誰かになりたいと思ったことはない。自分はひとりだけだから。

「祖父も父も一度は歌舞伎役者をやめたいと思ったことがあるらしいんです。特に祖父は、耳の後ろのおしろいが取れていなかったことを学校でいじられたり、大学受験の最中に廊下までマスコミが押しかけたり。それがイヤでけっこう悩んでいたらしいですね。僕たちの時代は学校でも『すごいね』と言ってもらえたりするし、とにかくお芝居が好きなので、その気持ちを支えにやってます」
8月は1カ月間、歌舞伎座に出演。中学生らしい夏休みの想い出は「家で花火をしたくらい」だったとか。
「お芝居をすることがいちばん楽しいので、海に行くとか、そういうのは疲れます(笑)。勉強も好きじゃない。勉強が世界になければもっとのびのび生きられるのにって思います。お芝居のほかには仏像や『スター・ウォーズ』にハマったこともあるけど、今好きなのは欅坂46。最初はプロデューサーの秋元康さんをすごいなと思ったのがきっかけです。どうしてもそういう部分を見てしまうので、子供らしくないって言われます」
歌舞伎の枠にとらわれず幅広いジャンルで活躍する先輩も多い中、思い描く新しい染五郎像は?
「同世代の人に歌舞伎をごらんいただく入口をつくりたいです。そのためにも新作をつくりたいと思っていて。何本か脚本を書いているんですけど、仕掛けを考えても猿之助のお兄さんや猿翁のおじさまがすでにスーパー歌舞伎でやっていらっしゃるものばかり。実際、猿之助のお兄さんに『悔しいです』って言いました」
おっとりした受け答えからはナイーブな印象を受けるが、内側でメラメラ燃える歌舞伎への愛と俳優としての強いプライドが垣間見えた。憧れの人についても、「誰かになりたいと思ったことはありません。誰かに似てるって言われるのもイヤなんです。だって自分はひとりだけだから」との答えが。11月は京都四條 南座に出演。圧倒的ポテンシャルを秘める頼もしいプリンスの魅力は、生で観てこそよくわかるはずだ。
いちかわ・そめごろう●2005年3月27日生まれ、東京都出身。2009年6月、歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で四代目・松本金太郎を襲名し4歳で初舞台。2018年1〜2月、歌舞伎座で八代目・市川染五郎を襲名した。11月には改修工事を終え3年ぶりに開場する京都四條 南座に出演する
京都四條 南座『當る亥歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』
