最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】本を読むことは旅によく似ている

旅と本、というキーワードのつながり方はいくつもある。旅について書かれた紀行本、読むと旅に出たくなる本、旅に出る時に読みたい本、本の中を旅させてくれる本。『大好きな町に用がある』は、そのどれでもあるような本だ。24歳で自由旅行を体験してから、《自分の脚と頭を使って旅を》し続けてきた作家・角田光代が、旅への想いと想い出を静かな筆致でつづる。《何を信じて、何を自分に課して、何を嫌って、何を許さず、何を目指して生きていくか》を教えてくれたタイの島。レアル・マドリード対FCバルセロナが対戦する日のマドリッドの喧騒。海の底に見つけた世界の美しさ。出かけた先にある風や光は明媚なだけではない。荒れたり乱れたり、期待はずれだったり……年月とともに変わってしまうものもある。でも、ため息のようにもらされる言葉もやがて、見知らぬものや景色への興味や興奮と混じりあい、旅の記憶と重なりつながり動きだす。《空想も誇張も含めて、ひとりの心と体と感情ぜんぶを総動員して動くこと》、そんな体験をずっしり分け与えてくれるエッセイ集。

【イチ押しBOOK1】角田光代さんの『大好きな町に用がある』

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天国のようなタイのタオ島、親しく近しい知人のような香港。各国の山の上や桜の下、波のはざまに、新幹線やバスの中。25年もの間に蓄積された旅の記憶の中を自在に泳ぎ回り、時間も国や地域の境界も越えていくエッセイ集。(スイッチ・パブリッシング ¥1600)

【イチ押しBOOK2】津村記久子さんの『ディス・イズ・ザ・デイ』

日本の北から南までを旅するように読む小説がある。『ディス・イズ・ザ・デイ』のタイトルにある「ザ・デイ」は、プロサッカー2部リーグの最終節の日のこと。11編とエピローグの連作には、架空の22チームとサポーターのそれぞれの最終節が描かれる。人はなぜサッカーを観るのか? なぜ祈り、応援するのか? 明るい喜びも言葉にならない絶望も書ききる津村記久子。その曇りない日本語によってスタジアムに連れていかれるのって快感だ!
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J2をモデルに、サッカーに触れ、サッカーに支えられるサポーターたちの姿を描いた群像劇。小説の中に入りたい! と思う間もなく足を踏み入れてしまうほどの「リアル」な手ざわりと言葉の強度も堪能できる。(朝日新聞出版 ¥1600)

『ゆるく考える』『夢見る人』『さよならアメリカ』【オススメBOOKはこの3冊】

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『ゆるく考える』/東 浩紀さん
批評と思想を軸に活動する著者によるエッセイ集。坂道、SNS、時間の反復不可能性から世界のつながりにまで言葉は及び、思考が伸びていく。《現実はなぜひとつなのだろう》の呟きに心が揺さぶられる。(河出書房新社 ¥1800)
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『夢見る人』/ パム・ムニョス・ライアンさん 〈絵〉ピーター・シスさん〈訳〉原田 勝さん
父にとがめられ、ノートを破り捨てられても、わき出す言葉を握ってとらえて書き記す。「20世紀最高の詩人」と称されるパブロ・ネルーダの少年時代を描いた小説が、詩人の世界の見つめ方を体感させてくれる。(岩波書店 ¥2400)
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『さよならアメリカ』/渋谷直角さん
特異な立ち位置から社会をえぐる渋谷直角。映画やドラマ化が続く作者の新作は、A・ウォーホルのスケッチブックとの出合いから激流にのまれていく男の人生を描く長編漫画。幸せとは何かを考えさせられる。(扶桑社 ¥1200)


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MORE2019年6月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 原文/鳥澤 光
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