときさわるものは虚構。 
さわることはさらに虚構。 
どこへゆく。 
さわることの不安にさわる。 
不安が震えるとがった爪で心臓をつかむ。 
だがさわる。さわることからやり直す。 
飛躍はない。」 
 
5月1日に自分自身の星座であるおうし座で新月を迎えていく今期のあなたもまた、すべてがでたらめで、確からしいものなどほとんどないように感じられる今の時代の見取り図を、「触覚」を通して改めて描き直してみるといいでしょう。 
 
 
参考:大岡信「さわる」『ユリイカ2017年7月臨時増刊号 大岡信の世界』所収 
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<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ