12星座全体の運勢

「見せるための花はいらない」 

すでに青葉若葉が目に鮮やかになってきましたが、暦の上で夏の始まりを告げる「立夏」にほど近い5月1日には、おうし座10度(数えで11度)で新月を迎えていきます。 

おうし座11度のサビアンシンボルは「花の畝に水を撒く女」。みずからを耕し、ケアすること、洗練させることを象徴する度数であり、さらに今回の新月は「理想と刷新」の天王星と重なる形で起きていきますから、自分を取り巻く世界を変えるためにいつも以上に大胆な態度表明を行ないやすいタイミングといえます。 

それを踏まえた上で、今回の新月のテーマをあえて一言でいうならば、「見せるための花はいらない」ということになるのではないでしょうか。 

例えばイチジクの花は、花が見えないまま、いきなり果実が育ち始め、花はその果実の真ん中に隠れていますが、人間に置き換えてみるとそのような人は滅多に見かけないはずです。 

というのも、いまの社会ではいかに自分をよく見せ、市場価値や評価を高められるか、高くもしくは長く買ってもらうかということが過剰に重視されており、結果的に自意識にがんじがらめになったり、生い茂る雑草のような自分の目立たない側面を過小評価したり、身体的ないし精神的な健康ということが疎かになったりして、美しいとは本来どういうことなのか、ますます分からなくなっているように感じるからです。 

その意味で、今回の新月ではどんなに常識に反してもいい、モテなくても見向きもされなくていい、他ならぬ自分自身を喜ばすための時間を確保し、そうした取り組みに方向性を切り替えていくために、どれだけそれ以外の部分、すなわち「誰かに見せるための花」やそのための手間ひまを、思い切って切り捨てることができるかが問われていくでしょう。 
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獅子座(しし座)

今期のしし座のキーワードは、「神話を取り戻す」。

獅子座のイラスト
日本には昔から大ナマズが地下で活動することによって地震が発生するという民間信仰がありますが、実際に1855年の安政の大地震(死者数千人、倒壊した家屋は一万数千軒と言われる)の後には、ナマズを題材に描かれた浮世絵が大量に出版されて飛ぶように売れ、その種類だけでも軽く百を越えたという記録が残っているそうです。 
 
ただ、これは単に当時の人々が迷信深かったという話ではなくて、例えばオランダの文化人類学者アウエハントの『鯰絵ーー民族的想像力の世界』によれば、日本社会ではそうした天変地異を神話的な構造へと定着させることで、倒幕運動などの集団的なムーブメントの原動力をつくりだすために利用してきたのです。 
 
そこでは江戸の庶民たちが地震をただ非日常的な大災害として見ているだけではなく、人間と自然を対等にとらえ、「ナマズの行為」という概念を仲立ちさせることで、ひとつの統一的な全体として考え、自分たちの身に起こった複合的な意味合いをすべからく結びつけようとしていった訳です。 
 
そして、自分の頭をおさえつけていた要石をどうにか外すことに成功し、からだを一ゆすりさせることで、大地の安定性どころか経済の均衡さえも崩してしまう張本人の姿を描いた鯰絵に、古い秩序の破壊者にして世直しをもたらす創造者としての「トリックスター」元型を見出していたのだ、と。 
 
つまり、人類に普遍的な神話的思考の産物であり、そこには人間社会を超越した「外なるまなざし」から眺めることで、ある種の客観性が宿り、同時にその距離感から独特のクールさや軽み、何よりユーモアが生じていたのです。 
 
トリックスターにおいては、秩序をつくり出す原理とそれを壊して原初に連れ戻す初期化の原理という対立項が混然一体となっているのですが、鯰絵ではそれが地下深くに潜んで大地を揺るがす大鯰と、要石によって大鯰を封じ込める秩序の象徴としての鹿島神宮の祭神・武甕槌大神の「タッグ」として構想され、また図式化されたのです。 
 
こうした神話的思考を通して、揺れ動く“浮き世”は、文字通り「仮想現実(バーチャルリアリティ)」として江戸庶民に了解され、彼らはそこからそれぞれの未来を生き抜いていく力を得ていったのではないでしょうか。 
 
その意味で、5月1日にしし座から数えて「世間」を意味する10番目のおうし座で新月を迎えていく今期のあなたもまた、自分がいま接している世間を「外なるまなざし」から眺め、そのなかを生き延びていく力を与えてくれるようなナマズに代わる新たな神話的イメージを、どうしたら取り戻していけるかが問われているのだと言えそうです。 
 
 
参考:C・アウエハント、小松和彦ほか訳『鯰絵 民族的想像力の世界』(岩波文庫) 
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<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ