1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。

そして多様性社会を生きる今、「モア・リポート」と並行して性別を問わずジェンダーレスに20・30代の体験談を取材し、彼らの恋愛やセックスの本音に迫る「モア・ボイス」の連載をお届けします!
 

人間関係がうまくいかない。大人の発達障害

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ーDATAー

原田さん(仮名)28歳 /会社員/未婚/男性

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24歳の時に発達障害と診断

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――成人後にはじめて、発達障害の診断を受けた?

はい。24歳の時にASD(自閉症スペクトラム障害)の診断を受けました。(以下同、原田さん)


――ASD(自閉症スペクトラム障害)とはどのような障害でしょうか?

対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴をもつ発達障害のひとつです。診断を受けるまで長い間、対人関係がうまくいかないことに悩んでいました。
高校時代は、自身と似たような友人たちとつるんでいたのでなんとかやっていけたのですが、大学に入っていろいろなジャンルの友人と関わるようになると、飲み会やサークルなどで空気の読めない発言をしてしまい、周囲から浮いてしまって。

特に悩んでいたのは恋愛コンプレックスで、大学時代、「童貞いじり」をされた辛い経験があります。

「童貞いじり」をされた学生時代

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――「童貞いじり」とは具体的にどのような状況だったのでしょうか?

僕に恋愛経験がないことを単純に「童貞」といじることなんですが、僕にとってそれはいじりではなく、いじめに感じました。

周囲はちょっといじってやろうとかそういう気持ちだったと思うんです。でも当時の僕は、その言葉を真に受けてしまって。「どうして僕だけ恋愛できないんだろう……」とずっと悩んでいました。


小学校の時の卒業アルバムで「一生独身でいそうな人ランキング」で僕が1位になった経験があって、それが大きなトラウマになっていました。年齢を重ねるにつれ、女性はもちろん、他人と意思疎通がうまくとれない自分は、ランキングのように一生独身なのかもしれない……と感じていました。



――「恋愛したい」という気持ちはあったのですか?

はい。でも恋愛どころか、周囲とのコミュニケーションがうまくいかず。恋愛の仕方さえわかりませんでした。当時は今ほど発達障害というワードがあまり浸透していなかったこともあり、自身が発達障害であることに気づく機会がなかったんです。そうして、コンプレックスばかり強くなっていきました。

大学卒業後、会社をすぐに退職。発達障害の診断

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――その後、どうなりましたか?

就活では面接がうまくいかず、就職できませんでした。その後1年の就職浪人を経て、とある企業の正社員になりました。でも上司と意思疎通がうまくいかず、24歳の時に退職。別の会社でアルバイトを始めましたが、そこでも人間関係に悩みました。

その時、やっと発達障害がテレビやメディアなどで取り上げられるようになり、自身の特徴にあまりにもあてはまるので、病院を受診したんです。そこでASD(自閉症スペクトラム障害)の診断を受けました。



――その時はじめて発達障害であることを知ったのですね。

そうですね。でも僕は最初、障害を受け入れられませんでした。



――あるテレビ番組では、発達障害の診断を受けた男性が「生きづらさの原因がわかってほっとした」と語る場面が紹介されていました。

「ほっとした」「わかってよかった」という人もいますよね。でも僕はその逆でした。母に診断結果を告げたら、ショックで泣きだしたんです。頑固な父からは世間体を気にして「周囲には言うなよ」と言われました。

それが原因で障害者手帳をとるのに苦労しました。今でも父とは折り合いが悪いままです。

恋愛セミナーへの参加やマッチングアプリをはじめるも

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――その後、どうなりましたか?

当時の僕は24歳で恋愛経験ゼロ。落ち込んでばかりもいられないので、自身の障害を知った上で恋愛がしたいと思い、マッチングアプリをダウンロードしました。


――本格的に恋活をはじめたのですね。

はい。「いいね」をもらうために、アプリ内課金をしました。そこで初めて彼女ができたのですが、数週間あまりで別れました。彼女にとって僕は、つきあっていたというより、ただの都合のよい存在だったと思います。


――都合のよい存在とは?

女性とのつきあい方が分からなかったので、彼女が「〇〇が欲しい」と言えば、僕はそれをどんどん買っていました。彼女に嫌われたくなくて、最終的にかなりの金額を貢いでいたと思います。最終的にうまくいかなくなりました。

大学時代の数少ない友人のひとりに、自身に恋愛コンプレックスがあり、悩んでいることを打ち明けました。



――本音を話せる友人がいたのですね。

はい。彼の存在が僕にとって支えでした。悩みを聞いた彼は「実は僕も発達障害があって、気持ちがわかるよ」と打ち明けてくれてたんです。すっかり彼を信用した僕は、彼が紹介してくれた恋愛セミナーに入りました。


――恋愛セミナーですか?

友人に紹介された男性が主催する「モテるための極意」などを学ぶセミナーです。最初は無料でしたが、ある時、主催者の男性から「もっと学ぶためには数十万必要」だと言われたんです。

実はこれ、セミナーをかたった詐欺だったんです。それに気づいた時、僕には数百万円の借金ができていました。

後編へ続く。友人に裏切られ借金、20代男性がわかった発達障害との向き合い方

取材・文/毒島サチコ

ライター・インタビュアー
毒島サチコ

MORE世代の体験談を取材した「モア・リポート」担当のライター・インタビュアー。

現代を生きる女性のリアルな恋愛観やその背景にひそむ社会的な問題など、多角的な視点から“恋愛”を考察する。