1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、2017年までに延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。

そして、恋愛やセックスがいっそう多様化している現在。MORE世代の体験談を取材した新「モア・リポート」をお届けします!

「まだ結婚しないの?」日本の生きづらさ

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ーDATAー

辻岡さん(仮名)30代 /既婚/主婦

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コロナ禍で夫のアメリカ赴任が決まった

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――現在はアメリカ在住ですか?

はい。2年前に夫のアメリカ赴任が決まり、駐在妻(※パートナーの海外赴任に帯同する女性のこと)になりました。

移住先は、アメリカの中では比較的治安の良い場所でしたが、それでもアジアンヘイトや襲撃事件がある場所でした。(以下、辻岡さん)


――2年前といえば、コロナ禍ですね。

そうですね。海外赴任になると聞い時は戸惑いました。当時は飛行機も減便されている時期で。日本になかなか帰ることができない状況でしたね。


――アメリカの生活はどうですか?

孤独を感じることが多いです。

夫には仕事関係の知り合いがいますが、私は知り合いがひとりもいない状況での移住だったので、夫しか喋る相手がいなかったんです。慣れない生活の中でストレスが溜まり、夫婦喧嘩が増えました。

でも、夫と喧嘩してしまうと、喋る相手が誰もいなくなってしまうので、移住してしばらくたってからは、イラっとすることがあっても我慢するようにしていましたね。

キラキラだけじゃない、駐在妻のリアル「マの画像_2

――そういった“孤独”は、海外移住してから強く感じるようになったのでしょうか。

そうですね。日本にいる時は、ひとりでいても孤独に感じることはなかったし、むしろひとり人でいることが好きでした。

でも海外だと私ひとりでは対処できないことが多いんです。たとえばトラブルが起こった時。

日本だと私ひとりで状況を説明すれば、対処してくれますよね。だけど、海外にいると、怒りやクレームの感情をしっかり伝えないと対応してもらえないんです。アメリカの人たちは日本に比べてみんな感情表現が豊かなので、私が一生懸命説明しても対応してもらえないことが多々ありました。

ひとりで対処しきれず、夫に頼るのですが「仕事以外のことは妻に任せる」タイプなので、そういう場面でも夫婦喧嘩になることが増えましたね。


――言語以外のところで苦労されたのですね。

そうですね。海外で苦労することとして「言語が通じない時」を思い浮かべる人が多いと思います。だけど言語以外のコミュニケーションで苦労することのほうが圧倒的に多いんです。“自分ひとりじゃ何もできないもどかしさ”を感じる場面は多々あります。

専業主婦は何もできない”もどかしさ”

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――ほかに”もどかしさ”を感じるのはどんな時ですか?

駐在妻は家族帯同ビザで海外に滞在します。公的な手続きはすべて夫同伴で、どれもひとりではできません。

保険番号や免許証を取るにしても、夫の会社を通さなければいけない。今まで日本では専業主婦でもできていたことができなくなったんです。日本では夫の分の公的手続きもすべて私がやっていたし、夫はまったくしてこなかったので、アメリカに来てからは手続きがうまくいかなくなることも多かったですね。

先日、タレントの鈴木ちなみさんがシンガポール駐在妻となり「夫の付属品のように感じた」という記事が話題になっているのを見ましたが、すごく共感しました。

専業主婦ひとりじゃ何もできない。私も「夫の付属品」のように感じることがあるんです。


――キャリア絶頂期に専業主婦になった方は、より一層そう感じる場面は多いのかもしれませんね。

そうですね。私は駐在になる前に仕事を辞めて専業主婦になっていたので、まだギャップは少ない方かもしれません。駐在妻になるのを機に、日本での輝かしいキャリアをなくなく捨てて、専業主婦になった女性も多くいます。


今までは、夫婦で別々の財布だったけど、専業主婦になって夫と同じ財布になり、「今日どこか行ったの?」とか「何を買ったの?」と夫に逐一聞かれてストレスが溜まる、と言う声も聞いたこともあります。


――駐在妻になると、日本でのキャリアは諦めなくてはいけないのでしょうか。

基本的には辞めるケースが多いと思います。夫の会社が帯同家族の就労を禁止する“暗黙のルール”が存在するパターンもあるので。

もちろん妻が仕事を辞めても生活できる充分な給料が夫に支払われている前提ではあるのですが、これが「夫の付属品になった」と強く感じる場面かもしれません。

実は、仕事を辞めて駐在妻になった人たちの間で”マルチビジネス”が流行っているんです。

駐在妻の間で流行っている“マルチビジネス”

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――マルチビジネス、ですか?

はい。駐在妻の先輩から「海外に来ると、紫外線が強くて肌荒れするよね?」と、おススメの化粧品を紹介され、それをまた新人の駐在妻に紹介して……という形です。いわゆる”ネズミ講”。インスタ経由で勧誘を受けることが多いですね。

日本にいる専業主婦よりも駐在妻の方がマルチビジネスに手を出している割合は多い印象です。

――それはなぜですか? 自分で稼ぎたいからでしょうか。

はい。自分自身で稼ぎたいということもあります。でももう一つは“孤独”だからです。

海外赴任で孤独を感じている時に、駐在妻の先輩から「これ、おススメだよ!」と商品を紹介される。もしこれが日本なら「怪しいな」と思うかもしれません。でも「アメリカではこれが流行っている」と言われると「そうなんだ」とすんなり受け入れてしまいます。

さらにマルチビジネスでできたコミュニティに居場所を求めるようになるんです。そう考えると孤独を感じやすい駐在妻とマルチビジネスは親和性が高いのだと思います。


――辻岡さんも勧誘されたことがあるのですか?

はい。数えきれないほどあります。駐在妻の方々と仲よくしよう! と頑張っていたのですが、そういうこともあって今は少し距離を置いています。

――キラキラした駐在妻のイメージとは全く別の世界があるのですね。

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同調圧力を感じない“生きやすさ”も。

――ここまで駐在の大変さを伺ってきましたが、逆に良かったことはありますか?

アメリカは同調圧力を感じないという点で、暮らしやすいのではないかと思います。


たとえば日本だと「結婚はまだ?」と言われ、結婚すれば次は「子供は?」と言われる。専業主婦になれば「働かないの?」と言われる。最近多様性が認められてきたとはいえ、やはりそういう風潮は根強く残っています。


でもアメリカに来てから現地の人に、そういうことを一度も言われたことはありません。日本よりも個人の生き方を尊重してくれるような気がしています。


たとえば、週1だけ仕事がしたいと思っても日本だとなかなか採用されませんよね。パートでも週3は最低出て……みたいな。

アメリカだと、子育てをしながら週1出て、細く長くキャリアを続けるということが可能だし、そういう女性も多い。さらに週1の仕事でも「誇りをもって仕事をしている」と言える環境があります。日本だといろいろと引け目を感じてしまうけど、アメリカの人々はそういうところはとてもフラットです。


――働きやすさや子育てという点では、暮らしやすいということですね。

そうですね。私は働けないし、現状子どもが欲しいと思っていないので、恩恵を受けることはあまりないのですが。日本ももっと多様性が認められる国になったらいいなと感じています。

取材・文/毒島サチコ