12星座全体の運勢

「うさんくさいものの中に本質は隠されている」 

すでに季節は春から初夏へと変わりつつありますが、そうした地上の移り変わりを決定づけるかのように、天上の世界でも4月17日には冥王星を強く巻き込む形でてんびん座の満月を迎えていきます。 

前回の記事ではこの満月を太陽と月の観点から「(今自分が演じている)人生というお芝居を客観視していくこと」がテーマと言及しましたが、今回は改めて冥王星に着目してこの満月のタイミングにどんなことが焦点となるのか、改めて触れていきたいと思います。 

というのも、太陽と月はそれぞれ人間の意識と無意識、公的生活と私生活、自信に充ち溢れた大人としての自分と子供の頃から変わらない素顔の自分とを表し、満月の時期というのは日ごろ抑え込んでいる月の側面、すなわち無意識や本能的衝動が勢いを増して表に現れてきやすいタイミングとされていますが、今回はそうした満月のエネルギーが「根源的な変容」を司る冥王星へと一気に注ぎこまれていくのです。 

17日の満月時において、冥王星はやぎ座28度(数えで29度)にあり、サビアンシンボルは「紅茶占いをしている(飲み終わった後のティーカップに残った茶殻で運勢を見ていく)女性」となります。 

これはあらゆるものの中に深い現実のサインを見出す透視者(クレヤボランス)の能力や、自分が生きている世界を“外”から見つめ直すための通過儀礼を象徴しているのですが、冥王星は嫉妬や憎悪といった暗くネガティブな感情がうごめく心の奥底の「闇の世界」を象徴する惑星でもありますから、今回の満月では多くの人が自分がどうしても囚われてしまう執着を見つめ直していくことになるかも知れません。 

ただ、冥王星は個人の無意識というより、世代的な傾向や長期的な潮流を表しますから、 個人的な人生史をいたずらに掘り返そうとするよりは、普段なら意識することもないような古い歴史や過去の出来事などに意識のベクトルを向けつつ、本当に大切な思いやこだわりを改めて探してみたり、時代精神の底に流れている気分のようなものを感じ取っていくことで、常識とされている現実への視点を調整してみるといいでしょう。 
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双子座(ふたご座)

今期のふたご座のキーワードは、「集合体としての“あなた”」。

ふたご座のイラスト
「世界に一つだけの花」という歌が流行ったこともあり、いつからかこの社会ではほかに一つとして同じものがないオンリーワンの個性を宿した“個人”というものが尊ばれ、そうであらねばならないし、そうなることができるのだと信じられてきた節があります。 
 
しかし、こうした自己へと投影される「私だけの」個性というイメージは、必然的に対となる他者へ投影される「あなただけの」魅力や、その関係性へ投影された「あなたでなければならない」運命といったイメージを現実にも要請するにいたって、実際のところ自分だけの問題で済んでいた時よりずっと決定的に破綻をきたしてきたのではないでしょうか。 
 
しかし、一方でそうした破綻はうまく転じさえすれば、一面的な相手像へ抱いていた個人的な欲望から脱し、他の誰かとも共有できる広がりを持った愛へと開かれるきっかけとなり、ひいては、どこでも切っても同じ「唯一無二のわたし」が出てくる金太郎飴のような気味の悪い「オンリーワン」信仰を成仏させていくきっかけにもなるのかもしれません。 
 
そんなふうに思えたのは、プルーストの『失われた時を求めて』のリレーエッセイ企画のうちのひとつであった小川公代さんの「可塑的な時間感覚と愛」のなかで、主人公である語り手が、関係が泥沼化していたアルベルチーヌという恋人の事故死の知らせを受けて以降、どのような心境の変化を辿ったかを巡って書かれた、次のような一節と出合ったから。 
 
彼の心を救ったのは、アルベルチーヌがじつは「唯一の存在」ではなく、「多くの部分、数多くのアルベルチーヌに分割されていた」という気づきであった。つまり、彼女という一個の人間は、「数多くの人間を含んでい」たことになる。」 
 
アルベルチーヌは生前からとある同性愛者と親しい関係にあり、語り手はその疑惑で苦しんでいたのですが、死後に彼の元へ届いた手紙や打ち明け話を見聞きし、自分でも疑惑の実際を具体的に想像していくうち、語り手は「突如として異性愛的な価値から解放され」、恋人を彼女と親しい関係にあった娘たちと共にひとつの「集合体として見なす想念」が広がっていったのだそうです。 
 
語り手がさほど苦しまなかったのは、おそらく「べつの知覚を持つがゆえにべつの欲望をいだ」いていたかつての彼が今では別のものを欲望するようになっているからだ。すなわち、同性愛を受け入れられなかった語り手は、アルベルチーヌの快楽のイメージを介して変化していったのだ。」 
 
同様に、4月17日にふたご座から数えて「変容」を意味する8番目のやぎ座の冥王星を巻き込む形で満月を迎えていく今期のあなたもまた、『失われた時を求めて』の語り手が引きずりこまれた、破綻と転調のはざまの領域に立たされていくことになるかも知れません。 
 
 
参考:小川公代「可塑的な時間感覚と愛」(『文藝春秋 2021年10月号』収容) 
12星座占い<4/17~4/30>まとめはこちら
<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ