自分と向きあい、耕す。松村北斗とカルチャーとその歴史。

普段からよく本を読み、音楽を聴き、休日は映画館や美術館へ足を運ぶ。そんな自他共に認める“メガネが似合う文化系男子”、松村北斗さんが語る、メガネとカルチャーのハナシ。

SixTONES松村北斗
松村北斗

まつむら・ほくと●1995年6月18日生まれ、静岡県出身。6人組アイドルグループSixTONESのメンバーとして2020年にCDデビューし、最新シングル『CREAK』が8月30日に発売予定。俳優としても活躍中で、映画の待機作に10月13日公開の『キリエのうた』、来年公開予定の『夜明けのすべて』など。西畑大吾(なにわ男子)とのダブル主演ドラマ『ノッキンオン・ロックドドア』(テレビ朝日系・土曜23:00〜)に出演

松村北斗のカルチャーの歴史は図書館の絵本から始まった

今でこそ、休日に何本も映画を観る僕ですが、昔は映画をまともに観ることができなかった。ドラマを一気見したりもしなかったし、それこそ活字も苦手で。本もめったに読まなかったんですよ。カルチャーに対しては“堅くて難しい”ってイメージがあって。子供の頃はそこに魅力を感じることができなかった。その代わり、夢中になったのが空手。あの頃は、体を動かすとか、走るとか、サッカーとか、ウルトラマンとか、そういう“難しくない”ことが好きだったんです。

そんな僕だけど、絵本だけはよく読んでいた。『バムとケロ』シリーズとか、『かばんうりのガラゴ』とか好きな絵本がたくさんあって。それを開いていたのは主に図書館。あの頃は毎週末、家族揃って図書館に行くのが松村家の恒例行事で。各自、好きな本を読んで自由に時間を過ごしていたんです。両親も兄も読書しているのに自分だけ外で遊ぶわけにもいかず、読み始めたらいつの間にか楽しくなっていた、……それが僕の絵本にハマったきっかけ。

好きな絵本はたくさんあったけど、何度も何度も開いたのが、安野光雅さんの『旅の絵本』。この本には世界の美しい景色が描かれているんだけれど、よく見るとその中に有名な童話の登場人物が隠れていたりするんです。そのユーモアや遊び心がすごく楽しくて……。そういえば僕、小学生の頃、活字は苦手なのに星新一さんの小説だけは読んでいたんですよね。星さんの作品もやっぱりユーモアやウイットに富んでいて、そこが大好きだった。僕の物ごとを少し斜めに見るクセや、自分だけの個人的な楽しみを愛するサブカル傾向は、この頃に培われ始めたのかもしれないですね。余談ですが、僕、『月刊コロコロコミック』から『週刊少年ジャンプ』に移動するっていう、漫画における“男子の王道ルート”も通らなかった人なんですよ。なんだろう、『ジャンプ』って絵柄や登場人物が大人っぽいじゃないですか。『コロコロ』作品に多い三頭身っぽいキャラクターが好きだった分、その世界に僕はついていけなくて。今でこそ『HUNTER×HUNTER』とかを好んで読むようになったけれど、やっぱりずっと変わらず好きなのは『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』、三頭身の世界なんです。

自分だけの何かが欲しくて本に、映画に、音楽に、アートに僕はむさぼるように手を伸ばした

僕がちゃんと本を読み始めたのは2015年、SixTONESを結成した年でした。結成は大きなチャンスだったけど、同時に、自分の力量を試される場面も増えていって……。いっぱいいっぱいになってしまった僕は、とにかくひとりになりたくて。周りをシャットアウトする口実のひとつとして、読み始めたのが小説だったんです。かばんから単行本を取り出して開けば“自分だけの世界”が生まれる。めったに誰も話しかけてこないし、楽屋でみんなが遊び始めても加わる必要がない。湊かなえさんのミステリー作品をはじめとする話題作を中心に、僕は何冊もの本を読んでいった。そして、そこでやっと気づくわけですよ。読書の面白さに。

今振り返ると、あの頃は「うまくいかない」と感じることが多くて。そこから抜け出したくて、僕は“ほかの人にはない自分だけの何か”を必死に探していたんだと思う。あとは、「グループを結成したんだからもっと頑張らなきゃ」とか、「自分のキャラクターをもっと出さなくちゃ」とか、焦る気持ちもあったんでしょうね。だからこそ、寝ている時間すら無意味な時間に思えて。もっともらしいことをすることで自分を安心させたくて、本を読み、映画を観て、音楽を聴き、美術館へ通い……。本に限らず、さまざまなカルチャーへむさぼるように手を伸ばした。その頃は「事前知識がなくても、誰に何を言われても気にしない、大事なのは臆せず触れること」と信じて、構えてしまわずに好きな作品を見つけては「あ、これ超おいしい、また食べよう」くらいの感覚で、少しずつ自分のカルチャー畑を耕していった。そして気づけばいつの間にか本も、映画も、音楽も、アートも、僕の大切な趣味になっていたんです。

カルチャーの面白さは “一対一”で向きあえること

いろんなカルチャーに興味を広げていく中で影響を受けたもののひとつが、大学の西洋美術の講義。西洋の芸術に触れるその講義ではフランス映画をはじめとする海外のカルチャーも扱っていて。好奇心を刺激された僕は日本芸術の授業も受けるように。そこから人形浄瑠璃や日本映画の面白さにも目覚め、大好きな岩井俊二監督の映画にも出合うことができた。大学時代、常に“ぼっち”だった僕の居場所といえば、キャンパス内にあるパソコンルーム。そこではあき時間に好きな映像作品を観たりすることができるんだけど、講義の合間に1コマあきができたりすると、90分の映画を観たりしてね。

当時、僕は仕事現場でも大学でもひとりだった。自ら望んでひとりになり、自分自身と向きあうかのように、本や映画や音楽やアートと向きあっていた。僕にとって、カルチャーの魅力はきっと“一対一”であることなんだと思う。僕らがやっているライブもそうだけれど、エンターテインメントは表現する人がいて、お客さんがいて、成立するもの。それはそれで素晴らしいことだけれど、カルチャーはつくり手が自分の作品を生み出しさえすれば成立するというか。僕たちが勝手に見て、勝手に感動して、自分なりの解釈を持ち帰る。誰かと共有しなくたって、宝物のように自分の中にそっとしまっておけばいい。その“一対一”な感じが僕は好きで。これからも、自分の中にある自分だけの宝物を増やしていけたらいいなって思っているんです

取材・原文/石井美輪 ※MORE2023年9・10月合併号掲載